2018年12月31日月曜日

「竜の玉」12句 岡田耕治


竜の玉  岡田耕治

両の手と背中の荷物年詰まる
遅く来てゆっくり帰る牡丹鍋
柚子湯出て肩甲骨を浮き立たす
スタートは電気で走る時雨かな
円形に坐れば見えて雪の花
焼酎の湯にのど飴を含みおり
十二月六林男に習う箸の向き
関東煮儲かりますかあきません
順番に思い出したる海鼠かな
改札の正面で待つ冬銀河
外套や別れのハグを長くして
竜の玉言葉がうまく出てこない

☆「香天」代表作品にお付き合いいただき、
ありがとうございます。つつがなきご越年を。
*岬町小島にて。

2018年12月30日日曜日

香天集12月30日 石井冴、森谷一成、谷川すみれ他

香天集12月30日 岡田耕治 選

石井 冴
雑学のうしろから来る大根焚
遠近を失いかけて日記買う
アロエに花百歳は隣にも
まほうびん冬銀河から持ち帰り

森谷一成
紅葉と黄葉の水しがらみぬ
深秋の木漏日おちて黄金なり
めまぜして経済をよぶ神無月
傾くや曲りの駅の開戦日

谷川すみれ
白い花から春の日のさざなみ
凧ここは地球というところ
満開の桜は羽毛抱かれる
一年生どうにも眠い鉛筆だ

澤本祐子
百段の歩幅の合わぬ冬紅葉
沈黙も一つの答え冬林檎
大根炊眼鏡くもりて口とがり
ストーブの奥にはいつもわらべ歌

西本君代(12月)
木菟と昼寝からもどる私と
日記買う石をひろって磨くため
冬の雨みんなの寝息近きこと
毛糸編む定年までの日を数え

浅海紀代子
少年の折紙無限冬銀河
口癖の「ヨイショ」の続く十二月
年の果母が時時居なくなり
シクラメン一人暮らしを灯しけり

西本君代(11月)
生姜湯や用多き日の句点とす
雪の花守るもの居て守られる
冬銀河道着着ること終わったのだ
足早に街へ散りゆき冬銀河

中濱信子
飛び石の一つひとつに秋深む
遠近法逆遠近法山眠る
鉄塔の常より高し山紅葉
花舗の店ふくらんで来る十二月

坂原梢
生きることむずかしくなり冬椿
いくつかの夢のかないて寒昴
冬空を佇んでおり時刻表
ポインセチア壁紙にある日の匂い

北川柊斗
うごかざる京の臍石冬の底
息白し服の色目の深まりて
カフェバーのテラスに憩ふ冬帽子
コンテナにのぞく錆止め冬ざるる

古澤かおる
十二月家具屋を歩き疲れたり
聖夜待つ色とりどりの紙コップ
冬の滝悪天候を味方とす
藁を打つ平らな石と木の小槌  

越智小泉
里の香を四角に蜜柑届きけり
もの忘れ増やしていたり冬芒
柚子風呂に息災の皺伸ばしおり
裸木となりたる枝よ天を指す

永田 文
日に当てて梔子の実の朱ふかむ
ちろちろと眠りをさそう榾火かな
好む人思い柿干す日和かな
冬天をそのまま沼に蒼湛ふ

*岬町小島にて。

2018年12月27日木曜日

鏡餅どこに置いても鏡餅 柿本多映

鏡餅どこに置いても鏡餅  柿本多映
「俳句」一月号。搗き上がった餅を大きな丸い形にした時から鏡餅は一家の中心を占めるようになる。床の間に坐り、年末年始の親族を迎え、親族の去っていった静かさを見つめている。子どもの頃、あんな大きな餅をだれがどうやって食べるのだろうと、よく思いながら正月を過ごした。松過ぎ、黴を包丁で落とし、父がどんど焼きの日であぶってきた鏡餅を小さく切って、小豆粥に入れて食べると、一家の正月にピリオドが打たれる。鏡餅は年年小さくなり、やがてパックに入ってしまい、私の心配も、黴も、どんどの火も必要なくなったのだが。
*三重県伊賀市立上野東小学校にて。

