2016年2月29日月曜日

「答案」 岡田耕治

「答案」  岡田耕治
春風を入れたるままに被服室
理科室に集まってくる春愁
春の夢保健室のベッドにいる
春の水凍らせてゆく試験管
ワイン飲むほどに近づき朧の夜
過去問と答案の間冴返る
定年を迎える人の春コート
千ピースのパズルが占めて春炬燵
遅くまで着信のあり沈丁花
いかのぼりよく眠る子の上達す
京都から春着となりし淡海かな

2016年2月28日日曜日

香天集 2月28日 高橋もこ、浅海紀代子ほか

香天集2月28日 岡田耕治 選

高橋もこ
確りと折りたたまれて初みくじ
海鼠には別の答を用意する
春の水指やわらかく追い続け
別別の手が出て蕗を煮るところ

浅海紀代子
寒の水満たしていたり子の忌日
診察を終え正面の春の虹
戻り来ぬ猫の皿あり春の夜
忘れたき事も無くなり青き踏む

橋爪隆子
先生に聞いてもらって小春かな
マスクしてイヤホンをして閉ざしけり
大寒の噛んで野菜の甘きこと
一羽のあと一群発ちぬ初雀

藤川美佐子
三月の公民館に新刊書
淡雪やしずかに混める作品展
幾度も夜を掘りおこす猫の恋
永き日の税の申告してかえる

今川靜香
老いてより求む硯を洗いけり
ほらほらと指す綿虫を見失う
竹の春観音堂に忘れ杖
茄子漬けや母の色へと近づきて

中濱信子
着ぶくれて坂上がりくる八十路かな
まだ壁になじまぬ形初暦
咆哮のとだえし山に寒の雨
寒明けるスリッパの音高くして

橋本惠美子
雪降れり西郷さんの目を捉え
年詰まる右往左往のプリンター
警笛を二つ鳴らして仕事始め
水槽をきれいに磨き春兆す

澤本祐子
凍返る動かなくなる掛時計
ときおりの風の見えくる梅の香よ
穏やかな日々をこぼれて梅の花
窯跡の轍となりて黄水仙

坂原梢
倒れたる青い光線霜柱
山茶花や橋のたもとにこぼれいて
不器用になったと枯木伐られけり
回覧板春一番を連れてくる

大杉衛
白鯨の裡に日暮れの水平線
激流の合い間に見えて桃の花
雛の目はみな細きゆえ乱世見ず
白鳥の光をこぼす水平

森谷一成
樅の木を遺して一社滅びけり
薔薇垣の闇のくれない一社消ゆ
一社失せ窓に寝待の月が居る
滅びたる大方形の日短し

羽畑貫治
わが病十種を超えて山笑う
立ち漕ぎを続けいたり黄水仙
曾孫抱くことのまさかと木瓜の花
岸壁や雲になる鳥揃いたる

立花カズ子
草々の根本ふくらむ春隣
マラソンの女子が梅の香まとい来る
一輪の梅ほのかなり文机

村上青女
初氷甕の金魚の動かざる
裸木に水やる心地する陽射し
幾千の蕾膨らみ桜大樹

永田文
深庇里いんいんと雪しまく
黒潮の縞目あやなす春隣
曲るたび音をあらため雪解水

越智小泉
浮かぶ句は風に飛ばされ春の山
補聴器を付けて外せる初音かな
犬ふぐり雲ゆるやかに北上す

両角とみ子       
春めきて手作りポーチから空へ
約束着物をつけてあたたかし
麗かや一番奥の店に居て

西嶋豊子
押車猫とはなれることなくて
臘梅の雨にうたれて美しく
寒夕焼長風呂となり猫と居る

2016年2月27日土曜日

ふるさとの事など語り蕗をむく 桑本栄太郎

ふるさとの事など語り蕗をむく 桑本栄太郎
『風のうた』芒の会第二句集。蕗をビニールハウスで栽培していますと、春先は慌ただしく過ぎていきます。霜が降りると夜中でもハウスを見に行き、ビニールを二重にかけます。刈り取って出荷するのも一家を挙げての作業です。作業場には、蕗のいい香りが充満し、ああ春が来たんだなと目も鼻も活性化していくようです。蕗を茹でて皮をむくとき、そんなふるさとでの情景が鮮やかに浮かんでくるのです。

