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2025年11月23日日曜日

香天集11月23日 中嶋飛鳥、春田真理子、高野旅愁、安部いろん他

香天集11月23日 岡田耕治 選

中嶋飛鳥
一坪の紫苑の庭を残しけり
うなづくも眼を敗荷へ遊ばせり
家系図に犬の名のあり小六月
神の留守木彫の熊を撫でておく

春田真理子
竹篭は秋の山路となりにけり
銀杏の翠を食みて鎮もりぬ
掘り起こす白き腹あり秋蛙
つややかな蕪ぐき添え朝の膳

高野旅愁
正月の淑女素顔の誰かである
雪白く心を染める過去の街
庭の木に初雪の笠童を訪う
もう誰も来ない道一人冬日

安部いろん
桐一葉音極限値として残る
凍蝶に看取られひとつ世が終わる
乗客の眼にのみ映る寒の海
倒木に完全な影枯蟷螂

宮下揺子
イヤフォンをはずし拡がる秋の空
返り花取り越し苦労ど真ん中
羊雲要らぬことまで思い出す
青空よ泡立草の哀しさよ

中島孝子
どぶろくの御神酒注ぐ音列をなす
瓶傾けとくとくとくと今年酒
満月や列の提灯包み込み
月射すや救急診の椅子硬し

石田敦子
湯上りの釣瓶落しの速さかな
カーテンを全部開いて今日の月
取り取りの秋の草花テーブルに
万博の閉幕となる天高し

半田澄夫
ウイスキーロックコトリン夜長し
日銀の日の丸垂れる秋旱
秋澄めり先ずは鳥居で一礼し
遠太鼓秋本番へ突き進む

川合道子
向かい合う鳥の如しや秋の雲
風爽かトランペットの響く森
初めてのホールインワン蜻蛉舞う
無花果の初めて作るジャムの味

はやし おうはく
風の盆白い項が闇に映え
熱帯夜何を思いて「夏は夜」
秋の空俳句を捻る日々の糧
虫の音に思い出のせていたりけり

〈選後随想〉 耕治
うなづくも眼を敗荷へ遊ばせり 飛鳥
 うなずいてるけれど、敗荷の方に視線を遊ばせているという表現が面白い。うなずきながら、敗荷に目を向けているということだと、自分自身の行為と受け取ることがでる。一方、相手がうなずいているんだけれども、どうもその視線は敗荷の方を見ているようだ、そう読むこともできる。ちょっと気になることがあって、そのことから離れられなくなることがある。そんな中でも、受け答えはしなくてはならない。生きていく上では、こういうこともあるよな、そう思わせてくれる、飛鳥さんの表現だ。

銀杏の翠を食みて鎮もりぬ 真理子
 銀杏は漢方でもあるそうだが、銀杏をパキッと割って薄い皮をはがすと、鮮やかな緑が出てくる。それを食べることによって鎮もっていく。漢方ということだから、自分の体調を落ちつかせるという意味もあろうが、自分の気持ちを鎮めていく、そんな感じがする。「翠」という、この字を選んだ感性、真理子さんに拍手を送りたい。
*飯盒を逆さに蒸らす落葉かな 岡田耕治