2018年12月24日月曜日

「約束へ」15句  岡田耕治


約束へ  岡田耕治

木枯のはじめに名前覚えけり
平日が始まっている霜柱
雑踏を泣き止まぬ子の十二月
侘助やそのことばかり喋りたる
熱燗を満たしていたり魔法瓶
約束へ薄いコートを選びけり
年の市アングル低く移りゆき
マフラーに深眠りたる睫毛かな
同じ肴注文をして年惜しむ
雑炊を作りみんなを励ましぬ
読むことを書くことに換え冬灯
冬日向ブーツの怒りやり過ごす
整えるよく歩く日の冬帽子
失敗を重ね布団に入りけり
ふる里の名から始まり初暦
*京都嵐山にて。

2018年12月21日金曜日

香天集12月23日 中嶋飛鳥、橋爪隆子、中嶋紀代子ほか

香天集12月23日 岡田耕治 選

中嶋飛鳥
手袋を失くせしところ鴉来る
冬りんご齧りて後を有耶無耶に
散紅葉掃くな掃くなと考(ちち)の声
鉛筆の素描に確と冬の声

橋爪隆子
コーヒーや冷たきミルク広がりて
いつきても同じ顔ぶれ温め酒
禅寺や紅葉散りゆく音といて
鯛焼の冷めて重さの加わりぬ

中嶋紀代子
日向ぼこするひよどりと眼を合わせ
冬林檎鳥たちのため枝に刺す
山茶花や散りたる後も地に咲きて
実南天祖母と子どものキャッチボール

木村博昭
冬霧や何か出来する予感
ユニセフが呼びかけている一茶の忌
石蕗咲いてことし鬼籍の誰彼よ
泣きじゃくるほかに術なし大枯野



*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年12月20日木曜日

夏木立先生のこと一入に  宇多喜代子

夏木立先生のこと一入に  宇多喜代子

 句集『森へ』青磁社。宇多さんの「先生」は、桂信子さん。夏木立が風に揺れる、その揺らぎの中に立つと、信子さんの在り方がひときわ心に湧き上がってくる。
 今年の八月、精神科医の香山リカさんと毎日新聞のシンポジウムでご一緒した。そのとき、香山さんは「40~50代でつまづいたときに自分の事を『これでいいんだ』と思える力を養う機会があれば、今もう少し楽に危機を乗り越えられるのになと、診察していて思うことがある」と話された。「先生がかけてくれた優しい言葉が30年後に生徒を助け、それが支えになることもある」とも。
 シンポジウムのあと、コーディネーターを務めてくれた新聞記者が、小学校6年生のとき、担任の先生が作文が上手だとほめてくれたことが今の仕事に繋がっていると回想した。私も、小学校1年生のときに机の上に乗って天井の飾りをしている先生に鋏を取ってと言われ、持ち手の方から先生に差し出したところ、「みんなこの鋏の渡し方見た!すごいね」とほめてくれた場面を思い返した。私の教員としての、また編集者としての、原点の場面である。他のことは何一つ覚えていないのに、この場面だけはいつまでも心の中に在る。
 上手だね、すごいねという「大きなYes」、そのままのあんたがいいよという「やわらかいYes」、いずれにしても先生からもらったYesは、その時は小さなことかもしれないが、やがて夏木立のように大きく育ってくる。宇多さんの書き方が、そう教えてくれている。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年12月18日火曜日

「来週のページ」15句 岡田耕治


来週のページ  岡田耕治

煤逃や運動靴を働かす
鯛焼を求め財布に残る金
来週のページを開き毛糸編む
カーディガンいま俳句だけすればよい
ぴったりと合う梟の目玉にて
冬座敷全アイデアを並べ置く
満腹に近づいている炭火かな
白息を確かめ合いて挨拶
股関節近づけている霜柱
病院のいつものガラス冬の雷
時雨傘倒れ大きな音を出す
蓮の骨第六感を働かす
紙コップほどの交わり年忘れ
冬蝶の所要時間を測りけり
心臓を温めている菟かな
*南海難波駅にて。

