2017年5月30日火曜日

青空のまま暮れてゆく桜かな 大峯あきら

青空のまま暮れてゆく桜かな 大峯あきら
「俳句」6月号。桜の季節は、夕日に染まらずに暮れてゆく方が、桜本来のピンク色が際立つと、写真をしている同僚から教えてもらいました。私たちの眼は優れているので、光を調整しながら何時でもピンク色を感じることができるそうですが、カメラは青空のまま暮れてくれる方が、その美しさを映し出せる、と。しかし、どうすればこのようなシンプルなことを、だれも表現していない言葉で表すことができるのでしょうか。
*四天王寺の青空と白壁。

2017年5月29日月曜日

「一辺」15句 岡田耕治

一辺  岡田耕治

朝曇このままカフェに居ることに
炎天や見えずなるまで見送りぬ
一列に始まっているプールかな
ありあまる葉桜にして枝垂れけり
青葉闇本と対話をはじめたる
友情を行ったり来たり天道虫
昼寝より覚めて講義の終わりけり
誰からも見えないという木下闇
さくらんぼ一眼レフの近づきぬ
弁護士のバッジを前にビール飲む
最速の一辺にしてかたつむり
上からの目線を受けて天道虫
初蛍距離を保ってついてゆく
蚊遣香亡き人の声立ち上がる

水打って柔らかくなる背骨かな
*弁天町居酒屋「磯野家」。

2017年5月28日日曜日

香天集5月28日 玉記玉、澤本祐子、北川柊斗ほか

香天集5月28日 岡田耕治 選

玉記 玉
五月来る最も低い木のままで
目の合いし金魚もひとり遊びかな
蛍の乱ではないか一歩前へ
紫陽花はいつもモノクロ父の駅

澤本祐子
たんぽぽの上に拡げて設計図
金釦針箱にあり卒業す
決断のゆっくりと踏む春の泥
登廊左右の牡丹なだれけり

北川柊斗
言い過ぎる前に山桃ふふみけり
緑陰や千本鳥居風ぬける
糸雨のなか蜘蛛の囲の艶めけり
どくだみのゆるやかに闇おかしゆく

橋爪隆子
春日傘重ね合わせて立ち話
釜揚げのしらすのまなこ食べぬ子よ
春の夜空気の抜けたメロンパン
天あおぐ時は一人や桐の花

木村博昭
世界いま選挙の時ぞ葱坊主
熱やっと下がったという子供の日
酒少し控えておけり豆の飯
一匹の蟻のゆくえと老人と

古澤かおる
夏に入るボディソープの消費量
葉桜やうっかり口を開けて寝る
夏料理その真ん中の八宝菜
一つでも売りますという柏餅

越智小泉
酒好きの遺影に新茶供えけり
二人ずつ掛ける木の椅子若葉風
鯉のぼり丸のみにする風のあり
深深と雨後の四葩が彩極む

西嶋豊子
何時までも仔猫と遊び遊ばれて
名の知らぬ花に囲まれ耕しぬ
片蔭やなじみの椅子の二つ三つ
揺れはじむ梅花藻の花せせらぎに

*大阪狭山市の若い教職員に俳句づくりの授業をしました。

2017年5月27日土曜日

滝しぶき唯立つことも祈りなる 長谷川 晃

滝しぶき唯立つことも祈りなる 長谷川 晃
『蝶を追ふ』邑書林。滝の前に来てしぶきを浴びますと、それだけで許されるように感じます。晃さんは、そこから一歩踏み込んで、こうして唯立っていることが祈りなのだと。ということは、こうして唯生きていることも祈りなのだと。私たちは、様々なものから励ましを受けますが、この一句によって、私の生を肯定されたように感じました。さわやかな第一句集の誕生です。
*四天王寺親鸞上人像。

2017年5月26日金曜日

ぽつかりと淋しぽつかりと梅雨の月 仙田洋子

ぽつかりと淋しぽつかりと梅雨の月 仙田洋子
「俳句四季」6月号。ぽっかりは、大きな口をあけるさま。「淋し」だけだと紋切り型になりそうですが、もう一度「ぽつかり」を使って、「梅雨の月」も大きな口をあけている、と。そこに、「淋し」を相対化し、俯瞰する力を感じます。ああ、自分の心中はこの月のように大きな口をあけているのかしらん。
*上六句会会場のホテル、芍薬とかすみ草。

