2020年5月30日土曜日

「全曲」12句 岡田耕治

全曲  岡田耕治

アメリカと中国の谷梅雨に入る
雨傘に日傘にもなる萌黄かな
初めての蚊にして大きすぎるほど
全曲をバッハとしたり籠枕
何時までも眠くならずに亀の子ら
極まりし色ほどきゆく薔薇かな
どこからも真ん中にあり立葵
悲しみを悲しみ竹が皮を脱ぐ
水打ってコンクリートを砕きけり
ショートパンツ俄に急を告げられし
忘れ去ることのよかりし牡丹かな
生物を無生物をや夏の月

2020年5月24日日曜日

香天集5月24日 石井冴、安田中彦、渡邊美保、三好広一郎ほか

香天集5月24日 岡田耕治 選

石井 冴
春眠の棚のゲバラを立たせけり
曽祖父の下駄の音来る蓬もち
芸をせぬ麒麟の舌のうららかに
野遊びが流れて来たり水時計

安田中彦
陽炎が少女となりて急ぎをり
水馬水面に時間とどまれり
鯉のぼり空に攫はれたくもあり
五月来る本の崩るる机上にも

渡邊美保
新緑へ吊橋渡り影法師
葉桜や舟は暗渠に吸ひこまれ
花巻の青嵐かくや賢治読む
藤の花恋文ならば巻紙で

三好広一郎
肉体は灰にはならず春の水
春の青無意識のまま枯れている
たっぷりと吸わせてこの子柏餅
脳の液状化春は別人に

谷川すみれ
扇風機新たな遠き風を呼ぶ
のうぜんのはるかにのぼりつめた空
水中花耳のように聞いている
このままでいいとあじさい黄土色

柴田 亨
うぐいすの声にしじまのあるみどり 
不自由を自由に変えて百物語 
懐かしき人を思えば春の星 
ホトトギスいま曙を支配せり

木村博昭
エンジンを噴かして過ぎる新樹路
煌めいて五月の空を飛んでいる
鯉幟こどもの居ない村里に
よく喋るいちごの並ぶ白磁かな

永田 文
青空のうかうか四月終りけり
鶯や読経に和していることも
園児なき園よパンジー笑いたる
歩きたし五月の風とハミングと
*岬町にて。

2020年5月23日土曜日

「詩片」12句 岡田耕治

詩片  岡田耕治

燕の子顔から顔へつながりぬ
緑さす水を一本たずさえて
浅くとも長く眠れり夏蒲団
夕立や初めて人と口を利き
絶え間なく水を点して祭の夜
短夜の夢の中から走り出す
灯明や五月の風に養わる
噴水を押さえ込みたる力かな
新緑のここを落ち着き所とす
冷蔵庫ドアに詩片の貼られたる
苦き日を西日のうちに送りけり
真上から泡立てて注ぎ冷し酒

2020年5月17日日曜日

香天集5月17日 加地弘子、砂山恵子、宮下揺子ほか

香天集5月17日 岡田耕治 選

加地弘子
いつまでも休みの延びて春炬燵
マスクして隣人と会う朧の夜
ひともとに鳥の影ある春障子
麦の秋不思議な雲を通しけり

砂山恵子
お互ひにひとり遊びや熱帯魚
ヒトいづれ海に戻ると平泳ぎ
列島をゆさぶつてゐる青嵐
子等の声聞きたくなりし卯月雲

宮下揺子
隣家まで3キロありて奢莪の花
コロナ禍の疲れ切ったるげんげ畑
ヴェニス産ガラスの馬や青嵐
つけ爪のひとつがとれるハルジョオン

嶋田静
賑わいを待ちいて城の八重桜
竹の子の頭についたままの土
花曇り行ったり来たりしておりぬ
特急のアンパンマンの笑顔来る

神谷曜子
健診のみどり子抱え新樹光
新緑の谷に入りてページ閉ず
春日傘回して脳を軽くする
外出の理由竹の子連れ帰る

嶋田静
一日に三ついいことチューリップ
春日傘からの合図と再会す
体ごと吸い込まれそう若葉風
薔薇の咲く家を廻りて回覧板

中辻武男
娘らの意向に合わせ母の日も
この暑さ富士の湧水身をこぼれ
子らが追う親が作りしシャボン玉
筍の味覚奮起を促がさる

*泉佐野市にて。

2020年5月16日土曜日

「止まらない時」10句 岡田耕治

止まらない時  岡田耕治

全力を尽くして逃げよ天道虫
夏兆す父のハーレーダビッドソン
夕焼や歩く力を残したる
声帯をなだめていたり冷し酒
止まらない時を止まりて時計草
さくらんぼ発熱の有無問われたる
自転車を走らせて来る日焼かな
やることになっているから水を打つ
悲しみのはじめに揺れてハンモック
山法師去りゆくことの残りけり

2020年5月10日日曜日

香天集5月10日 三好つや子、柴田亨、橋本惠美子ほか

香天集5月10日 岡田耕治 選

三好つや子
朧夜の踏んばっている父の肺
紫雲英野に前世のあり石眠る
春愁の出口を探すルーペかな
青蛙生まれながらの顔に禅

柴田亨
春の闇原始のいのち生命蝕む 
ほしあまたながれうみへときえるおと 
とどまりぬ春の時雨の梢にて 
春籠り寄り添うものは伸びをして 

橋本惠美子
啓蟄や合わせ鏡の奥に奥
パスポートの期限が切れて野に遊ぶ
時計屋のそれぞれの時暮れ遅し
往来の制限をして鳥帰る

小島 守
開店の花束にして放置され
草むしる人に気づかれないように
梅を干す越えてはならぬ国境
月涼し不通になりし人のこと

岡田ヨシ子
入学の言葉はインターネットにて
春マスク長持ちさせる口の飴
品切れの戦後の暮らし夏きざす
会う人はなけれど夏のマスク縫う

*大阪教育大附属天王寺中学校・高等学校にて。

2020年5月9日土曜日

「運転手」10句 岡田耕治

運転手  岡田耕治


まとまりのなくなってくるチューリップ

夏に入る鶴見俊輔定義集

子どもの日上手になって裏返り

空っぽの電車が音を立てて夏

いつもより距離を増やして麦の秋

麦の秋どこにも触れず戻りけり

何もかも一緒に混ぜて夏野菜

三食に配りおきたるキャベツかな

蝙蝠に非常事態の続きけり

夏の星タクシーを出る運転手