2018年12月16日日曜日

香天集12月16日 三好広一郎、砂山恵子、辻井こうめ他

香天集12月16日 岡田耕治 選

三好広一郎
陀羅尼助十粒ほどの忘年会
言いたいこと一度に言えぬ柿落葉
新聞を信じて河豚を食いに行く
皆香る洗剤を着るクリスマス

砂山恵子
吐く息を取り込む両手姫椿
何言はず何も言はれず熟柿吸ふ
雪催ひ窓に少女の影ひとつ
対座する卓上にある冬林檎

辻井こうめ
狛犬は日本狼冬に入る
炊立ての湯気まで旨し今年米
散紅葉親樹の影を負ひにけり
星結ぶ神々招くちゃんちゃんこ

神谷曜子
自画像の片目しぐれておりにけり
茶の花や一身上の都合とす
匂いなき花束求め歳の暮
閻魔堂のぞく背中に冬陽さす

中辻武男
整えてあれば山茶花今見頃
籾殻の尽きるを待ちて芋を焼く
靴音の遠ざかりゆく今朝の霜
紙袋増やしてゆけり十二月

岡田ヨシ子
臼と杵で餅を搗きたくなる黄粉
潮風の崖を染めたる石蕗の花
晴天の向こうは淡路太刀魚漁
冬凪の瀬戸大橋が目の前に

*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2018年12月11日火曜日

大根の届きて言葉増えにけり 大牧 広

大根の届きて言葉増えにけり 大牧 広
『朝の森』ふらんす堂。娘夫婦が大根や白菜を菜園で作っているので、我が家にも大根が届くことがある。すると、私と妻との会話が急に増える。「大きいのができたね」「毎日、菜園に行ってるみたい」「そう、子どもたちも手伝ってるのかな」「学校から帰ったら、収穫してくれるそうよ」「自分ちで育てて、自分が引いた大根、きっと美味しいやろうね」。句集の帯には、「敗戦の年に案山子は立つてゐたか」という句を挙げ、「戦争体験の一証言者として 老境に安んじることなく 反骨精神をもって俳諧に生きる著者の 渾身の新句集。」とある。そのような精神を前面に立てながら、しかし、このようなヒューマンな句が見られるところが、大牧広さんの何よりの魅力である。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年12月10日月曜日

「体重」15句 岡田耕治


体重  岡田耕治

息白し時刻通りに到着し
考えるほどに語らい冬木道
隣り合う位置を分け合い燗の酒
食道を過ぎて鮃の重くなる
ホテルからホテルへ移り冬銀河
ぴったりと地に濡れてある落葉かな
珈琲の砂糖とミルク冬ぬくし
ジャンパーに替えて会社を経営す
冴える夜の小さな記事にある矜恃
寒灯の画面から目を離さぬ子
寒風や互いの声を届け合い
映りたる影のからくり白障子
自らの顔に触れたる冷たさよ
新聞の五紙を並べて開戦日
数え日のこの体重を減らすこと
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2018年12月9日日曜日