2017年5月24日水曜日

立夏かな巨船迎へに艀行く 森岡正作

立夏かな巨船迎へに艀行く 森岡正作
「俳句四季」6月号。艀(はしけ)は、字の中に浮くが入っているように、身軽に湾の中を走ることができます。大きな船を誘導するために、初夏の海を浮くように白波を立てて進むボート。どんな大きな船も、ここでは艀の指示に従います。このような爽やかさを、「わが道を行く」自選40句とともに味わいました。
*昨日、大阪狭山市内の教職員向けに「俳句づくり」の授業をしました。

2017年5月23日火曜日

巣の燕しずか私も静かにす 池田澄子

巣の燕しずか私も静かにす 池田澄子
「俳句四季」6月号。朝から燕のヒナが鳴き合いながら餌を求めていましたが、午後からは静かになりました。ヒナたちは眠っているのでしょう。親燕は近くでその様子を見ているのかもしれません。私たちが生きていくためには、活動して音を立てることも必要ですが、こうして静かにする時間も必要です。澄子さん、それを燕の巣が教えてくれるのですね。
*岬町小島にて。

2017年5月22日月曜日

「白墨」12句 岡田耕治

白墨   岡田耕治

麦の波うねる速さを保ちたる
元気あり最後にパセリ食べるほど
どこまでも百足虫百足虫になり続け
玉葱を吊すと生まれ風と影
灯をともす青葉の中のサキソフォン
夏の夜の夢を短く辿りけり
それぞれの風に名のあり夏の川
夏燕一羽のときを愉しめり
炎昼を切り抜いており旗の陰
黒日傘眼に力戻りくる
日焼顔帽子を強く被りけり
白墨の字のすべりよき五月かな
*「がんこ」阪急東通り店。

2017年5月21日日曜日

香天集5月21日 谷川すみれ、大杉衛、永田文ほか

香天集 岡田耕治 選

谷川すみれ
若者の離れられない椎若葉
黄や緑赤青小豆かき氷
子を産みし臀を置きたる梅雨の晴
神仏に会ったことなし水を打つ

大杉 衛
風車くるまは廻る水車
花菖蒲束ねうれしき重さかな
翳もたず翳となりたる黒揚羽
麦秋や深い呼吸という礼儀

永田 文
渓からの風をとらえて著莪の花
葱坊主集団下校はじまりぬ
風五月少女の膝の絆創膏
野の宴ぺんぺん草の高くなり

竹村 都
葬の列桜吹雪が送りゆく
腕白のおとなしくして入学す
黄の帽子並び行くなり芝桜
百歳の通夜の灯りや花杏

安部礼子
ぬかるみを抜けていく音ソーダ水
犬死のあと葉桜の青い空
荒梅雨が地骨を洗う名無垈
霊験に雷を呼ぶ般若面

*四天王寺、石舞台。

2017年5月20日土曜日

戦争の話終わらぬ夜の滝 渡辺誠一郎

戦争の話終わらぬ夜の滝 渡辺誠一郎
「俳句あるふぁ」6・7月号。昼間も同じように滝は水を落としていますが、夜になるとその音は一層際立ってきます。辺りが静まり、夜の空気が鮮明になってくるからでしょう。鈴木六林男師と夜更けまで飲んでいますと、どんどん戦争の話が出てきました。六林男師はヘミングウェイの言葉を引きながら、飲んで益々鮮明になり、戦場をそして戦争を語りました。渡辺さんを鮮明にさせているのは、東日本大震災に他なりません。そこでは、昔話としての戦争だけではなく、迫り来るものとしての戦争が語られているにちがいありません。
*四天王寺の伽藍。

2017年5月19日金曜日

父の日の大きな夕日見てをりぬ 橋場千舟

父の日の大きな夕日見てをりぬ 橋場千舟
句集『ひとひら』半夜俳句会。母の日が近づいてくると母を、父の日が近づいてくると父を思います。今だったら、何をプレゼントしようかと仕向けられていますが、一番のプレゼントは母に、父に会いに行くことでしょう。もちろん、亡くなっていたとしても、会いに行くことは可能です。例えばこの句のように、「大きな夕日」を見ることで、父に会うことができるにちがいありません。千舟さん、ご出版おめでとうございます。
*大阪教育大学天王寺キャンパス。

2017年5月17日水曜日

いつまでも何にもしない雨蛙 山口昭男

いつまでも何にもしない雨蛙 山口昭男
句集『木簡』青磁社。作者の目が雨蛙と捉えました。しばらく眺めていますが、こちらを見たまま動こうとしません。そうか、この雨蛙のように、命というのはそこに在るだけでいいのだと思えてきます。傘をさして、急いで目的地にゆくのではなく、このように蛙につき合おうとする、作者の静かな志が伝わってくる句集です。御出版、おめでとうございます。
*大阪狭山市立南第一小学校。

