2017年9月30日土曜日

かけっこの三位の旗に残暑かな わえ

かけっこの三位の旗に残暑かな わえ(片山和恵)
 今日は本学の附属中学校でも運動会を行っています。グランドから聞こえてくる声を聞いていますと、一位・二位・三位と旗を立てて、ゴールした順にその場に腰を下ろしたかつてのかけっこを思い出しました。三位に入れてよかったのか、もっと早く走れるのに三位に終わったのか、どちらかは書かずにただ「残暑かな」と止める、この書き方が運動会の子どもたちには相応しく感じられます。

*大阪教育大学附属天王寺中学校の運動場にて。

2017年9月29日金曜日

鳴くものの声の大きく夜半の秋 桑本栄太郎

鳴くものの声の大きく夜半の秋 桑本栄太郎
 俳句大学。秋が深まってきますと、夜も空気が鮮明に感じられます。「鳴くものの声」とはっきり限定されていませんので、かえって様々な鳴く声が聞こえてきます。鳥の声でしょうか、虫の声でしょうか、何かけものの声かもしれません。それらが、大きく身近に感じられる夜更けです。こうしていると、人間である私も、「鳴くもの」の中に入っていくようです。

*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2017年9月28日木曜日

冷ゆる日であり青天でありにけり 今村征一

冷ゆる日であり青天でありにけり 今村征一
 俳句大学。28日付けの朝日新聞に福岡伸一さんが次のように書いています。「気温が下がり、湿度が低くなると、大気に含まれる水蒸気の濃度が減り、光の散乱が小さくなって、空の深度が上がるのだ。」この科学の知見を美事に一句にされました。余計なことは書かず、「青天」だけをたのしむことができる作品です。

*徳島大学にて。

2017年9月25日月曜日

「千曲川」15句 岡田耕治

千曲川  岡田耕治


姨捨の何処の水も澄みにけり
現れて田毎の月のスイッチよ
胡麻垂をたっぷり潜り走り蕎麦
落鮎の太く焼かれし信濃かな
上山田温泉の肌冷ややかに
冬隣両手を握り回りけり
対岸に渡れなくなる天の川
千曲川秋思の眼細めたる
秋桜行ったり来たりしておりぬ
花芒公開の知の立ちあがり
きっぱりとうなずいている杜鵑草
実紫外の空気を吸いに出る
黄になるを掴んでいたり花梨の実
裂けんとす石榴の樹齢静かなり

手を振って別れて来たり月の里

*長野県千曲市にて。

2017年9月24日日曜日

香天集9月24日 谷川すみれ、加地弘子、大杉衛ほか

香天集9月24日 岡田耕治 選

谷川すみれ
いびつなるメタセコイアの去年今年
雪催鴉が先に着地する
衰えて引き寄せており石蕗の花
枯桜川はゆっくり呼吸して

加地弘子
空蝉を踏んでしまって泣き出しぬ
揚花火残りの刻を頻りなる
間をおいて終わりを告げる揚花火
星月夜話の通う距離にいて

大杉 衛
ひぐらしや遠いところに杭一本
掌の箱根細工や秋風や
秋風と書くには少し強すぎる
静物の翳を育てる十三夜

橋爪隆子
目高の目じっと見ている眼かな
輪の中に手踊りをして車椅子
鯉はねてつかの間の輪よ秋の水
秋暑しこげた匂いの世界地図

北川柊斗
明滅の迷信たどり秋の蝶
仮の世の全きものに芋の露
液晶の狭き画面を秋出水
天高しギターの音が突き抜けて

木村博昭
竜胆や湖も伊吹も晴れわたり
小さきにレンズを向けて草の花
村いちばん働き者の案山子かな
父と子の紙飛行機の天高し

永田 文
秋の空しろじろと畑ささくれて
曼珠沙華遊女の墓とつづきおり
月高し働く影のあまたあり
秋祭腕つりあげて法被の子

中辻武男
初鴨や今朝の池にぞ番いける
この道の途中にかかり秋夕焼
秋の夜の風が届ける遠太鼓
秋燕山里の路地弓なりに

越智小泉
街中に残る田んぼよ曼珠沙華
こんなにもが青年いる秋祭
月光や音も灯も消す仏の間
ひとり居の自由と孤独秋の空

岡田ヨシ子
縞蛇や小鳥を口に挟みたる
鳥渡る道路に獲物残しおき
高齢の学ぶ鉛筆文化の日
秋の風限りある身を一吹きす

*千曲市文化会館にて。

2017年9月23日土曜日

小望月阿蘇カルデラを濡らしゆく 大津留 直

小望月阿蘇カルデラを濡らしゆく 大津留 直
 望月の十五夜になると、あとは欠けていくばかりですから、小望月はもっとも希望を含んだ月かも知れません。その月が、広大な阿蘇カルデラを照らしています。それを「濡らしゆく」と感じた作者のイメージに共感します。作者の住む九州は、大地の異変に直面しています。その異変を鎮めるように、月光が豊かなカルデラを濡らしてゆくのです。

*千曲市で見つけた井上靖の筆跡。

2017年9月19日火曜日

「台風」15句 岡田耕治

台風  岡田耕治

一時間早く身を置きレモンティー
秋螢ひそんでいるのは直感
稲光言葉になるを待っており
わが背中見たことのなし秋入日
秋灯忘れるためにふり返り
新豆腐出口に隣る席を占め
マイナスを書き出してゆく天の川
台風の中珈琲を熱くする
パンプキンスープを付けて口のふち
ドア開く秋の朝日を満たすため
背中から肩に移して今年米
落花生最後の一つ回りたる
探究のはじめに梨を齧りけり
芋の秋バターと醤油したたらす

鈴虫や人の声から離れ来て
*千曲市笹屋ホテルにて。