2025年11月16日日曜日

香天集11月16日 三好広一郎、柴田亨、平木桂子、湯屋ゆうや他

香天集11月16日 岡田耕治 選

三好広一郎
色なき風と案山子の体臭と
白菜の尻冷え性のアンバサダー
直角に冬日を受けるレゴの街
小春日やフランスパンの中に銃

柴田亨
柔き皺あり祖父の菊作り
むらさきに枯れ残る紫蘇祖母の庭
桐島です遺言ひとつ芒原
行く秋や街の灯包む藍の空

平木桂子
懐にパンドラの箱曼珠沙華
身に入むや母の遺せし備忘録
ぽろぽろと金木犀の遺言状
芭蕉忌や道に迷へる旅となり

湯屋ゆうや
体操の足が揃わぬ青蜜柑
音のなき給水タイム金木犀
まんなかの砂地あかるし運動会
大南瓜けふは歯医者に抗いぬ

佐藤静香
遠稲妻砥石を濡らす漢ゐて
我が恋は箱に納めし秋扇
菊人形身八つ口より暮れかかる
待つといふ愛しき刻や菊香る

嶋田静
秋霖や手鏡の紅濃くしたり
秋澄むや視界は空と海ばかり
小春日や会いたき人の遠く在り
動かずに鉄道を撮り秋日濃し

上田真美
クレーンが描ける未来空高し
生きているこの身このまま新走り
後の月柄杓でひとつ掬い取る
落葉舞う還暦の今これからに

橋本喜美子
高山の風に枯れゆく吾亦紅
群れゐても静かなりけり曼珠沙華
秋風や窓の形に吹き募り
其処此処に居場所を見つけゑのころ草

松田和子
初時雨秘仏観音邂逅す
暮早し小走に来る母の顔
稲雀農園にある荘園碑
看板や牡蠣の匂いを漂わせ

上原晃子
色づきし小さきままの柿の実よ
柵を曲げ糸瓜三本ぶら下がる
仲秋の月が私を覗きけり
だんじりの屋根を跳ね舞う手と団扇

楽沙千子
秋晴を流れていたり笛太鼓
雨粒が車窓を叩く秋の暮
藪陰にまぎれ込みたり秋の蝶
労いの声に弾めり月明り

東 淑子
霧の中深く沈める母屋かな
秋風にお腹ざわざわしてきたる
夕暮に台風の雨降り続く
台風圏奈良の女として生きる

市太勝人
秋暑しブルーインパルス飛行せず
秋祭紅白の幕線路まで
秋風にうまく出来たよパン作り
秋の風万博ロスの人ばかり

〈選後随想〉 耕治
色なき風と案山子の体臭と 広一郎
 「案山子の体臭」が一句の焦点だ。無生物であるはずの案山子に「体臭」という、生々しい感覚を見出した。この体臭は、藁や土、日差しに焼かれた布、あるいは雨に濡れた匂いが一体となった、案山子という存在そのものが発する匂いであろう。これを強調するために、秋風を表す「色なき風」を敢えて持って来た。これは、季語を二つ使わないと表現できない。焦点となる案山子の体臭を浮き立たせるために、あえて色なき風を持ってきた、そんな広一郎さんの工夫がよく伝わってくる。

柔き皺あり祖父の菊作り 亨
 亨さんに「ラドーの腕時計」という文章がある。(「しきじ・にほんご天王寺文集 第3号」)それによるとこの腕時計が「おばちゃん」から贈られたのは、「おじいちゃんはずっと鶏を飼って暮らしてきて、腕時計など身につける習慣はなかった。70歳になっておばあちゃんと続けてきた養鶏場をたたみ、ようやく生活にゆとりができ始めた頃だった」とある。おそらく、この菊作りもそのような頃からだろう。同じ文章には、「おじいちゃんのごつごつした腕」という表現もあり、「柔き皺」とは逆の手や顔の皺だったと想像できる。それを「柔き皺」と感じさせたものは何だろうか。大阪句会で、久保さんが「作者のおじいさんに対する愛情なんだろう」と解き明かした。
*輪になって語るとき来る冬鷗 岡田耕治

2025年11月14日金曜日

「香天」81号本文

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香 天 koten   2025年11月   通巻81号
目次

招待作品           2 仲 寒蟬、河西志帆
代表作品           6 岡田耕治
同人集           10 50音順送り 本号は「わ」から
                綿原芳美、浅海紀代子ほか
同人集五句抄        26 石井 冴、神谷曜子ほか
耕治作品を読む       28 鈴木茂雄
同人作品評         30 森谷一成、谷川すみれ
講演・鈴木六林男の筆あと  34 岡田耕治
作品鑑賞          43 西本君代
香天集十句選        44 安田中彦、夏 礼子
柳田国男と俳諧連歌     48 森谷一成
エッセイ          56 渡邉美保
香天集  岡田耕治 選      58 平木桂子、渡邊美保
玉記 玉、三好つや子ほか
選後随想          88 岡田耕治
句会案内          94