2017年5月15日月曜日

「桐の花」12句 岡田耕治

桐の花   岡田耕治

チョコレート柔らかく折れ夏兆す
人波を縫う自転車の夏来たる
  ふけとしこさんへ
夏の手帳カバーにペンを眠らせる
はじけゆく泡遅くなるソーダ水
ネクタイをしなくともよく風薫る
一筋の夏草匂うユニフォーム
夕焼の車を停めて凭れたる
冷し酒魔法瓶へと移りけり
消え残るように始まり桐の花
油虫最後の距離を止まりけり
裏側のことに吹かれし若葉かな
夏の月二つのままにしていたる
*岬町小島にて。

2017年5月14日日曜日

香天集5月14日 石井冴、久堀博美、中村静子ほか

香天集5月14日 岡田耕治 選

石井 冴
空腹の最も奥に蕨立つ
偶然の二回重なる桜鯛
永き日のことばを増やす車輪かな
いろいろな車輪が廻る夕桜

久堀博美
酒よりもあんパンにする春の宵
癒し湯に浮かぶ私の春の宵
リハビリの先生の鼻汗光る
寝たままの腰痛体操燕来る

中村静子
足形を砂に沈めて桜貝
布切れの匂いはじめる巣箱かな
白魚の喉通りゆく刹那にて
石段の人影として陽炎えり

砂山恵子
切り立ての髪をゆすりて草笛に
銀髪と茶髪とそろひ髪洗ふ
充分に沈みたる後浮いてこい
初夏のワインに透けて緑の葉

立花カズ子
花の下米寿卒寿が来ていたる
水面に近き一枝の残花かな
近木川の流れゆっくり風薫る
葉桜や琵琶湖支流へ風とゆく

中辻武男
川風を走る五百の鯉のぼり
沿道のつつじに目覚む人の声
白牡丹色冴え渡る夕べかな
擡げたる枇杷の実屁う紙袋

岡田ヨシ子
語らいはほらあれそれとシクラメン
紫陽花の雨を含みて光りけり
物忘れ近づいてくる夏の雲
美しき睫毛のままに友逝けり

*大阪教育大学柏原キャンパスの雨。

2017年5月13日土曜日

頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋

頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋
 筑紫磐井『季語は生きている』(2017.4)より。本格的な季語についての論考を集成した一巻が誕生しました。この句については、次のように述べられています。〈新興俳句の金字塔であるばかりでなく、馬酔木らしい新鮮な自然の季感としても享受しなければならないであろう。戦後の社会性俳句は、その多くの作家が季語を否定したにもかかわらず、今日一読者として読むとき、なまなかな有季作家の作品より強烈な季節感をその句に匂わせている。〉
 私がこの句に初めて触れたとき、「どうしたらこんな俳句が書けるのだろう」と思いました。紋切り型になろうとする思考をどう破っていくか、そんなチャレンジ精神がなければ、こんな句は生まれないでしょう。同書では、芭蕉の「古池や蛙飛び込む水のをと」も「本意の伝統を破壊する試み」だと捉えておられます。磐井さん、御出版、おめでとうございます。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2017年5月12日金曜日

春の雲欠食児童どう仰ぐ 大牧 広

春の雲欠食児童どう仰ぐ 大牧 広
「港」5月号。連休明けの授業で、「ゴールデンウィークにどんな楽しいことがあった?」と訊くのは、禁句にしようという話をしました。堺市で子どもの貧困についての調査が発表されましたが、調査世帯の平均年収の半分の117万円以下の世帯が、15.8%。1クラス38人とすると、6人がこの中に入ります。ゴールデンウィークに旅行に連れて行ってもらう子もあれば、ずっと家にいて、家族の喧嘩を見ながら過ごした子もいます。早く学校が始まって欲しいと思っていた子もいるでしょう。だから、連休明けは「プレゼント・ゲーム」をしようと、お互いにいいものを空想してプレゼントし合うゲームをたのしみました。
 私たち教員には、昨日晩ご飯を食べることのできなかった子が、この春の雲をどう見ているのだろうと思いを馳せる力がどうしても必要です。大牧広さんの近著『俳句・その地平』には、自宅近くの昼休みに同僚とレストランに出かける人もあれば、ベンチや柱の台石などで自宅から持ってきたおにぎりを一人で食べている人もいると描写。その上で、次のように結んでいます。〈できあがった「正規社員」よりも可能性が残されている「非正規社員」の方が青空を自由に仰ぐことができる。〉そうなんです。晩ご飯を食べることのできなかった子に思いを馳せて、しかもその子といっしょに春の雲をたのしむ力が必要なのです。大牧広さん、『俳句・その地平』の御出版、おめでとうございます。
*授業のあと、このように板書を撮影しておきます。プレゼントゲームは、右下の模造紙です。5月7日「ジェンダーとセクシュアリティ」の授業記録。

