2018年6月10日日曜日

香天集6月10日 中村静子、三好つや子、宮下揺子ほか

香天集6月10日 岡田耕治 選

中村静子
花筏合流の音していたる
銀髪となりたる友と新茶汲む
雨の香を抱きて放つ海芋かな
子燕の声に明るさ戻りけり

三好つや子
絵の具より這い出て朝の蛞蝓
白桃という水彩の白い闇
はつなつの蛇口が覗く洗面器
青空の青はのびしろ麦青む

宮下揺子 
嗣治の絵から抜け出す恋の猫
山法師海の無い地で母になる
骨密度測り七十歳の夏
リラの雨秘密にしたい明日があり

橋爪隆子
気管支を青く染めゆく新茶かな
焼けし鯖皿に移りてじゅくじゅくと
三面鏡閉じて新樹を封じけり
血管のために水飲む柿若葉

藤川美佐子
夏草やどこからも風吹いてくる
ふるさとを出るに出られず油虫
人の名のすぐには出でず燕子花
右耳のかすかに遠し夏ゆうべ


羽畑貫治 高波の落差に遊び燕の子 早乙女の襷に匂う鳶の空 潮に乗り岸辺を囃す鰡の群 亀の子の山駆けおりる雨の中


*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

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