香天集5月4日 岡田耕治 選
玉記玉
追う蛇と追われる蛇よ同じ縞
中指は天道虫に与えけり
それからは翡翠いろの薬指
梅干して掌に傷ありしこと
渡邉美保
汐まねき母はつの字に腰を曲げ
砂浜の砂の段差や鳥雲に
朧夜を傾眠の母運ばるる
花の夜の口開いてゐる旅鞄
森谷一成
万博開幕
春疾風巨大リングの宙へぬけ
ふくらみの斜めを歩み春の昼
日は遅し急ぐ旅でもないわいの
緋牡丹の肩甲骨を愛し居り
辻井こうめ
糸桜一貫校の真ん中に
一握の二上山の蕨かな
一合を傾けてゐる春の宵
和やかなテーブルの縁麦酒注ぐ
佐藤静香
傾城の稀有なる縁飛花落花
天道虫飛ぶや地軸の傾きぬ
千本の桜を沈め抱擁す
入学すやましたくんはしゃべらない
谷川すみれ
空井戸の小石の行方花筏
私より先に揺れパンジーの泥
やみくもに広がっている白梅
柳の芽はじめはキャッチボールから
田中仁美
合格の知らせが届き花の冷え
木蓮のつぼみ真っ直ぐ天を向き
寝る前にいつまでも泣き夢見月
春キャベツ口にべったり離乳食
岡田ヨシ子
車二台客三人の花見かな
つつじ咲く道に迷いしことのあり
天草干す古里思うケアハウス
ケアハウス長い廊下に蚊一匹
吉丸房江
孫が子を抱き上げており五月晴
青空の蓮華畑が下車誘う
かぐや姫探しに来たり竹の秋
思い出を呼び集めたりクローバー
川端伸路
こどもの日魚釣れないまま無言
家よりも大きくなって鯉のぼり
川端大誠
じんわりと夕日を浴びる夏の海
川端勇健
着港を迎えて揺れる初夏の海
〈選後随想〉 耕治
中指は天道虫に与えけり 玉
天道虫が中指に止まって這い出すのは、ありそうな光景。それを「与えけり」と表現したところがいい。与えるというのは、相手のためになることを提供するという意味があるので、天道虫に自分の中指を提供したという感覚、共生の感覚とでも表現できるかも知れない、そんな感覚が残る。天道虫は、ちょこんと指にとまり、やがて飛び立っていく。その短い触れ合いの瞬間が、玉さんの心に温かい記憶として残っているような一句だ。
*和歌山市にて。
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