2017年5月10日水曜日

蚊遣豚滅ぶ滅ばずエンゲルス 松田ひろむ

蚊遣豚滅ぶ滅ばずエンゲルス 松田ひろむ
句集『一日十句』第三所館。「蚊遣は無くならないが、それを入れておく陶器の豚は、近々消滅するよ」。「そうかなあ、この豚は懐かしい形だし、使い勝手もいいぞ」。「蚊遣がマルクスなら、この豚はエンゲルスさ。マルクスの思想は残っても、それを分かりやすく解説したエンゲルスは消えるのさ」。「いや、エンゲルスの伝え方は、今さらながら注目に値するよ」。そんな会話が聞こえてきます。さまざまな会話の聞こえてくる句集ですね。ひろむさん、御出版おめでとうございます。
*「多奈川」は、終着駅であり、始発駅です。

2017年5月9日火曜日

箸紙を折って箸置く鳥曇 ふけ としこ

箸紙を折って箸置く鳥曇 ふけ としこ
「ほたる通信」57号。鈴木六林男師からお酒の飲み方を教わりましたが、最初に箸は相手の方に向けたり、皿の上に雑に置いたりせずに、自分の前に揃えて置くことでした。箸置きのない呑み屋であっても、箸入れの紙を二つにおって、置くこと、と。渡り鳥が、北へ帰ってゆく時間の中で、目の前の人との時間をていねいに愉しむ。そのために、箸をていねいに扱うのだよ。そんな教えが甦る一句です。この他にも、「香天」の吟行でご一緒したときの情景が甦る句が多く、大切な一枚の通信となりました。としこさん、ありがとうございます。
*4月1日、みさき公園にて。

2017年5月8日月曜日

「藤棚」 15句 岡田耕治 

藤棚  岡田耕治

ぶらんこを止めて体を保ちけり
皺くちゃになって集まる桜かな
蝌蚪の国急な動きを浮かべたる
迎えたる場所まで送り藤の花
藤棚の暗くなるまで見ている目
本棚の最上段の春深まる
開きおり憲法記念日の新聞
確かめに行くと出ている春の月
おのおのの指の長さへ朝顔蒔く
真っ直ぐに夏の近づく夕べかな
学内のカンパを集め夏に入る
線を引くために見ており夏の空
滴りの心と体落ち着かす
夏鴉羽音を高くして過ぎる
無制限飲み放題の生ビール
*岬町小島にて。

