2017年7月31日月曜日

「夏休」15句 岡田耕治

夏休   岡田耕治

たっぷりとインクを吸わせ夏休
冷蔵庫何度も中学生の来る
さまざまな笛を繰り出し夏芝居
鳥の目を浴び続けたる青岬
蝸牛一つの疵を背負いけり
心太半分を食べ風を待つ
油蝉翅片方が生きてあり
梅酒を濃い目に作る読書かな
空蝉の集まってくる昼休
みんみんに生まれて翅を濡らしけり
校長が自ら供す麦茶かな
梅干の何処でも食える握り飯
昼寝の子ずんずん重くなってくる
眠くなる目を見て話す夏休

洗い髪乾かしてから出てゆけり
*岬町小島にて。

2017年7月30日日曜日

香天集7月30日 玉記玉、渡邉美保、坂原梢ほか

香天集7月30日 岡田耕治 選

玉記玉
噴水とタイムスリップして土曜
七月の酸素あります入館す
蜥蜴去るやコバルト色のスニーカー
細道を行けど細道蟇

渡邉美保
平静を保つつもりのレモンゼリー
切り口を本音のみゆるトマトかな
遠花火処分する本積み上がり
作り滝前に珈琲芳しき

北川柊斗
夏めくや塔を貫く芯柱
炎昼やロザリオ揺るる阿国像
見上げたる祇園囃子や夢の底
祇園会や軋む車軸よ地軸やも

坂原 梢(7月)
日日草働くために帽子買う
父と子の浮輪のすすむアーケード
フルートにふっくらとして花茗荷
空蝉の数多ころがる記憶かな

古澤かおる
夏館百のグラスを伏せ置いて
生き生きと苔黒ずみて梅雨明ける
夏祭はっぴの裏に龍を連れ
一列のアガパンサスの二号線

坂原 梢(6月)
若竹や空へ伸びゆく風の音
静かなる雨に整い額の花
気儘なる牛蒡を抜いてしまいけり
離れゆくほどに色濃く桐の花

中濱信子
尺取虫人の秤のそれぞれに
跡継ぎのなくなる植田風渡る
泰山木の花少年が立ちどまり
雑巾を絞って七月終わりけり

大杉 衛
軍艦か兜虫かと問われたる
空蝉の扉はギイと開くかな
貨車動く夕焼を載せ少し動く
真鍮の把手に及ぶ草いきれ

越智小泉
滝の水風を伴ない流れおり
どこまでが雲の領域土用波
水打って辛い一日締め括る
風鈴の音色が雨を含みけり

長谷川洋子
つる草に添え木突き刺し夏の昼
草むらの河原撫子風を呼ぶ
向き合って兄を見ている夏料理
真っ先にゴーヤチャンプルできますよ

西嶋豊子
片陰やなじみの顔の二つ三つ
帰省の子何席も頭打っており
風鈴や鳴らずともいい見るだけで
青田風小さな魚泳ぎおり

*大阪市内の談話コーナー。

2017年7月29日土曜日

耳痒き日の空蟬をみてゐたり 柿本多映 

耳痒き日の空蟬をみてゐたり 柿本多映
「俳句あるふぁ」8−9月号。何度か耳が痒くなる、そんな日があります。家に居ると、すぐに耳かきで痒みを治めるのですが、人中に居るとそうもいきません。痒みの治まるのを待つのは、その状態をメタ認知(自己の認知を認知すること)するに限ります。そう、空蟬を想い描くのです。それは、自分の耳管のようではありませんか。
*大阪教育大学天王寺キャンパス、教員免許更新講習中。

2017年7月28日金曜日

原子炉を抱え死すとも蟾蜍 渡辺誠一郎

原子炉を抱え死すとも蟾蜍 渡辺誠一郎
「俳句」8月号。蟾蜍(ひきがえる)ががっしりと掴む大地、その地続きに原子炉が在ります。この大地にやがては命を終えることになるでしょう。どんなに原子炉がこの大地を荒そうとも、蟾蜍として生きるほかなく、死ぬほかありません。それは、私たち人間も同じだと、宮城の渡辺さんは考えているのです。
*大阪国際ガンセンターにて。

