2023年12月31日日曜日

香天集12月31日 浅海紀代子、森谷一成、谷川すみれ、木村博昭ほか

香天集12月31日 岡田耕治 選
浅海紀代子
秋風に聞き流すことありにけり
脱走の猫がもたらす草虱
溜息に揺らぐ香煙秋ともし
老いらくを残し木枯去りにけり

森谷一成
迷彩の腹這う方へ草もみじ
軟骨を繕いにくる冬の蝶
あらたかな戦火想望六林男の忌
先の無きZなりしが年用意

谷川すみれ
足元に日差し来ており竜の玉
松の枝の捩じれてもどる淑気かな
外の音聴き分けており十二月
なお続く六林男の世紀霜柱

木村博昭
汚れたるホワイトボード暮早し
割烹着姿凛凛しき大根焚
牛小屋にお産の気配クリスマス
AIの書く恋文や雪女

辻井こうめ
追焚きの遠き日々なりちちははよ
血縁の疎らとなりぬ花柊
木槌打つ爆ずる小豆の日向かな
枯蟷螂舗装道路の凹凸に

佐藤俊
柿落葉人それぞれの時間切れ
冬蝶の翅の記憶を消しにいく
メール打つ隣席の魔女の老眼鏡
腑分けして大歳の日を曝けだす

岡田ヨシ子
冷たき手合わせる願い地蔵さま
冬の月あの世の主は我が家にも
故郷を離れていたり煮大根
太陽に感謝している冬の山

吉丸房江
古漬に生姜を刻み仲良し会
抜けたげな曾孫の乳歯福笑い
食べるとは命いただく雑煮かな
餅を焼きのりに包んで生醤油を

川村定子
破れ椅子移ろってゆく冬の雲
蹲踞に客への椿添えにけり
銀杏降る道に手を取る夫婦仲
湧き水の溢れ落葉の向きを変え

西前照子
鱧料る最後に指を噛む力
冬に入る最晩年のストレッチ
やり残すこと多くなり十二月
雪の中負けずに燥ぐ小猫かな
*大阪市内の研修会にて。

2023年12月24日日曜日

香天集12月24日 中嶋飛鳥、夏礼子、湯屋ゆうや、柏原玄ほか

香天集12月24日 岡田耕治 選

中嶋飛鳥
綿虫の湧く日夕刊休みの日
一葉忌編み目を拾う後戻り
愛日の舌にてぬぐう針の傷
山茶花の散るを聞きおり待っており

夏 礼子
波音の来し方に寄る石蕗の花
牡丹鍋不意に悪女となる素振り
ポケットの一つは寝床楝の実
木枯一号魚市の列縮まりぬ

湯屋ゆうや
手袋がきのふの橋に架けてある
封筒は氷の匂い鷦鷯
蒟蒻として人の胃を温める
煮凝が暗き戸棚の奥にある

柏原 玄
短日の刻奪い合うおさなどち
追憶の良きことしきり実南天
オリオンや小さくなってゆく自由
冬林檎剥くできるだけ細く長く

上田真美
できるだけ小春の日向通りけり
帰途につく寒月光に抱かれて
本心を聞くことになる年忘
カーディガンあえて明るい色選ぶ

加地弘子
色鳥来飴職人の指の先
凍雲の不思議な形日が射すよ
こんな味噌欲しかったんよ風呂吹の
小夜時雨隣り同士を繋ぐ板      

釜田きよ子
かの地には地雷がありぬ霜柱
お茶漬けの匂い時雨の来ていたる
盛り塩の尖り衰え冬の雷
山茶花を誉めて行きけり郵便夫

春田真理子
銀杏降る日母の枕で眠りおり
踏石に紅葉を拾ふ裸足かな
少年の発つ日近づく草の絮
自転車の空回りする野分かな

安部いろん
天狼へテレポート「死者の書」の恋
朝時雨ブラックボックスのメール
叛逆に吊られた男は木の葉髪
寒の鉄棒共鳴の極限値

嶋田 静
自分らしくあること難し冬薔薇
紅葉散るお地蔵さまの肩に手に
山眠る机上に谷川岳の石
霜受けし菜のやわらかく茹で上がる

楽沙千子
掛け換わる造り酒屋の薬玉
暇乞いして肌をさす冬の月
