【俳句物語】岡田耕治
燃え尽きし星もあるべし春の空 茨木和生 句集『さやか』より
七十五歳のおじいちゃんは、元高校の物理の教員だった。六年前におばあちゃんを亡くしてから一人暮らしをしている。さやかは小学五年生で、春休みや夏休みなどに、兄と一緒におじいちゃんの家で二、三泊して過ごすのが何よりの楽しみだ。
おじいちゃんの書斎は、さやかのお気に入りの場所だ。端の玉をぶつけると反対側の玉がカチーンと飛び出す振り子。光を当てるだけでガラス瓶の中の風車がクルクルと回り出す不思議な道具。そんな「なぜ?」を掻き立てるものがあふれている。
今晩、おじいちゃんは、窓際にあるどっしりとした望遠鏡にさやかを招いた。
「これは遠くを見る道具であると同時に、『過去を見るタイムマシン』でもあるんだよ」。
おじいちゃんは、春の夜空の「北斗七星」から「しし座」にかけてのエリアが「宇宙ののぞき窓」と呼ばれていることを教えてくれた。
「今日この窓からは、いま自分たちがいる銀河ではなく、ずっと遠くの『別の銀河』が見えるんだ。
「今日はなぜ、遠くの星が見えるの?」。
「天の川の方向、つまり夏や冬の夜空を見ると、銀河の星やガスが多すぎて、遠くが見通せない。でも、春の夜に北斗七星やしし座がある方向は、天の川銀河の真上にあたる『薄い部分』なんだ。だから、邪魔されずに、はるか遠い別の銀河がよく見えるんだよ」。
さやかは、おじいちゃんがセットしてくれた望遠鏡を覗き込んだ。
「おじいちゃん、写真で見るような渦巻きなんて見えないよ。なんだか、小さくて淡い、光のシミみたい」。
「そのぼんやりした光のシミの中に、太陽のような星が何千億個も詰まっているんだ。その光は、数千万年という長い旅をして、今、さやかの目に届いたんだよ。さやか見ている光の中には、実はその星自体がすでに消滅してしまっている光もあるんだ」。
さやかは不思議そうな顔で尋ねた。「星は消えてしまうとどうなるの?」
「星が一生を終えて燃え尽きると、そのかけらが宇宙に散らばる。その星のくずが集まって、新しい太陽ができ、地球ができ、そして長い時間をかけて私たちの体が作られるんだ」。
「じゃあ、燃え尽きても死ぬことはないのね」。