2025年11月9日日曜日

香天集11月9日 三好つや子、佐藤諒子、秋吉正子、牧内登志雄ほか

香天集11月9日 岡田耕治 選

三好つや子
平凡を全うしたる穂紫蘇かな
歯を抜かれ何だかひょんの実の気分
花煙草遊びの音のしない町
小春日の空気ふくらむ卵菓子

佐藤諒子
獅子四頭それぞれに舞う秋祭
坂道のちょっと日溜り金木犀
行く秋の交差している鳥の声
ひりひりと落葉うず巻く風の音

秋吉正子
両腕にワクチン注射冬に入る
くちてゆく空家今年の柿たわわ
発表会終わるも同じ秋の空
タウン誌に名を見つけたと青レモン

牧内登志雄
青女踏み百度参りの満願す
伸びをして五尺五寸の日向ぼこ
ガザまでの遠き道なり神の旅
煮凝の角の崩れる屋台酒

西前照子
十五夜の姿を見せぬ薄の穂
ハロウィンの雨に降られし南瓜かな
子芋むく月に一品お供えと
秋深しワールドシリーズ終わりなば

川村定子
扇風機横向きしまま止まりけり
立冬や空清浄の往診日
痩せた手で冷房を切り暖房へ
車座の炎に落ちる雪一片

大里久代
吾亦紅こうありたいと思う花
分けくれし大根の葉を和え物に
椿の実弾け飛んでは種さらす
道に沿う黄花コスモス風起こる

北岡昌子
秋日和山門描く五年生
立待月木木の間を見えかくれ
後の月池の水面を揺れ動く
亀岡のコスモス畑急ぎおり

〈選後随想〉 耕治
平凡を全うしたる穂紫蘇かな つや子
 穂紫蘇は、その香りが料理の脇役として使われ、目立つ存在ではない。しかし、夏に青々と葉を茂らせ、秋には花を咲かせ実を結ぶという、植物として当たり前のことを果たす姿は、まさに「平凡を全うした」ことの象徴だ。平凡という言葉は、つまらない、取り立てて言うこともない、といったネガティブなニュアンスで使われることもあるが、この句では、それを「全うしたる」と表現することで、静かで満たされた心の有様を肯定的に表現している。華々しい活躍や波乱万丈の人生ではなく、ごく当たり前の人生を、静かに、しかししっかりと生き抜いたことへの、敬意が感じられる。穂紫蘇は、つや子さんそのもののように感じられるが、その地道な努力が評価され、この度、第4回鈴木六林男賞の大賞を受賞した。おめでとうございます。
*団長のエールのはじめ紅葉散る 岡田耕治

