2018年6月3日日曜日

香天集6月3日 森谷一成、釜田きよ子、神谷曜子ほか

香天集6月3日 岡田耕治 選

森谷一成
春の海ねころんで読む倭人伝
切ってくれた菖蒲は死者に遠く咲き
水中に還りたくなる燕子花
朽ちながらふふむ悦び木蓮に

釜田きよ子
すずらんやふと石鹸の香りして
蜥蜴の子恐竜になるつもりらし
寝乱れの姿あらわに牡丹散る
新緑を浴びて我らの復活す

神谷曜子
新聞を束ね六月も束ねる
自販機のゴトリと梅雨の夜を深め
図書館の本は饒舌聖五月
松の木の役で立ちおり春の夜

澤本祐子
若竹の節目露わとなりにけり
遠き日や草餅の濃き焼き色に
青葉闇両手で包む膝頭
小粉団や風に形の生まれたる

坂原梢
緑蔭に隠れてしまう昼休み
東より西へと赴任夏燕
さきがけの曲がりくねりし胡瓜かな
五月来る電話向こうの反抗期

浅海紀代子(4月)
日溜りの子猫の一部溶けてあり
疾走のバイクよ春を置き去りに
人の来ず電話も鳴らず春の暮
新緑の風が届けて友の文

北川柊斗
捩花の螺旋にやどり雨雫
武士と騎士並びたちたり杜若
思春期をみさだめてゐる立葵
天を突くいきおひアスパラガス青し

浅海紀代子(3月)
永き日のこころ野に置く家路かな
杖を突く弓手に桜散りにけり
春満月急いで帰る訳のなく
春一番柱時計の止まりけり

浅海紀代子(5月)
杖の身や緑陰の椅子遠くして
羅や袖通すには老いすぎて
近くいて会わぬ人あり花卯木
佳き主に良き犬の顔苜蓿

中辻武男
茶摘みする乙女の手並み称えおり
残雪の富士の山影野鳥浮く
春陽や上着脱いだり羽織ったり
田均しを促してあり夜の雷雨

越智小泉
古びたる急須にひとり新茶汲む
初夏の風橋の上にて足を止む
老鶯の一声谷を深くせり
雲一つなく新緑の眩しかり


*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

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