2018年6月24日日曜日

香天集6月24日 三好広一郎、谷川すみれ、加地弘子ほか

香天集6月24日 岡田耕治 選

三好広一郎
うすものやうでに時計のないひと夜
あん蜜やおとこふたりで筋肉で
ラブホテル一匹の蚊にふたりの血
扉押す押し返すのは五月闇

谷川すみれ
風が耳過ぎる音のみ空の秋
ひらがなのような人の背秋日傘
渾身や銀杏黄葉の起ちあがり
秋の夜本読む童女美しき

加地弘子
紫陽花の白き縁より別世界
夏の月離れて暮らす間にも
蟻地獄火口までゆき覗きけり
轟轟と滝の裏より滝をみる

橋本恵美子
青大将腕捲りしてやってくる
剪定の一枝を挿す鬼瓦
無人駅草刈り鎌を持つ女
青梅や隙間を満たす風のあり

澤本祐子
カステラにナイフの沈む走り梅雨
説明の数値の画面梅雨に入る
額の花暗き眼科を後にして
駄菓子屋に並ぶ自転車ソーダ水

辻井こうめ
滴りや長き連載コラム終ふ
蛍見の小形電灯蛍呼ぶ
青楓辻井伸行染みわたり
時を待つマリア灯籠木下闇

中濱信子
柏餅手に大相撲星取表
梅の雨ますます細くこけしの目
どくだみの空家に濃ゆく日のあたり
指差して守宮の腹のもも色に

中辻武男
雨笠や木ごと庇いしサクランボ
長雨の紫陽花老を和ませて
梅雨晴間沈む夕日に喚声が
梅雨の地震受くる電話にある温み



*昨日の上六句会、ホテルアウィーナ大阪にて。

2018年6月17日日曜日

香天集6月17日 玉記玉、中嶋飛鳥、砂山恵子ほか

香天集6月17日 岡田耕治 選

玉記 玉
くちばしで仰ぐ子燕空が欲しい
舷に大きなタイヤ五月尽く
アメンボの静かな座席みんな空
年輪に巻かれまいまいの宇宙

中嶋飛鳥
老鶯や指のささくれ舐めておく
麦の秋渾名を先に口にして
歪むときくちなわの背の幾何模様
梅雨鴉誰も降りない駅に待ち

砂山恵子
頬寄せて離れる男油照
ががんぼを仰臥で見をる一人かな
病室や箸あと残す冷奴

さよならを聞かず香水匂ふ部屋

村上青女
見初めしは離島の沖の積乱雲
十余年辺野古に通い月桃咲く
腕を組む人らの汗やゲート前
旅かばん並ぶ車内や麦の秋

永田 文
たたずめば森の香満ちて梅雨晴間
陀羅尼助水の奔れる風涼し
万緑や風を両手に深呼吸
夕顔の残り香沈む朝の風

岡田ヨシ子
玉葱の酢漬けをサンドイッチとす
小雨降る犬鳴山の新緑よ
紫陽花のブルーを選びピンク咲く
髪洗う白髪と皺の競い合い

*大阪教育大学柏原キャンパスから。

2018年6月10日日曜日

香天集6月10日 中村静子、三好つや子、宮下揺子ほか

香天集6月10日 岡田耕治 選

中村静子
花筏合流の音していたる
銀髪となりたる友と新茶汲む
雨の香を抱きて放つ海芋かな
子燕の声に明るさ戻りけり

三好つや子
絵の具より這い出て朝の蛞蝓
白桃という水彩の白い闇
はつなつの蛇口が覗く洗面器
青空の青はのびしろ麦青む

宮下揺子 
嗣治の絵から抜け出す恋の猫
山法師海の無い地で母になる
骨密度測り七十歳の夏
リラの雨秘密にしたい明日があり

橋爪隆子
気管支を青く染めゆく新茶かな
焼けし鯖皿に移りてじゅくじゅくと
三面鏡閉じて新樹を封じけり
血管のために水飲む柿若葉

藤川美佐子
夏草やどこからも風吹いてくる
ふるさとを出るに出られず油虫
人の名のすぐには出でず燕子花
右耳のかすかに遠し夏ゆうべ


羽畑貫治 高波の落差に遊び燕の子 早乙女の襷に匂う鳶の空 潮に乗り岸辺を囃す鰡の群 亀の子の山駆けおりる雨の中


*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2018年6月3日日曜日

香天集6月3日 森谷一成、釜田きよ子、神谷曜子ほか

香天集6月3日 岡田耕治 選

森谷一成
春の海ねころんで読む倭人伝
切ってくれた菖蒲は死者に遠く咲き
水中に還りたくなる燕子花
朽ちながらふふむ悦び木蓮に

釜田きよ子
すずらんやふと石鹸の香りして
蜥蜴の子恐竜になるつもりらし
寝乱れの姿あらわに牡丹散る
新緑を浴びて我らの復活す

神谷曜子
新聞を束ね六月も束ねる
自販機のゴトリと梅雨の夜を深め
図書館の本は饒舌聖五月
松の木の役で立ちおり春の夜

澤本祐子
若竹の節目露わとなりにけり
遠き日や草餅の濃き焼き色に
青葉闇両手で包む膝頭
小粉団や風に形の生まれたる

坂原梢
緑蔭に隠れてしまう昼休み
東より西へと赴任夏燕
さきがけの曲がりくねりし胡瓜かな
五月来る電話向こうの反抗期

浅海紀代子(4月)
日溜りの子猫の一部溶けてあり
疾走のバイクよ春を置き去りに
人の来ず電話も鳴らず春の暮
新緑の風が届けて友の文

北川柊斗
捩花の螺旋にやどり雨雫
武士と騎士並びたちたり杜若
思春期をみさだめてゐる立葵
天を突くいきおひアスパラガス青し

浅海紀代子(3月)
永き日のこころ野に置く家路かな
杖を突く弓手に桜散りにけり
春満月急いで帰る訳のなく
春一番柱時計の止まりけり

浅海紀代子(5月)
杖の身や緑陰の椅子遠くして
羅や袖通すには老いすぎて
近くいて会わぬ人あり花卯木
佳き主に良き犬の顔苜蓿

中辻武男
茶摘みする乙女の手並み称えおり
残雪の富士の山影野鳥浮く
春陽や上着脱いだり羽織ったり
田均しを促してあり夜の雷雨

越智小泉
古びたる急須にひとり新茶汲む
初夏の風橋の上にて足を止む
老鶯の一声谷を深くせり
雲一つなく新緑の眩しかり


*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2018年6月2日土曜日

風薫る木登りをしてゐるやうに 小泉瀬衣子

風薫る木登りをしてゐるやうに 小泉瀬衣子
 句集『喜望峰』角川書店。若葉の中を風が吹き渡ってきました。こんな風は、幼い頃木登りをして感じたのと同じ風です。木の上からいろいろな物や人を見ることは、ふっと日常の暮らしから離れることでもありました。今は木登りなんてしなくなりましたが、このさわやかな風は、その頃のまなざしを取り戻させてくれました。薫る風のような句集。御出版おめでとうございます。


*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。