〈俳句物語〉岡田耕治
縄電車しろつめくさを終点に 夏礼子
この春、八〇を過ぎた母と同居を始めた。そのため、勤めていた都市部の幼稚園を辞め、実家から自転車で通える認定子ども園に移った。前任は市立だったが、ここは市立幼稚園の校舎を利用した学校法人の運営である。
母との同居で一番助かっているのは食事だ。子どもは予測不可能な動きをするため、勤務中はケガや誤飲、アレルギー対応など、一瞬も気が抜けない。以前は一人暮らしで、ついコンビニ弁当や外食に頼りがちだった。それが今、風を切って自転車を漕ぐこと十五分、家に帰れば母の手料理が待っている。これが、新しい職場で毎日をてきぱき過ごせる活力になっている。
前任と同じく、ここでも3歳児から5歳児の担任を受け持った。ただ、この園では3学年を一つのクラスにして教育・保育を行う混合クラスが三つある。最初は戸惑いがあったものの、すぐに3歳から5歳の子どもたちが共に学び、生活することの良さを実感するようになった。
子どもたちは園の隅っこの原っぱが大好きで、何も持たずに一時間でも二時間でも遊びに熱中する。今日、4人ずつのグループを作って、校舎から「縄電車」に乗って、しろつめくさが咲く原っぱへと出発した。
子どもたちは輪になった縄の中に入り、両手でお腹のあたりに縄を持つ。先頭の運転手は5歳児、間に3歳児のお客さん、一番後ろの車掌は4歳児だ。「ガタンゴトン」と口ずさみながら、みんなで息を合わせて歩き、時には走る。運転手役の5歳児が「右に曲がりまーす」と声を上げれば、後ろの子たちも一緒に傾きながら進んでいく。
以前の園は4歳児は4歳児だけのクラスだったので、子どもたちだけで息を合わせるのは難しく、私たちの誘導や声かけが欠かせなかった。ところが、この混合クラスでは、5歳児が自然に下の子たちを気遣い、リードしてくれる。4歳児はその姿をしっかりと見ていて、「来年は自分もあんな運転手になろう」と学んでいるのだ。
5歳児の「終点ですよ、みんな降りてください」という合図で、子どもたちは縄を離れ、しろつめくさで王冠を作ったり、四つ葉のクローバーを探したりと、次の遊びに夢中になっている。
子どもたちの様子を見に来てくれた園長先生に、私は問いかけた。
「3学年一緒の教育って、本当に素敵ですね。なぜ、公立ではこの制度を採り入れないのでしょう?」
園長は微笑んで答える。
「公立には、様々な『しばり』がある。それに、『成功体験』があるからね。人は、成功体験によって失敗する、と言われているわ。」
「それはそうかもしれません。私も以前は『次は、私が5歳児を持つんだ』とばかり思っていましたから。」
「その点、うちは失敗体験を大事にしてるから、子どものためにいいと思ったら何でもできるの。」