2018年4月30日月曜日

「動物園」12句 岡田耕治

動物園  岡田耕治

  天王寺動物園六句
鳥たちの道に流れて春の水
春眠を揺らすコアラとなっており
春の空ペンギンとして遠く見る
狼の走り続ける春愁
青鷺のいつから我を見ておりぬ
春の匂して夜行性動物舎

一人ずつ友だちが増え浅蜊汁
駅からの会話途切れず新入生
ポケットの歳時記にして草芳し
イヤホンが歩くスイングスプリング
お互いに反対に居て春の駅
ハイヒール新しくして夏兆す


*天王寺動物園にて。

2018年4月29日日曜日

香天集4月29日 渡邉美保、澤本祐子、砂山恵子ほか

香天集4月29日 岡田耕治選

渡邉美保
揺れてゐる芥子から順に切られけり
内部より波の音して浦島草
草芳し四人五脚はすぐ倒れ
時時は瘤を揺らして聖五月

澤本祐子
沿線や今日は昭和の春夕日
人の世に背きコアラは目を閉じる
蝙蝠やスケッチの子の的になり
春昼を身じろがぬ虎耳立てて

砂山恵子
ごめんねと言へないでいる木の芽和
豆の花系図の中の我と子と
憧れが紙風船を押し上げる
張り詰めたるこころに届き雪解風

坂原梢
河馬一匹口の中干す春の昼
ふるさとのよく見えてくる山桜
葱坊主どこへいくのと問われたる
一村のやさしさ香る桃の花

中濱信子
山櫻遮るもののなき湖面
木蓮の白より暮るる人里よ
譲ったり譲られたりの彼岸径
犬ふぐりことのはじめを咲きにけり

北川柊斗
闇桜ユダのささやきもて散れり
夕映えや霏霏なる飛花の大舞台
花冷えや三味の音もるる石畳
花は葉に人さらさらと流れゆく

古澤かおる
花は葉に道具袋を腰に巻く
夜桜やたった一人で来てしまう
霾や苦手なものに展開図
牡丹の芽指を伸ばせば電気走る

木村博昭
砂を盛る幼き指や花の昼
暮れかぬる地に描かれし笑顔かな
まっすぐに生きるがよろしチューリップ
ゆく春へ手を振りつづけ車椅子

越智小泉
川に沿い風を遊ばす青柳
陽炎や若者言葉混み合いて
奥宮へ登る石段百千鳥
山つつじここから墓地へつづきけり

村上青女
石垣に沿う坂道の花畳
公園の芝生羽織りし花畳
長ぐつの腕組みの人田水待つ
笑顔連れ桜の国の始まりぬ


*昨日関西現代俳句協会の総会が行われたヴィア—レ大阪のエントランス。

2018年4月28日土曜日

「若鮎」12句 岡田耕治

若鮎  岡田耕治

朝早く起きている子の花祭
春の雲象の形をしていたる
ちちははの声のしている春の山
さくらんぼ明日には食べることにする
お喋りに浅蜊の殻の積み上がる
春の月頭を反らし過ぎており
出来立ての豆腐が沈み春の水
蕗の薹体の熱を放出す
大皿や春筍を取り分けて
春大根オリーブオイル滴らす
若鮎や今日と明日をつなぎたる
炊込の御飯に香る三つ葉かな


*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年4月26日木曜日

香天集4月22日 谷川すみれ、玉記玉、石井冴ほか

香天集4月22日 岡田耕治 選

谷川すみれ
梅雨の蝶ひと足づつをのぼりたる
感じては先に逃げたるあめんぼう
そしてまた空地になりて額の花
人のなき樟をへだてて祭笛

玉記玉
この風は男でござる凧
種芋の九十グラムとは本気
山ざくら前頭葉という異国
風船を離す決心して汀

石井 冴
春障子ときどき風を拾いけり
菜の花忌その一本を水に挿す
蒲公英踏む何もなかったかのように
雲下りて鞦韆になる枝がある

中嶋 飛鳥
春耕の男に光るイアリング
背にふれ金網にふれ紋黄蝶
青蔦の押し寄せてくる咀嚼音
空耳や満天星の白細く揺れ

三好広一郎
春泥に乳房投げ打ち牛眠る
サイバーに備えて春の糸電話
卒業子ポケットの手はきっとグー
自転車のスポーク見えるほどの春

加地弘子
岬までひと駅遠き春の雲
混雑をずらし静かに蝶生る
蟻穴を出でて狼走り出す
葉桜やもうひと眠りできるよう

橋爪隆子
じゃんけんで降りる石段春夕焼
「雛まつり」大正琴を弾きたる
診断は加齢の一語ヒヤシンス
山桜より山の色湧きあがる

中辻武男
寒戻り拗ね出している膝小僧
声残し水面飛び去る初燕
幾つもの渦潮声を弾ませて
天空の城へたなびく春霞

永田 文
柳絮飛ぶあわきひかりに沿うように
月の前祖母のつくりし蓬餅
栄螺焼く笛吹くように香をゆらし
芽吹く木々その渓谷にひかる波



*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年4月25日水曜日

「入学式」12句 岡田耕治

入学式  岡田耕治

花の下LGBTプラスQ
春の鹿静かな水を渡りけり
回復のための空腹松の芯
どの木にも番号のあり花の奥
よく寝たと言う人と居るさくらかな
老年と幼年だけに燕来る
干鱈をあぶり言葉を選びけり
入学式よくうなずいてくれる人
蒲公英や回転数を速めたる
花衣ふくらむ風を押さえたる
鶯のケキョのところが止まらない
草芳し沈み込みたる椅子の脚
*大阪教育大の学生の作品です。