2017年7月26日水曜日

島人の天蛇と呼ぶ虹立ちぬ 有馬朗人

島人の天蛇と呼ぶ虹立ちぬ 有馬朗人
「俳句」8月号。「天蛇」には、「てんぽう」とルビがふられている。「島人」は、「しまんちゅ」と読むのだろう。特別作品50句のうち、「琉球にて」と前書きのある9句と、「再び琉球にて」10句が構成の中心にある。50句、最後の句を引いた。琉球の人々は、地上の蛇にたいして、虹を天の蛇とみているのだろう。そう言われれば、虹も蛇も相乗的に美しく見えてくる。琉球の人々の感性に触れることは、この国が失いかけている自然へのおそれとあこがれを呼び覚ましてくれる。50句は、そう語りかけてくるようです。
 同誌の239ページに仲寒蝉さんが、私の句集『日脚』を「天晴な不親切」と鮮やかに評してくださいました。寒蝉さん、ありがとうございます。
*「俳句」8月号、俳句手帳も付いてお買い得かも。

2017年7月25日火曜日

風鈴に隠し事なき夫婦なり 小川軽舟

風鈴に隠し事なき夫婦なり 小川軽舟
「俳句四季」8月号。ふけとしこさんや久保純夫さん、久保彩さん、「香天」の皆さんと孝子の森を尋ねたとき、珍しい風鈴を見ました。冷房のない森で風を待っていますと、風鈴の存在感はひとしおです。この句、冷房を切って開け放している、つましい暮らしぶりをまず想います。隠し事がないというか、隠さなくとも分かってしまう、そんな夫婦の暮らしに、今自然の風が通っていきました。風鈴を一つ鳴らしながら。なお、私ごとですが、同誌92ページに新作「短夜」16句を発表しました。お目に止まれば幸いです。
*岬町、孝子の森にて。

2017年7月24日月曜日

「イヤホーン」16句 岡田耕治

イヤホーン 岡田耕治

正面に構えて汗のカーブ待つ
夏の川こんなに速いのに静か
心拍を上げないように泳ぐなり
一人では持てなくなりて日向水
夏蒲団紙と辞書とを溢れさせ
短夜の蝋燭の火を囲みたる
成績が一気に上がり雲の峰
くずれない高さを保ち夏帽子
布鞄濡らして梅雨を送りけり
着信をいくつか過ごし花氷
シャーベットひと匙与えられてより
赤富士や鉄の扉の熱くなり
涙目になっていたりし鵜飼かな
朝曇憎めない人待っている
夏の海空へと深い息のぼり
イヤホーンゆく夏と目を合わさずに

*孝子の森、はじまりにあった凌霄花。

2017年7月23日日曜日

香天集7月23日 谷川すみれ、加地弘子、澤本祐子

香天集7月23日 岡田耕治 選

谷川すみれ
鰯雲たどってゆけば行き止まり
実紫転がってゆく睡魔来る
本当に燃え尽きてみよ曼珠沙華
小鳥来る喪失の鍵の時間から

加地弘子
子かまきり風の光が濃くしたる
掛軸のあり鮎だけが生き生きと
蜥蜴みて活発になる新人類
老いてよくひっくりかえる天道虫

澤本祐子
夏蝶やサプリメントに操られ
枇杷の種吾の口より生まれけり
マカロニの貝の形や夏至夕べ
鶴を折るリハビリテーションの朱夏

橋爪隆子
一日の火種を消してゆくビール
かき氷崩れる頃に本音出す
瓜刻む音軽き日と重たき日
まっすぐな風まっすぐに立葵

砂山恵子
夏空や天動説を信づる日
うどん屋の木枠の窓よ百日紅
悔ひひとつ残さぬごとく蝉の殻
夏畑笑ふこと無き子の笑顔

木村博昭
父の日の息子も父でありにけり
遥かなる水平線や沖縄忌
万緑に溶け込んでいる旅鞄
働いて修羅も生き来て大昼寝

村上青女
長く居て小さき島の緑蔭に
双胴のしおさいという船の夏
囀りと船の音だけ島の夏
風の音山から里へ島の秋

岡田ヨシ子
予定なしアイスコーヒーから始める
施設から届く葉書のトマトかな
隣りから呼ぶ声のする昼寝覚
夏場所の力士にマイク向けてあり

永田 文
岩奔る水の勢い梅雨明ける
竜神のおわす淵とや木下闇
断層の上に夏くる夜のほてり
音さやか備長炭の風鈴と

*昨日、ふけとしこさん、久保純夫さん、香天の皆さんと出掛けた孝子の森。

2017年7月17日月曜日

「一人に」15句 岡田耕治

一人に  岡田耕治

白靴や誰彼となく話しかけ
なつかしい香水と居て雨の中
冷酒のはじめグラスの曇りけり
向日葵に女の機嫌回復す
しばらくは記憶にありてハンモック
明急ぐコンピューターの重くなり
身辺の紙半分にして涼し
冷房を切って一人になっており
きりぎりすジーンズの膝くり抜いて
空腹と汗が走らすボールペン
物音に敏感になる天使魚
鈴蘭のまなこの力細めたる
脳天へ引っ張り上がり水海月
真ん中の隅っこを占め蝉の殻
金亀虫コンピュータに突き当たり
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2017年7月16日日曜日