2016年2月26日金曜日

半分に割り焼藷の湯気ふたつ 金子 敦

半分に割り焼藷の湯気ふたつ 金子 敦
「出航」60号。焼藷を半分に割ることが、こんなにも豊かな気持ちにさせてくれるんだということを、改めて教わったように感じます。「半分に割り」という行為があって、次に割った焼藷からのぼる湯気に移るのですが、それが同時に「湯気ふたつ」とそれぞれにフォーカスが当たるように組まれています。ですから、一つの湯気は自分に、もう一つの湯気は人に与えることになるだろう、と。その人は、作者にとって大切な人なのにちがいない、と。どんどん想いがふくらみます。一句が人の心をあたためてくれる、その典型です。

2016年2月25日木曜日

地球儀のそののち晴れず窓秋忌 松田ひろむ

地球儀のそののち晴れず窓秋忌 松田ひろむ
「鷗座」2月号。高屋窓秋忌は、1月1日。元日と詠むのか、窓秋忌と詠むのか、松田さんは後者に思いを込めました。私たちは地球儀を前にすると、その空の部分に居るのですが、どうもこの空は晴れる気配がありません。窓秋が亡くなったのは、1999年ですから、世紀末、新しい世紀はこんな世紀にしようという呼びかけもありました。その何れもが、実現するどころか、悪化の一途を辿っているようです。窓秋さんのダンディで静かな眼差しは、現代をどのように視ておられるのでしょう。

2016年2月23日火曜日

金魚死ぬ一滴も血を流さざる 星野昌彦

金魚死ぬ一滴も血を流さざる 星野昌彦
「景象」105号。金魚鉢に泳がせていた金魚が、静かに水に浮いています。他の二匹はまだ泳いでいますが、この金魚には寿命が来たようです。水を替え、餌を撒いて、大切にしてきたこの金魚の死を受け入れるためには、このような透徹した眼差し、抑制した表現が必要だったのです。このように綺麗に死にたいと、ふと想起させる一句。

2016年2月22日月曜日

「春愁」 岡田耕治

「春愁」  岡田耕治
途中から思案に移り春の夢
その人の春手袋をもてあそぶ
白梅に来て耳鳴を取りもどす
新しきインクを満たし犬ふぐり
正社員になったと春の苺含む
明るさや比叡の山に雪残り
春泥のスーツケースを鳴らし来る
網棚に鞄を上げて春夕焼
草臥れる春のコートもポケットも
春愁に肉焼く煙当てており

2016年2月21日日曜日

香天集2月21日 石井冴、谷川すみれ他

160221香天集 岡田耕治 選

石井 冴
輪になって蜜柑を開く作法かな
里神楽生なましきに触れてより
マフラーの一昨日を忘れけり
この神を離れずにいる寒鴉
薄氷の底の鏡が現われる
谷川すみれ
入学児眉間に力走りけり
満面の笑いのような山つつじ
子供らの帰り来る声雛飾
春夕焼烏一羽を放ちけり
会いにゆく悟朗という名の春の星
中村静子
流れ星漁火一つ増やしけり
秋の昼絵具のチューブ固くなる
いくたびも鯉浮き上る添水かな
遊具にて大きく回り秋の空
加地弘子
我に来て大胆になる秋の蠅
声に出し確信となる寒鴉
この庭に慣れてほどなき菫かな
定年の夫と向き合う蜜柑にて
中辻武男
寒ざらし固く茶筅の竹を組む
端数のみ噛むことにして年の豆
陽炎や微かに老を和ませて
紅梅の香り漂う古城かな
竹村 都 
葱きざむ父似の指の荒れており
血管を探れる指の冷たさよ
雪の朝定刻にバス通りゆく
書初は「夢」と御歳百二歳

・この神を離れずにいる寒鴉  石井 冴
 枯木や電柱に動かずにいる寒鴉。その姿を石井さんは、
「この神を離れずにいる」と表現しました。神社や教会に
居た鴉かもしれませんが、鴉そのものに「神」を感じてい
るにちがいありません。寒鴉という、どちらかと言えば負
の存在の内に神を見ようとする、この眼差しは鈴木六林男
師に通じているようです。(耕治)

