2016年2月28日日曜日

香天集 2月28日 高橋もこ、浅海紀代子ほか

香天集2月28日 岡田耕治 選

高橋もこ
確りと折りたたまれて初みくじ
海鼠には別の答を用意する
春の水指やわらかく追い続け
別別の手が出て蕗を煮るところ

浅海紀代子
寒の水満たしていたり子の忌日
診察を終え正面の春の虹
戻り来ぬ猫の皿あり春の夜
忘れたき事も無くなり青き踏む

橋爪隆子
先生に聞いてもらって小春かな
マスクしてイヤホンをして閉ざしけり
大寒の噛んで野菜の甘きこと
一羽のあと一群発ちぬ初雀

藤川美佐子
三月の公民館に新刊書
淡雪やしずかに混める作品展
幾度も夜を掘りおこす猫の恋
永き日の税の申告してかえる

今川靜香
老いてより求む硯を洗いけり
ほらほらと指す綿虫を見失う
竹の春観音堂に忘れ杖
茄子漬けや母の色へと近づきて

中濱信子
着ぶくれて坂上がりくる八十路かな
まだ壁になじまぬ形初暦
咆哮のとだえし山に寒の雨
寒明けるスリッパの音高くして

橋本惠美子
雪降れり西郷さんの目を捉え
年詰まる右往左往のプリンター
警笛を二つ鳴らして仕事始め
水槽をきれいに磨き春兆す

澤本祐子
凍返る動かなくなる掛時計
ときおりの風の見えくる梅の香よ
穏やかな日々をこぼれて梅の花
窯跡の轍となりて黄水仙

坂原梢
倒れたる青い光線霜柱
山茶花や橋のたもとにこぼれいて
不器用になったと枯木伐られけり
回覧板春一番を連れてくる

大杉衛
白鯨の裡に日暮れの水平線
激流の合い間に見えて桃の花
雛の目はみな細きゆえ乱世見ず
白鳥の光をこぼす水平

森谷一成
樅の木を遺して一社滅びけり
薔薇垣の闇のくれない一社消ゆ
一社失せ窓に寝待の月が居る
滅びたる大方形の日短し

羽畑貫治
わが病十種を超えて山笑う
立ち漕ぎを続けいたり黄水仙
曾孫抱くことのまさかと木瓜の花
岸壁や雲になる鳥揃いたる

立花カズ子
草々の根本ふくらむ春隣
マラソンの女子が梅の香まとい来る
一輪の梅ほのかなり文机

村上青女
初氷甕の金魚の動かざる
裸木に水やる心地する陽射し
幾千の蕾膨らみ桜大樹

永田文
深庇里いんいんと雪しまく
黒潮の縞目あやなす春隣
曲るたび音をあらため雪解水

越智小泉
浮かぶ句は風に飛ばされ春の山
補聴器を付けて外せる初音かな
犬ふぐり雲ゆるやかに北上す

両角とみ子       
春めきて手作りポーチから空へ
約束着物をつけてあたたかし
麗かや一番奥の店に居て

西嶋豊子
押車猫とはなれることなくて
臘梅の雨にうたれて美しく
寒夕焼長風呂となり猫と居る

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