香天集7月16日 石井冴、中辻武男

香天集7月16日 岡田耕治 選

石井 冴
黄蝶いま石から生まれ少し濡れ
ハンモックまぶた閉じればすべて見え
あめんぼう村を一周していたる
この水に鯰居るはず誰も見ず

中辻武男
生き甲斐の一つ夕べの冷奴
夕暮の波立つアロハシャツ出せば
蝉の声たま持つ子らが木に縋る
朝顔の見頃となりし色使い

【香天集鑑賞】今回は、安田さんが7月2日の香天集を次のように鑑賞してくれました。このような鑑賞文も、どんどん掲載していきます。
◇安田中彦
 7月2日香天集の玉記玉さんの句はとても魅力的でした。
・逝く夏のみしみし噛んでものの種 玉
「逝く夏」と感傷的フレーズで始まりながら、近年の残暑のはんぱなさを考えればやはりバイタリティが必要ということでしょう。
・透明な夏の雨です放送部     玉
 下五への飛び方に意外性があり、心地良いです。
・青蜥蜴おや年輪が濡れている   玉
青蜥蜴、濡れている年輪、それに気づいた私(「おや」がこの句のポイント)、場面がしっかりと浮かびます。
・生卵に番号いきなり夏野     玉
これは飛び過ぎていて、私には理解できませんでした。
4句の中で特に「青蜥蜴」の句が良かったと私は思います。

他に、砂山恵子さんの次の句にもひかれました。
・理由なく集まる家族緑の夜    恵子

 「理由なく集まる家族」というゆるさを表現するなら、「緑の夜」はひらがな表記で「みどりの夜」かな。
*岬町多奈川駅にて。

2017年7月14日金曜日

只今を生きてゐること蝉時雨 星野昌彦

只今を生きてゐること蝉時雨 星野昌彦
『般若心経』春夏秋冬叢書。星野さんは、74歳から毎年句集を出版されている。今年、85歳の句集名は「般若心経」。「禅の視点」というWebページには、般若心経をひと言で表すと、「存在の真実を見抜きなさい」ということだと書かれています。星野さんは、存在の真実は「只今を生きてゐること」と捉えておられるのではないでしょうか。蝉時雨のように、この人間もまた。御出版、おめでとうございます。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2017年7月12日水曜日

香天集選後随想 三好つや子さん、中嶋飛鳥さん

「香天集」選後随想 岡田耕治
骨太の自転車が来て昭和の日   三好つや子
 自転車はだんだんスリムで軽くなりました。重くて骨太の自転車というと、鈴木六林男師が愛用していたそれを思い出します。師は、自転車であっても、何であっても、物を大切に使いました。それは、昭和を生きた人々の生きる知恵ではなかったかと思います。
学校の時計の止まる春休み    中嶋飛鳥
 学校に勤めておりますと、春休みは慌ただしく過ぎます。年度末の書類を整理し、ほっとひと息ついて、新学期の準備をする。実際に、時計を止めて修理をしたり、電池を入れ替えることもあるでしょう。しかし、子どもたちがいない学校の時計は止まっているように見えて、実はとても重要な働きをしている、それが実感です。
*泉佐野市にて。

2017年7月11日火曜日

蟻地獄覗けば目玉乾きけり 横沢哲彦

蟻地獄覗けば目玉乾きけり 横沢哲彦
『五郎助』邑書林。炎天下、蟻地獄をみつけて、それを覗き込むことがあります。この中はどうなっているのだろう?今日はまだ獲物はないのだろうか?と想いながら。その時のことを自らに引き寄せて、「目玉乾きけり」とは、一本取られました。対象を見つめる、その眼差しを自らにも向ける、そんな営みが一巻に溢れています。横沢さん、御出版、おめでとうございます。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2017年7月10日月曜日

「ミッドナイトブルー」12句 岡田耕治

ミッドナイトブルー  岡田耕治

知るよりも感じることを滝の前
携える野草図鑑の夏一巻
青嵐時に鳥瞰していたる
ミッドナイトブルーが走り花氷
一人だけ水羊羹を食べはじむ
自らを凹ませている籐寝椅子
夏潮を撫で走りゆく風の色
歩み寄る余地に冷酒を傾ける
考えのまとまってくる籠枕
焦点の散らばっている炎天下
梅雨晴間鶏の唐揚重くなり

自分には見えない素顔汗しとど
*大阪教育大学柏原キャンパスの教職教育研究センター。