2018年4月15日日曜日

香天集4月15日 三好つや子、神谷曜子、中濱信子ほか

香天集4月15日 岡田耕治 選

三好つや子
瞑想の椅子に春星降りてくる
風車になりそこねたる河馬の耳
点滴の音なき音や菜種梅雨
かくれんぼの鬼だけのこる桜かな

神谷曜子
大空の帰雁に交り兜太逝く
春の風丸に四角になりたくて
渡来人のズボンふっくら春の昼
梟よ同じこと言う我を叱れ

中濱信子
向き向きに百の蛸壺日脚伸ぶ
揺らぎいる方を剪りたり水仙花
沈丁花郵便受をはみ出して
ひらがなの「つぼみ」から咲く初桜

村上青女
子猫来る孫来ることを待ちわびて
節分の豆残りたるくつの中
平和への投票の日や春立ちぬ
春の朝水族館の獣泣く

岡田ヨシ子
浮かびたることを忘れて春の海
春しぐれ老いたることを競い合い
木の芽和レシピを学び続けては
海中や揺れる若布に届かぬ手


*昨日、香天の総会を開催し、天王寺動物園の吟行を行いました。

2018年4月7日土曜日

香天集4月8日 橋本惠美子、中村静子、釜田きよ子ほか

香天集4月8日 岡田耕治 選

橋本惠美子
ストーブを囲むアルミの弁当箱
昨日会い明日会う人に賀状書く
仕事始手にアルコールすりこむ
子供らを外へ連れ出す雪女

中村静子
離陸機の音に遅れて風光る
ぶらんこが飛び出す空のがらんどう
沈丁花色よりも香の褪せている
苗札の指紋の形土香る

釜田きよ子
落椿五体投地の如くあり
誰からも好かれ飽きられチューリップ
妖精の帽子にならんスイートピー
石投げて少年春を波立たす

宮下揺子
たおやかな母のようなる寒卵
産土は秩父と言いて兜太逝く
おぼろ月散歩に薄荷飴含み
春の月離婚をしたと告げられる

長谷川洋子
節料理青き器に盛り付けて
数の子の上で踊りし鮪節
褒められてたたき牛蒡の茹で加減
反り返る小さくなりしごまめの背

羽畑貫治
ピン球の軽く弾んで春日向
一斉に桜蕊降る空き校舎
入れ替わり鳥が宿れる花馬酔木
春日傘ポニーテールを隠したる



*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2018年4月4日水曜日

道化から曲技にうつる際の汗 竹中宏

道化から曲技にうつる際の汗 竹中宏
「翔臨」第91号。ピエロは、曲技と曲技の間をつなぎながら見る者を笑わせてくれます。時に、ピエロ自身が曲技を披露することもあります。その瞬間、ピエロの顔に描いた涙ではなく、汗が浮いていたのです。笑いを取ろうと動き回ったための汗でしょうか、これから始める曲技のための緊張の汗でしょうか。

*大阪教育大柏原キャンパスにて。

2018年4月2日月曜日

「紙風船」12句 岡田耕治

紙風船  岡田耕治

黄水仙耳を明るくしていたり
くちびるに触れ三月の紙吹雪
皺くちゃに紙風船の膨らみぬ
ざく切りの春キャベツから始まる
質問の時間に移りヒヤシンス
いかのぼり一瞬眉をひそめたる
この匂い突き止めているフリージア
種袋振って頭を軽くする
ゆっくりと触れてゆきたる春の夢
二上山笑みを広げていたりけり
満開の水の音する桜かな
噴き上がる時を同じくする落花

*南海線「岸和田」駅にて。

2018年4月1日日曜日

香天集4月1日 石井冴、森谷一成、渡邉美保ほか

香天集4月1日 岡田耕治 選

石井 冴
騒がしく手の冷たさを握り合う
赤子から泡立ってくる春の家
コスチュームプレー糸遊を曳いていく
透明を苦しいという風信子

森谷一成
ひとむきに氷雪を嚼み舞上がれ
穴を出る玄武青龍朱雀白虎
中空(なかぞら)にわれ在り三月十一日
永き日のJOBとWORKを交ぜており

渡邉美保   
花冷えや熟成といふ樽の底
手品師に気づかれぬやう春蚊出づ
耳裏の痒しタンポポ咲き始め
花びらのなかの椿象冴え返る

西本君代
雛あられうつわ折る子にもたらされ
花芽よりとんがってくる葉の芽かな
花開くわずか手前を切るボール
チューリップゆっくり言葉選ぶこと

澤本祐子
春二番とんちんかんの声を出し
春の宵金の湯へ行く下駄の音
ふらここの腕が翼となってゆく
陽のひかりつくしんぼうをつたいくる

安部礼子
魔性への境が見えて朧月
春の昼人の残滓を顕にす
三寒や人肌じかに誑かす
屋内の残響を抜け卒業す

坂原 梢
春光の音をたのしむゲートボール
啓蟄やスマートフォンをデビューして
耕して喜寿を迎えるトラクター
指先のたしかに弾み種を蒔く

越智小泉
鳥帰る生国聞かずじまいなり
ふと出ずる訛のありて蓬餅
彼岸寺一打一打を響かせて
対岸のさくらの一枝仏壇に



*大阪府泉佐野市にて。