2016年2月20日土曜日

チューリップ出てくるはずの鉢覗く 瀬戸優理子

チューリップ出てくるはずの鉢覗く 瀬戸優理子
「WA」73号。第33回現代俳句新人賞受賞作品から。秋、形のふっくらした球根を選び、少し浅めに鉢植えしたチューリップは、春が近づくとこの土から顔を出してくれるはずです。どんな高さで、どんな花を咲かせてくれるのか、それを楽しみにしながら時に鉢の中を覗きます。特に水やりもせず、外に出したままですので、かえってその成長が気になるのです。流れゆく日常を切り取る、清冽な眼差しの書き手が登場しました。

2016年2月19日金曜日

真っ先に麒麟の首が秋に入る 久堀博美

真っ先に麒麟の首が秋に入る 久堀博美
『哺乳類50俳句』BALASSI KIADO。大学関係者のネット句会から生まれたビジュアルな句集。哺乳類50句を日本の俳人10人が提供し、パーパイ・エーヴァさんが絵をつけ、書家が俳句を書き、翻訳者が翻訳するという、世界に開かれた句集。久堀さんは、「香天」同人。暑さの中にもふと秋を感じたとき、目の前に麒麟が聳えています。ああこの首のあたりから秋がはじまるのだな、と。

2016年2月18日木曜日

家遠く来てしまいけり木の芽道 吉本和子

家遠く来てしまいけり木の芽道 吉本和子
『七曜』七曜企画。帯には、娘・よしもとばななさんの次のような言葉が添えられています。「少しおしゃまで悲しく、世の中にいるには繊細すぎるくらい美しい感性の童女がこの本の中でまっすぐに立っている。私はこの才能のどのくらいを受け継ぐことができたのだろうか」と。木の芽を辿っていくと、知らないうちに遠くまできてしまったことよ。でも、それもいいとしましょうか。そんな気分が、読む者をあたためてくれます。

2016年2月17日水曜日

生きるとは帰らざること秋の風 渡辺誠一郎

生きるとは帰らざること秋の風 渡辺誠一郎
『小熊座の俳句』大宅映子さんは「死ぬとわかっていてなぜ人は生きていけるのか。その根源的な理由を考えるのが、文学部というところです」と。この句からその理由を教わったように感じています。「帰らざること」の連続、それが生きるということ。ならば、帰らざることを恐れなくともいいのかと。秋風を惜しむように、一句が立っています。

2016年2月15日月曜日

「駅まで」 岡田耕治

「駅まで」 岡田耕治
春の夢うなじへと日の当たりけり
弁当をゆっくり食べて恋の猫
春寒の道場にまず礼をして
ほっぺたを合わせていたり猫柳
奥の深い店にはまりて春の昼
スプリングコートやすやす転びたる
一つずつ集中のあり犬ふぐり
駅までは一緒にゆける春夕べ
封を切る前の手紙よ春浅し
春雪を濡れ来し髪の眠りかな

2016年2月14日日曜日

香天集2月+選後随想 中嶋飛鳥、畑中イツ子ほか

中嶋飛鳥
泥付けたまま太葱を寝かせおく
葱の香やケトルが硬き声を上げ
如月のポキポキと折れ文字の肩
六丁目のポストへ迂回西行忌
あたたかや古書肆の台の黒光り

畑中イツ子
藪椿鳥うらがえり蜜がある
寒落暉車中の口を静止して
冬晴や押入れ急に活気づく
太鼓一打新年の灯の瞬けり

【選後随想】
奪うもの未だあるらし初山河  森谷一成
 人はこの地球から様々なものを奪ってきました。新しい年を迎え、自然に相対したとき、「奪うもの未だあるらし」と感じた作者の感性に共感します。こんなにも奪い、傷つけてきたのに、自然は黙ったまま新しい年を迎え、この私たちを迎えているのです。

焚火跡二本の足で立っており  石井 冴
 表現されている内容よりも、そう捉えている視線そのものが、優れた句を生み出すことがあります。二本の足で立つというのは当たり前ですが、焚火跡の低さの前に足だけが置かれているアングルには、不安さえ感じます。このアングルから、様々なことが想起されるのです。

あたたかや古書肆の台の黒光り 中嶋飛鳥
 古書肆には、台がつきものです。高い書棚から本を取り出すために置かれた踏み台もそうですが、奥に店主が坐っているその台もなくてはならないものです。それらが黒光りして、店の外の明るさを写し取っているようです。こんな古書肆にふらっと入って、背表紙を眺めたくなりました。