サーカスの気力をもらう冬帽子
雲間より冬日の当たり万歩計

森本知美
ミサイルの空に無色の冬の月
かぶら漬け添え大き目の握り飯
持ち呉れし友の香りがする柚子湯
如来像笑う向こうの大紅葉
 
松並美根子
疲れ取る湯加減にして寒椿
皇帝ダリア庭の主役となりにけり
冬に入る思い出ノート書きつづり
夕暮れの家の灯りに山眠る

前藤宏子
多国語の雑踏にあり年の市
争いは真っ平ですと冬帽子
犬逝きて翁ひとりの日向ぼこ
白壁と別の白さの花八手

木南明子
山奥のそば屋たわわに実南天
山盛りの花梨のそば屋繁盛す
庭隅に石蕗の花咲く耳そうじ
急銀河わたしの生きる場所あるの

丸岡裕子
龍田姫白い財布の似合う人
足細き鳥小走りに銀杏散る
葉牡丹や一枚となるカレンダー
皿に開けマーブルチョコは秋の色

金重こねみ
熊穴に入るに入れない空腹(ひだる)かな
殊の外甘きみかんよ見切品
時雨るるや読みかけの本また閉じる
卓上に欠かせぬみかん山盛りに

目美規子
古民家の軒に一棹つるし柿
パッチワークのごとし全山冬紅葉
本閉じて休める眼冬ぬくし
ミルク飴なめずに噛めり小春日和

安田康子
ゆるぎなき色となりたる実南天
寒椿指のこわばり何のその
侘助やこの世で会えぬ人ありぬ
サウスポーは父親譲り冬うらら

大里久代
大根の煮物酢の物母の知恵
木枯や古き我が家を吹き通す
シャッターに収めるコウノトリの冬
寒椿赤やピンクを散らしけり
*岬町小島にて。

2023年12月17日日曜日

香天集12月17日 渡邉美保、柴田亨、三好広一郎、砂山恵子ほか

香天集12月17日 岡田耕治 選

渡邉美保
カトラリー静かに磨くレノンの忌
煮魚の肝に照りあり初時雨
風邪きざす子の長電話受けてより
血流のととのつてくる大根焚

柴田亨
冬鵙の一声として訃報来る
励ましは一音にありモーツアルト
森の声虫たちの声落葉積む
銀の鈴零れて弾む枯野行

三好広一郎
柿の葉に包めるほどの柿の夢
草の種自由奔放に火宅
寒椿親の犠牲に落ちていく
性格の不一致第九は歌わない

砂山恵子
さびしいと言うて日記を買いに行く
冴ゆる夜や音外れたるオルゴール
駅弁の微かな温さ十二月
冬至粥母は卒寿で息災で

神谷曜子
袴着や脱ぎ散らかしていなくなる
夢の中括り上げたる古日記
続かない日記また買う誕生日
枯れ残るメタセコイアが風をよぶ

上田真美
秋彼岸ひとり勤める日となれり
切なさの詰まる我が身を抱く月夜
名月の酒にのまれている本音
栗ご飯まずは香りを満たしけり

古澤かおる
雑巾を全て絞って十二月
煮凝やコース料理は十二品
日の当たるこの枝いつも帰り花
雪吊や博物館の休みの日

河野宗子
山眠る耳の奥より友の声
めぐりズム着けて眠りし炬燵かな
ソプラノで歌えば部屋の冷え渡る
霜の朝リップヒールをふるわせて

田中仁美
冬花火キッチンカーの晩ごはん
冬帽子探す引越段ボール
熊よけの鈴を鳴らせりサイクリング
夫が着る母の形見のちゃんちゃんこ

秋吉正子
石蕗の花去年の日記読み返し
年詰まる三カ国語のアナウンス
ごみに出す赤いサンタの包装紙
新しい楽譜をもらい春隣

野間禮子
寒さ飛ぶデイサービスのバスを待ち
待ち合わすマフラーのなか若返り
年の豆匂う母なり下駄響く
一株をもらう水蓮赤燃ゆる
*岬町小島にて。

2023年12月10日日曜日

香天集12月10日 玉記玉、三好つや子、岡田ヨシ子ほか

