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2025年10月12日日曜日

香天集10月12日 三好つや子、春田真理子、宮下揺子ほか

香天集10月12日 岡田耕治 選

三好つや子
鰯雲率いる少女一輪車
体内のどこからとなく秋の声
  伊丹吟行
酒の香にふと木患子の零れけり
虫しぐれ記憶ときどき嘘をつく

春田真理子
言の葉のたゆたふ水面もみじかな
口紅は薄紅色に日日草
ため息をこぼしていたり白茄子
撫で洗ふシンク脳は白露せり

宮下揺子
手繰り得ぬ過去のありけり烏瓜
みな違う風鈴の音や青い空
頑なな心をほどき秋桜
反り返り世間見ている曼殊沙華

佐藤諒子
白雲に近き段畑曼珠沙華
花笠も女子も男子も秋祭
休暇明短パンの足ぎゅっと伸び
野仏に出会う山道露けしや

松田和子
女郎花星を見ている里帰り
白く青く浜木綿の実の波に浮き
秋の海空港眺め小鷺立つ
涼新たパンパスグラス真白なり

橋本喜美子
新涼や輪島の箸を客人に
夕暮の往来忙し白木槿
せせらぎと囁き合へる蜻蛉かな
虫の声階下より風運びくる

山彦
隠れんぼの息止めて見る女郎蜘蛛
赤松の林も秋に入りけらし
雑踏に捨てることあり天高し
監視カメラ映り月夜の道路鏡

楽沙千子
気兼ねなく五体をのばし虫の夜
何も手に付かず更けゆく初嵐
輪投げする体力のあり敬老日
ぐずる子に与えてしまい氷菓子

北橋世喜子
送風に逆らっている目高たち
秋暑し水道水は湯となりぬ
ペン先にしみ込んでいる虫の声
長月や簡単服に袖通し

中島孝子
郡上踊り下駄の音響く昼夜かな
鬼灯の朱を抱えて急ぎけり
満月を網で捕るから待っていて
いつしか秋草むらの声にぎやかに

半田澄夫
炎昼や忠魂塔の無言なり
新涼やパレットに溶く空の色
秋雨や近道塞ぐ潦
御堂ゆく歩幅にゆとり秋涼し

上原晃子
大花火泉南の夜を轟けり
花火見し人のあふれる岡田浦
夜の道心おぼえの稲匂い
白木槿三つが朝の光受く

石田敦子
落し物見つからぬまま秋来たる
束の間の一心不乱盆踊
無花果を剝く指先の不器用さ
編笠を目深にしたり風の盆

東 淑子
夏草や日照り続きを枯れもして
灯籠の後ろを見れば黒い海
台風の来る度温度上がりけり
天の川今日を大事の強さにて

川合道子
大空に向かい踏んばる大向日葵
煮るよりも焼く方が好き秋なすび
露草や野道きらりと開きたる
新しき里山ができ猫じゃらし

はやし おうはく
蜩は過ぎゆく夏をつかまえる
応援歌わき立つ雲に姿変え
愛でる人少なき夜を冴える月
老い枯れて雀の遊ぶ案山子かな

市太勝人
終戦日球児たちへのメッセージ
優勝に間に合うように鉦たたき
限定の月見バーガー食べまくり
行けなくなる予約していた葡萄狩り

〈選後随想〉 耕治
鰯雲率いる少女一輪車 つや子
 小学校の校長をしていたとき、長い休み時間や昼休みに子どもたちがよく一輪車に乗っていた。初めは鉄棒を持ってバランスを取っていた子も、またたく間に「見て見て上手になったでしょ」と言うように駆けていく。広がる秋空の下、子どもたちが軽やかに一輪車を操っていく姿は、清々しく、生命力に満ちた風景として心に残っている。特に一輪車は女子が好んで乗っていたが、彼女たちは鰯雲を率いているというこのつや子さんの表現に、雲の広がりと一輪車の動きがつながっていくような感覚になった。
*もう少し空腹でいる朝の露 岡田耕治

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