2016年2月13日土曜日

雪遊びしてゐる声が空からも 関根かな

雪遊びしてゐる声が空からも 関根かな
『小熊座の俳句』所収。宮城県在住の作者ですから、日頃から雪で遊ぶ子どもたちの姿が間近にあるでしょう。賑やかな子どもたちの声が、空からも聞こえてくるという表現は、よりそれを増幅させます。しかし、この声が目の前の子どもたちのものだけではないという現実は、この合同句集を読み進む者には自明のことです。だから、震災で姿を消した子どもたちの無念が一瞬顔を覗かせますが、いや本当に一緒に雪遊びをしているのだとも感じられます。

2016年2月12日金曜日

鬼哭とは人が泣くこと夜の梅 高野ムツオ

鬼哭とは人が泣くこと夜の梅 高野ムツオ
『小熊座の俳句 三十周年記念合同句集』。今朝の「折々のことば」で鷲田清一さんは、言葉は「世界のオブラートを剥がし、凝固した世界を溶かし編みなおすため、世界を別な仕方で切り開くためにある」と。合同句集の冒頭にある高野さんの「岳樺」は、まさにこの言葉どおりの二十句だと感じます。東北大震災を視つめることによって、世界を切り開こうとする一巻の重みを味わいたいと思います。鬼哭とは、浮かばれない亡霊が泣くこととありますが、亡霊などではなく今ここにある人が泣き出している、そんな夜が続いているのだと、一句は静かに語っています。

2016年2月11日木曜日

寒卵啜れば白身遅れけり 次井義泰

寒卵啜れば白身遅れけり 次井義泰
「花苑」2016年冬号。岡田家に嫁いだ母は、私を妊っていました。飼っていた鶏の卵は祖父から順に食べることになっていましたので、なかなか母まで回ってきません。そこで母は、鶏小屋に入るとすぐに卵を生で呑み込んだことがあるそうです。少しでもお腹の私に栄養を付けたいと思ってのことで、私の大切なエピソードになっています。次井さんのこのリアルな句を読んで、ああ母の喉にも、白身がどろっと遅れて入ってきたのだと思い出させてくれました。

2016年2月9日火曜日

ささやかな落葉を焚いてをられけり 島田牙城

ささやかな落葉を焚いてをられけり 島田牙城
「俳句アルファ」増刊号・「いのちの俳句」。森の中の落葉はそのままでも腐葉土になりますが、庭の落葉は害虫や病気の原因となる菌を翌年の春まで持ち越さないよう焚火にしていました。(過去形)燃やしたあとの草木灰には、花を咲かせたり、根や茎を育てたりするための栄養があると言われています。焚火をすることそのものが、いのちを養うことなのです。しかも、焚火をする人への「をられけり」という尊敬には、その人のいのちや思想を受け継いでゆこうとする意思が感じられます。特集に相応しい一句に出会うことができました。

2016年2月8日月曜日

逆光の横顔にして蝸牛 久保純夫

逆光の横顔にして蝸牛 久保純夫
「儒艮」16号。「新・若冲++を眺めながら」と題された75句から。描かれた若冲の生きものを観ていますと、不思議な緊迫感があって、その内にその世界に引き込まれていきます。その緊迫が「逆光」であり、引き込まれてゆく温もりが「横顔」というキーワードで表されているようです。この蝸牛の実在感を若冲を眺めることによって自分のものとするとは!
恐るべし、久保純夫。

2016年2月7日日曜日

「天辺は青」 岡田耕治

「天辺は青」 岡田耕治
  「運河」六〇周年記念二句
天辺は青チベットの冬帽子
春隣喜寿の書物を賜りし
飲み干すはかすかなにごり寒造
大阪のビルの凸凹寒明ける
春立ちぬ何もかもこの抽斗に
一つずつ五感を使う梅の花
雪解のかすかな揺らぎありにけり
対話劇春の月から始まりぬ
二ン月を乾いていたり日高川
白梅の幼き顔を間近にす