2017年5月7日日曜日

香天集5月9日 三好つや子、浅海紀代子、釜田きよ子ほか

香天集5月9日 岡田耕治 選

三好つや子
花なずな兎跳びする好奇心
さえずりの串だけのこる夕桜
兄弟にもどるスイッチ柏餅
花の夜のもぬけの殻の私です

浅海紀代子
蔓薔薇に遊びの袖を取られけり
祀られて芽吹き始める銀杏かな
大樟の芽吹きを残し家解かる
賑わいの集まる花の名残かな

釜田きよ子
骨のない魚が泳ぐ憲法の日
鳥帰る一輪車にて追いかける
春愁や落ちるばかりの砂時計
カステラはこがね色してゴールデンウイーク

宮下揺子
庭師より椿を貰い帰路につく
飴切りのミモザの飴を二袋
おおらかにすぐに忘れて花ミモザ
右左違う靴買うイースター

森谷一成
いじめ子の幾年花の下枝かな
巡礼の過りおわせり遅桜
銭の世の妃はべらん八重桜
ゆく春の源八橋の南詰

藤川美佐子
ぶら下る裸電球昼がすみ
万緑のなお奥山へ入り行けり
更衣若やぐ性のおそろしき
雨音のほかは聞えず昼寝覚
*りんくうタウンの大観覧車。

2017年5月6日土曜日

泣きじやくりながらバナナを剥いてをり 金子 敦

泣きじやくりながらバナナを剥いてをり 金子 敦
句集『音符』ふらんす堂。かなしいことがあって、声をあげて泣いたことが何度かあります。タオルに顔を埋めて、声を殺していましたが、いつまでも顔を伏せているわけにはいきませんので、顔をあげました。それでも、しゃくり上げるように涙は止まりません。「いつまでも泣いていないで、バナナでも食べたら」とすすめられたバナナ。それを剥きながら、かなしいことから離れようとします。かなしいことに当たっていた焦点が、バナナを剥きながらそれから離れようとする自分に焦点が当たります。もう大丈夫。
敦さん、いい句集ができましたね。御出版おめでとうございます。栞を執筆された杉山久子さんとともに、「香天」の最新号に招待作品を寄稿していただいたことに感謝します。ありがとうございます。
*「香天」47号の表紙。大阪教育大学柏原キャンパスの里桜。

2017年5月5日金曜日

手袋を外しハローワークの末端へ 森谷一成

手袋を外しハローワークの末端へ 森谷一成
 今は、定年退職をしても、すぐに年金が下りない仕組みになっています。次の仕事を探すにしても、失業保険を受給するにしても、ハローワークで仕事を見つけなければならないのです。そんな暗然としながらも、見知らぬ仕事へ向かおうとする心情が、「手袋を外し」という破調に込められています。作者は、この4月から「香天」同人に。
*大阪教育大学図書館に掲げられた絵。

2017年5月4日木曜日

香天集 選後随想(続) 岡田耕治

「香天」47号を発送しました。連休中は、郵便物の配送がストップしているとのことで、5月6日以降の到着になります。もうしばらくお待ちください。

紅梅や思わぬ顔の近づきて   澤本祐子
「香天集」。白梅はその香りによって私を呼び覚ましてくれます。紅梅は香りよりもその彩りによって私を引きつけてくれます。近づいてそんな紅梅を愛でていますと、「思わぬ顔」が現れました。俳句とは縁の無い人の顔かも知れません。その人は、ここにきて、一句なりとも捻ってみようとしているのでしょうか。
*「しきじ・にほんご天王寺」で紹介された浪速ことば番付。「たよりにしてまっせ」

2017年5月3日水曜日

香天集 選後随想 岡田耕治

春炬燵二人になれば火を消して 谷川すみれ
 一人の時はスイッチを入れていた炬燵も、二人になると相手の体温だけでいいと思える、そんな暖かさの季節になりました。もちろん、スイッチを切ればまだ肌寒いのですが、その肌寒さがもう一人の体温をより強く感じ取ろうとさせてくれるのです。六林男師の「凶作の夜ふたりになればひとり匂う」という句を想い起しました。

一文字に遊びのありて冬あたたか 中嶋飛鳥

 一文字だけ遊び心たっぷりに躍動しているところでしょうか。俳句を書いた色紙の中に、一文字の遊びを認めたのでしょうか。何れにしても、その文字を描いた人の心の弾みが伝わってくる、そんな書との出会いを愉しんでいる飛鳥さんの笑顔が見えてくる一句です。
*上六句会場のホテルのピアノ。

2017年5月2日火曜日

「春の道」15句 岡田耕治

春の道  岡田耕治

直感を浮かべていたり白つつじ
夜に学ぶ人の声して里桜
里桜膨らみしまま散りゆけり
コロッケを食べながら行く春の道
真上から近づいている花水木
姿勢よく翼を立てて鳥交る
目を閉じて満天星の花記憶せん
フリージア止めてから息吐いており
芽柳に声の集まる夕べかな
遠くまで往くことになる春筍
松の芯指舐めて繰る紙の辞書
抱卵期背を低くして立ち尽くす
音楽を響かせてゆくしゃぼん玉
墨で書く一句が残り竹の秋
新聞の五紙を並べて夏隣る

*大教大柏原キャンパス。

2017年5月1日月曜日

綿虫の浮いては沈む瞳かな   石井 冴

綿虫の浮いては沈む瞳かな   石井 冴
「香天集」。綿虫は体長五ミリほどですから、群れて浮き、また沈むことによって瞳のような形が出来たとまず読みました。しかし、冴さんのことですから、きっと綿虫の本当の瞳ではないかと、思い直します。飛ぶ力がそれほどなく、浮いては沈む風の中で光る、一点の瞳が見えたのです。
*昨日上六句会のあったホテルアウィーナ大阪のエントランス。句会のあと、句集『日脚』出版を祝う会をしてくださいました。ありがとうございました。