2025年11月2日日曜日

香天集11月2日 辻井こうめ、森谷一成、渡邉美保、玉記玉ほか

香天集11月2日 岡田耕治 選

辻井こうめ
学校田溢るるほどの鳥威し
ヨーグルトたっぷりかける熟柿かな
遠近の煙のしづか葡萄畑
かまきりの身構へてゐる屍かな

森谷一成
石棺に綱の突起やそぞろ寒
舎利は溶け遺る石棺冷まじき
鑑識を誑かすなり烏瓜
身代を提げて出でゆく暮の秋

渡邉美保
芋虫を咥へなほして雀飛ぶ
遠き木に日の差しているむかご飯
花薄抱へ石橋渡りけり
いささかの諍ひもあり茸汁

玉記玉
秋蝉の声まっすぐに溺愛す
おとといの余白を動く秋の蛇
怖い夢甘い夢にも鮫のいて
冬泉の音を静寂と申すべく

谷川すみれ
落ちつかぬことに海鼠を食べてから
我という病のありぬ冬三日月
確執の骨壺を手に寒桜
花八手ハンドクリーム多いめに

夏礼子
木机のガレット匂う蕎麦の花
重ならぬ音のぽつりと残る虫
己が影踏み秋の蟻急ぎけり
先駆けの白き一本曼珠沙華

柏原玄
ふかし藷今も飢えあり戦あり
竜胆の寄る辺のひとつ石仏
墨の香を色紙よろこぶ良夜かな
天界の星座をおさめ露の玉

高野旅愁
やっと翔ぶ鳥いて秋の日暮道
秋冬やあちらの闇とこちらの闇
秋の月詠むこともせず冬に入る
青年がよぎる自転車飛燕かな

前藤宏子
患わず老いゆく秋の祭の灯
栗御飯母に似ること老いること
わらべうた茜に染まる鰯雲
抜殻をかじっていたり秋の蜂

宮崎義雄
一盛の光の濃ゆき秋刀魚かな
曼珠沙華折られ散らばるままにあり
風爽か白き腕を振りつづけ
秋日和波止の釣果を見て廻り

松並美根子
愛の満つつくつく法師鳴きつくし
一隅は時を同じく曼珠沙華
心地よき静けさのあり萩の雨
マスクして顔半分を秋の色

田中仁美
フランスのオリーブ千年秋深し
キルギスの白い蜂蜜秋の声
イエメンの魔法のランプ秋点る
ミャクミャクが消えてゆくなり星月夜

岡田ヨシ子
先生に薬を拒否し秋遠し
ケアハウス今日間食の青蜜柑
ベランダに日光を受け冬近し
冬の空見知らぬ人に頼みけり

安田康子
秋刀魚にも男前あり一尾買う
子らの声すとんと消える秋の暮
ヒーローはブリキ製なり秋高し
聴き役に回っていたりホットティー

森本知美
大銀杏降らす一枚栞とす
昇る月独り占めする橋の風
思い出を見ている浜辺秋の風
夕飯を友と味わう良夜かな

河野宗子
名月の外に出て見よと電話あり
鍵盤に手をのせている夜半の秋
黒枹杞茶たちまちに湯に秋の色
ぞうさんの像が迎える秋の院

目美規子
口の中種いっぱいに通草食む
後の月政治の流れ混沌と
秋桜古刹の歴史紡ぎけり
しみじみと湯気の香れる冬瓜汁

吉丸房江
蒔いてすぐ大地押し上ぐ双葉かな
コンバイン稲穂の海をかき分ける
耕して大根を播く卒寿なり
カシャカシャと命弾ける種袋

木南明子
花紫苑老人たちの集まり来
廃屋の垣根を越える石榴の実
庭中に紅萩乱れ人を恋う
纏いつく枯葉よ人の世のごとく

金重こねみ
湯殿より月を愉しむ午前四時
月兎見つけるために目を凝らす
友の推す本に挑みし秋灯下
内緒ごと聞いているなり螢草

〈選後随想〉 耕治
かまきりの身構へてゐる屍かな こうめ
 「身構へてゐる」と「屍」、動と静の共存が、生と死の厳しさを際立たせている。目の前にあるのは、生前の激しい闘いや生存競争の記憶をそのまま残し、まるで時が止まったかのように固まってしまったかまきりの屍だ。その姿勢からは、最後の瞬間まで生きようとする意志、あるいは最後までそのポーズを崩さなかったかまきりの矜恃のようなものさえ感じられる。「身構え」という一瞬の姿が、「屍」となって永遠に固定されてしまったことに、生命の真実を想起させる。命は必ず尽きる。しかも、いつ尽きるかは分からない。では、この命をどう生きるのか、そのことをこうめさんは問いかけているにちがいない。
*預かりしポシェットにある紅葉かな 岡田耕治