香天集1月・2月 石井冴、坂原梢ほか

香天集1月(2)・2月(1) 岡田耕治 選

石井冴
泥水がたっぷり一月の仕事部屋
焚火跡二本の足で立っており
冬日影夢を見るには眩しくて
耳穴に少女を隠す雪うさぎ
眠り落ちれば梟の森となる

坂原 梢
乗初の潜水艦が沈む音
去年今年味覚の変わる心持ち
冬の海光の見えぬ友と来て
針をさす脊髄のあり虎落笛
散るための色を湛えて姫椿

加地弘子
北窓を明るい色に塞ぎけり
もう一人近づいて来る寒椿
羽衣を纏いし妣の冬の月
目を閉じて力をためる冬の鳥

久堀博美
おそらくは要らざるものを年用意
春を待つ気付きたること書き留めて
白障子揺すぶるほどに笑いけり
小晦日落語漫才見て終わる

橋本惠美子
最後まで柚子残りたる出湯かな
待つという時を満たして鶴の凍つ
ストーブの声出している背中かな
立ち尽くす西郷さんの鼻に雪

宮下揺子
就活と終活の居て実南天
老人の軽き足取り冬帽子
十二月消えてしまいしEメール
ライターで紐切ってより時雨れけり

両角とみ子
幼きを手元に集め毛糸編む
異を唱うただ一点に寒卵
空耳の続いていたる夜寒かな
恋人のように飛び付き初笑

浅海紀代子
猫捜すちらしが貼られ年の暮
トランプも歌留多も遠き畳かな
初句会笑い残して終わりけり

羽畑貫治
マイナンバーしかと貼り付け年明ける
ピン球にもたついており今朝の冬
一人寝となりし北窓塞ぎけり

立花カズ子
星空を遠廻りして初詣
しばらくは邪念を離れ冬の月
雪見風呂こころの一つほどけゆく

小崎ひろ子
雪降るや空には誰も居やしない

泣く我と笑ふ我あり蕗の薹

2016年2月6日土曜日

日脚伸ぶ住みたき国を告げ合ひて 今井 聖

日脚伸ぶ住みたき国を告げ合ひて 今井 聖
「俳句界」2月号。昼の時間が長く感じられるのは、日暮が近づいてくる頃です。大阪には昔から立ち飲みの店がありましたが、新しく出来た店でも立って飲むように造られています。そんなおしゃれな店でしょうか、これから住むとしたらどんな国がいいかと対話が始まりました。どの国にも移り住むことができるという対話は、この国への絶望をも軽くしてくれるようです。

2016年2月5日金曜日

尽日を山に働く花の内 茨木和生

尽日を山に働く花の内 茨木和生
「俳句界」2月号。「花の内」という季語を使った句を初めて見ました。weblio辞書には、「東北地方での小正月から月末までの間の呼称」とありますが、とても美しい言葉です。そんな言葉に配されているのが、林業を営む人。大自然と向き合い、長い年月をかけての仕事は、達成感があると聞いたことがあります。だからこそ、厳しい寒さの中でも仲間とともに終日山にいることができるのです。

2016年2月3日水曜日

大きめの靴に履きかえバレンタインの日 渡辺誠一郎

大きめの靴に履きかえバレンタインの日 渡辺誠一郎
「俳句四季」2月号。「季語を詠む」というコーナーにバレンタインデーを詠んだ20人20句が並んでいます。これは作っても成功しない季語だなと読み進みますと、最後にこの句と出会いました。なぜ一度履いた靴を大きめの靴に履き替えたのだろうと、思いを巡らすことができます。バレンタインの日は、この人と思う人からチョコレートを貰えなかったり、その人から初めてチョコレートを貰ったりと、何が起こるか知れません。そこで、足元も少しニュートラルにしておく必要があるのかと。

2016年2月2日火曜日

草笛のそのくちびるのふるさとよ 豊里友行

草笛のそのくちびるのふるさとよ 豊里友行
『地球の音符』沖縄書房。沖縄の現実を撮り続ける写真家の句集。草笛を吹くくちびるのふくらみと色づきは、少年時代を過ごしたふるさとに真っ直ぐにつながっていきます。自分なんてダメなことばかりだと思わされ、心を急かされつづける時代。そんな時代を捉えつづけるまなざしが、このようななつかしいひとときを出現させました。

2016年2月1日月曜日

膝に来る蚊を友にして日向ぼこ 有馬朗人

膝に来る蚊を友にして日向ぼこ 有馬朗人
「俳句」2月号。特別作品50句は、時空をかける作者を感じることができます。幼年に戻り、沖縄に渡り、中国を旅し、宇宙を俯瞰し、生きとし生けるものに注がれる視線は自在です。掲句、日向ぼこをしていますと、一匹のか弱く大きな蚊が飛んできました。間もなくつきる命を「友にする」、有馬さんの人間性が息づいています。