香天
「香天」は、岡田耕治が編集する俳句誌です。
本誌は季刊ですが、香天集、代表作品、俳句鑑賞などを毎週アップします。
2026年9月27日日曜日
香天集9月27日 木村博昭、夏礼子、谷川すみれ、柏原玄ほか
2026年9月20日日曜日
香天集9月20日 柴田亨、加地弘子、釜田きよ子、三好広一郎ほか
2026年9月13日日曜日
香天集9月13日 三好つや子、牧内登志雄、山内宏子ほか
2026年9月7日月曜日
夏惜しむ解のない本立ち並び 玉記玉
〈俳句物語〉 岡田耕治
夏惜しむ解のない本立ち並び 玉記玉
彼は大学の非常勤講師を務めている。博士課程修了から5年。18歳人口の減少に伴い正規ポストへの道は狭く、複数の大学を掛け持ちして講義をこなす毎日は常に綱渡りだ。
非常勤講師の契約は、1コマ単位であり、例えば半期(4月から8月)に1コマ(15回)を担当したとしても、月々の手取りはわずか3万円程度にすぎない。しかも授業が行われない3月と9月は無収入になるため、生活を維持するためには前期・後期ともに最低でも週7コマ以上を死守しなければならない。
「自分は、いったい何のために教えているのだろう」
提出されたレポートには、生成AIで書かれたと確信できるものが溢れていた。誤字脱字はなく洗練されているが、書かれているのは抽象的な総論ばかり。誰からも非難されない「安全策」の結論が並ぶ。魂の通っていないレポートをめくり、点数をつける作業は、自身の人生をすり減らすかのようだった。
このままでは、教える側も学ぶ側も干からびてしまう。そう感じた彼は、この期末の課題を大きく変更することにした。
「将来自分が授業を作る上で、探求し続けたい『問い』を100字以内で表現し、15回のどの学びに着想を得てその問いに至ったのかという背景を400字以内で記述しなさい」
この試みは、想像以上の変化をもたらした。提出された一枚一枚のレポートから、学生たちの生の体温が伝わってくるようになった。インターネットの海に漂う「過去の既製の答え」ではない、回答する学生自身がこれから向き合っていこうとする、切実な「未来の問い」が見えてきたのだ。
「過疎地のバスが廃止になる場合、そこに住むお年寄りの『移動の自由』をどう保障していけばいいか」
「アルバイト先で不当な労働を強いられた時、私たちは法をはじめ、どのような手立で自分を守ることができるか」
拙くとも、必死に頭を悩ませて紡ぎ出された言葉たち。それらを読んでいると、彼自身の胸の奥にも、眠っていた熱い火が灯るのを感じた。レポートを採点する時間は、いつしか彼にとって、自らの授業をより良くするためのヒントに満ちた対話の時間へと変わっていった。
彼の専門である「公共」という科目は、「正解のない社会課題に対して、自分ならどう判断するか」を主体的、対話的に考えるためにある。答えがないからこそ、彼の質素なアパートの本棚には、哲学的思索の本、社会の対立や倫理的葛藤を扱う本、先端科学や社会課題の境界線を扱う本が、ぎっしりと、少し誇らしげに並んでいる。
本棚を眺める彼の目には、かつて研究を志した頃の純粋な輝きが戻っていた。学生たちの問いに励まされるようにして、彼は久しぶりに、自分のために買っておいた本を開く時間を作り出すことができそうだ。
夏惜しむ解のない本立ち並び 玉記玉
香天集9月6日 玉記玉、森谷一成、佐藤静香、釜田きよ子ほか
2026年8月30日日曜日
香天集8月30日 渡邉美保、中嶋飛鳥、辻井こうめ他
2026年8月27日木曜日
香天本誌84号
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