2025年6月8日日曜日

香天集6月8日 佐藤静香、三好つや子、春田真理子、宮下揺子ほか

香天集6月8日 岡田耕治 選

佐藤静香
片恋の畳めぬままの白日傘
みなもとは青嶺の雫長瀬川
入鹿の血飛び散りし野を水鶏笛
潜みたる軍靴のありぬ梅雨鯰

三好つや子
絵日傘をくるり傾け母の羽化
栗の花未明の雨の匂いあり
夜遊びや浴衣ぬけだす金魚たち
夏蜜柑二つ長居をして仏間

春田真理子
蓬野よ山も霞の向こうにて
煩悩のひとひらずつを木蓮華
晒されて温厚になる山の独活
先住を主張している狸かな

宮下揺子
フィクションとフェイクの間養花天
麗しき目鼻の僧や柿若葉
豆皿に春のあれこれ昼餉かな  
夏落葉先に勝手に逝きし人

秋吉正子
鳥巣立ち静けさもどる隣かな
犬の名を聞き合っている五月雨
退院し長い五月の終わりけり
日日草小さき芽を出し何を待つ

川村定子
病める身に一つたまわる桜餅
我が庵寄りて離れて笹鳴ける
花の絵を一枚残し退院す
俯瞰する新樹の渓を雲渡り

北岡昌子
牛蛙姿を見せず鳴いており
五月の夜負けてもダンス甲子園
鬼やんま小さくなって飛び交いぬ
友と行く藤のカーテン通り抜け

大里久代
五月雨や八十年の追悼式
カーネーション赤とピンクの赤強し
黒目高腹に卵をくっつける
接木して胡瓜の苗に南瓜が

西前照子
ずんだ餅奥歯外れてしまいけり
三人の頭に菖蒲巻きつける
オープンのカーネーションに足止まる
蕗の葉が揺らしていたり表裏

〈選後随想〉 耕治
片恋の畳めぬままの白日傘 佐藤静香
 「片恋」は、一方の側からだけ誰かを恋しく思うことで、若い頃のそれはやるせないが、年齢を重ねると、この日傘のように畳めぬままでもいい、そのように感じるようになる。もっと言えば、片恋のままであることを愉しむというか、別にそれを畳むようなことをしなくてもいいとする、そんな静香さんの心持ちに共感する。「畳まぬまま」だと、自らの意思が働くが、片恋ゆえの不安定さや傷つきやすさのゆえに、「畳めぬまま」なのである。
*しきじ・にほんご天王寺の学習者の作品。

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