香天集12月9日 渡邉美保、三好つや子、加地弘子ほか

香天集12月9日 岡田耕治選

渡邉美保
ポインセチアから尻取りを始めけり
木枯一号キューピーを横抱きに
枯蓮の先へ先へと行きたがる
牡蠣フライその言い分を聞いてゐる

三好つや子
冬の音探しに大工道具館
枯菊や手鏡ほどの小火だけど
牡蠣フライ若さむさぼる父と母
童顔の兵のくちびる冬苺

加地弘子
冬の蜂鈍き羽音を繰り返す
猪がふつうに橋を渡りおり
冬銀河乾きし靴の忘れられ
外灯の中を最もしぐれけり

橋本惠美子
朝寒し十年前と同じ服
トルソーの支柱現れ冬に入る
短日や踵の高い靴にする
縫い糸をカンとはじいて寒夜かな

中村静子
椋鳥を宿して樟の膨らみぬ
金賞の菊に集まる羽音かな
仲直りして鬼灯の首を揉む
掌に包む温もり雪蛍

坂原梢
乙女から先につまずき草紅葉
田の中の一軒に満つ冬日かな
媼二人犬を連れ合い小六月
冬帽子船の上から振られけり

宮下揺子
あっぱれな生き方秋の樹木希林
鶏頭を見て終焉に向かいけり
チェロを弾く大道芸やけやき散る
のどかとは思えぬ街の冬の虹

前塚かいち
十一月レンタル自転車は五時まで
琉球の朝顔の蔓切られゆく
オリーブの実は二十四の瞳かな
校門の閉められてよりオリオン座

羽畑貫治
ピン球や鈴なり光る山の柿
新海苔の流れて早し里岬
杖たたき橋を渡れば雀蜂
わが死後はここがよかろう野菊山

村上青女
いただきし栗きんとんの深き夜
いつまでも毛虫を育て酔芙蓉
紅葉の初宮参り多度大社
賑やかにグランドゴルフしぐれ来る

*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2018年12月7日金曜日

「最優先」15句 岡田耕治


最優先  岡田耕治

牛乳は冷たし珈琲は熱し
押し競饅頭先生を固めたる
子の声の集まり静む菟かな
食べてすぐ食べたくなって太鼓焼
地に立てて白菜の白払いけり
大根の漬物鳴らし合うしじま
決断の迫っていたるセロリかな
冬の芝最優先を後にする
演台や冷たき水を備えたる
古本の店主から見え雪降り出す
梟のついて回れる視線かな
十二月楽譜はどれも捨てないで
授かりぬ高野豆腐の戻る時
「呉春」から「秋鹿」にゆく寒さかな
この酒を全部飲もうと決まる雪
*池田市にて。

2018年12月2日日曜日

香天集12月2日 玉記玉、森谷一成、浅海紀代子ほか

香天集12月2日 岡田耕治選

玉記 玉
白鳥は対角線をさびしがる
言葉にはならない影を寒卵
約束のポインセチアから先生
デッサンの音の続きを初しぐれ

森谷一成
てぬぐいや美輪明宏に母が憑く
ヴィオロンの一斉にさくら紅葉かな
はんこ屋の六角しんと秋の暮
 万葉集巻第十六に酒屋の奴婢の労働歌あり
万葉に奴たわむる温め酒

浅海紀代子(11月)
月の秋嘘をつくことやめにする
為すことを後ろに置きて花野かな
隣人の旅立ちに遭う月天心
我が齢他人の齢冬に入る

澤本祐子
秋思止む感情線を握りしめ
引くたびに抽斗鳴って冬に入る
一生のあらましを聞く返り花
決断の直後の迷い冬林檎

砂山恵子
兄として二つに割りぬふかし藷
茶の花や産休に入る女性医師
巻き尺の戻りの早し暮早し
裸木や毎朝違ふ雲流れ

浅海紀代子(10月)
猫が入る話の続き秋日和
こおろぎや湯船に沈む傷の脚
わたくしが風になりけり芒原
雨音の身を透りゆく秋の暮

釜田きよ子
蓑虫の宇宙体験つづきおり
秋の蠅懐かしそうにやってくる
通草の実とろりと眠気誘いけり
芒原一人芝居の始まりぬ

中濱信子
長き夜の手の皺つまみ伸ばしけり
吾亦紅友は万葉集を解く
山茶花や登校の声よく透り
冬休ずば抜けてある孫の靴

 越智小泉
パスポート持たなくなりて鳥渡る
迂闊にも転びて木の実喜ばす
竹林にこもる風音冬に入る
木枯一号我が身こんなに軽いとは

永田 文
返り花淡き色にて葉陰より
左手と木の実と同じポケットに
漁村いま呑みこむように冬落暉
野良猫にコースのありて花八手
*奈良駅にて。