香天集12月10日 岡田耕治 選

玉記玉(12月)
寒雀この世の石に触れに来る
黒馬を日差が跨ぐ十二月
漏刻即ちひとすじの月光
ポインセチアの芯よ黄昏の街よ

三好つや子
さっきまで月光だったカトラリー
綿虫のそれはしずかな母音かな
眠らない街の匂いよポインセチア
画数のどこか足りない冬の蝿

玉記玉(11月)
放課後の花梨捥がれている私
ハイヒールの音が氷柱となってゆく
エクレアの旨寝をしたる臘八会
青銅器の底紀元前の寒泉

岡田ヨシ子
病院のコートファッション楽しみぬ
冬空へ誘われているノックかな
コーヒーを飲む古民家の小春日に
鉛筆やかじかみし手を走らせる

大里久代
紅葉の話から入る同窓会
周年の航空写真秋の空
秋の風私の頬を撫でていく
ご機嫌な友から便り秋の宵

西前照子
秋祭笛太鼓聞く涙かな
雨合羽引く手の重き宵祭
金木犀匂う方へと姿追う
長生の童子に変わる運動会

野間禮子
朝露の道長くなるランドセル
萩のもと飯盒飯の美味いこと
後の月老いて語らう友のあり
一歩二歩飯盛山の御来光

勝瀬啓衛門
眠る山寝息は風の音ばかり
冬北斗柄を傾けて星降らす
冬ぬくし暫くカフェの止まり木に
しんなりと干大根の細い脚

川端伸路
十五夜のこの輝きをわすれない
栗ごはんだけを食べても美味しいよ
鈴虫は鳴き始めると終わらない
帰ったらこたつに入ってゆっくりと

川端大誠
グランドの落葉集める木とんぼ

川端勇健
銀杏散る間に見える日ざしかな
*米子市にて。

2023年12月3日日曜日

香天集12月3日 森谷一成、谷川すみれ、辻井こうめ、木村博昭ほか

香天集12月3日 岡田耕治 選

森谷一成
うそ寒の釣銭つかみ馳せゆけり
雪隠の光つらぬき塵おどる
傘骨を打上げてゆく初しぐれ
官邸へかぼちゃを納め開戦日

谷川すみれ
疲れないほどの明るさ石蕗の花
とつとつと大きな窓の木の葉降る
思春期の設計図なり万華鏡
立冬の動けば動く鯉の群れ

辻井こうめ
空っぽとなりし家中秋の声
秋気澄むコロボックルの国嘗て
ましぐらにマリーゴールド黄の愁ひ
控え目に吠ゆる番犬石蕗の花

木村博昭
何処より添水の聞こゆ手合い前
掌を悦ばせたる林檎かな
抱えられ蹴られラグビーボールかな
冬晴や糸を通さぬ針の穴

久堀博美
飲むほどの事でもなくて風邪薬
コスモスにかどわかされし女かな
色鳥来水面がふわと傾きぬ
踏み惑う夢の中まで花野かな

佐藤俊
冬ぬくしひと言多き神のいて
地球儀をぐるぐる回し拗ねてみる
冬晴の小悪人の背透けて行く
おそろしや猫も地球も風邪をひく

河野宗子
飛び回る落葉追いかけ来たる客
娘からのスリーマー着て友と会う
帰り花わたしではない厚化粧
先生の殺陣の振る舞い秋を切る

田中仁美
矯正のワイヤー軋む冬の朝
八十路なお落語を演じ秋日和
ミッキーのカチューシャ被り冬銀河
不整脈はじまっている夜寒かな

垣内孝雄
蝦蟇口の小銭を増やし年の市
灯台に白きポストや小六月
返り花かれこれ十年君と僕
手を引かる昼の鳴滝大根焚

吉丸房江
運動会なぜか涙の流れけり
二度三度火元確かむ紅葉かな
卒寿なる同窓会の冬帽子
戦争の根を断ち給え熱田宮

牧内登志雄
鰰のほふと崩るる炭火かな
ひと筋の涙のとかす別れ雪
冬ざくらひとひら落とすうなぢかな
軽四輪山と白菜積まれけり
*ホテルアウィーナ大坂にて。