香天集4月22日 岡田耕治 選
谷川すみれ
梅雨の蝶ひと足づつをのぼりたる
感じては先に逃げたるあめんぼう
そしてまた空地になりて額の花
人のなき樟をへだてて祭笛
玉記玉
この風は男でござる凧
種芋の九十グラムとは本気
山ざくら前頭葉という異国
風船を離す決心して汀
石井 冴
春障子ときどき風を拾いけり
菜の花忌その一本を水に挿す
蒲公英踏む何もなかったかのように
雲下りて鞦韆になる枝がある
中嶋 飛鳥
春耕の男に光るイアリング
背にふれ金網にふれ紋黄蝶
青蔦の押し寄せてくる咀嚼音
空耳や満天星の白細く揺れ
三好広一郎
春泥に乳房投げ打ち牛眠る
サイバーに備えて春の糸電話
卒業子ポケットの手はきっとグー
自転車のスポーク見えるほどの春
加地弘子
岬までひと駅遠き春の雲
混雑をずらし静かに蝶生る
蟻穴を出でて狼走り出す
葉桜やもうひと眠りできるよう
橋爪隆子
じゃんけんで降りる石段春夕焼
「雛まつり」大正琴を弾きたる
診断は加齢の一語ヒヤシンス
山桜より山の色湧きあがる
中辻武男
寒戻り拗ね出している膝小僧
声残し水面飛び去る初燕
幾つもの渦潮声を弾ませて
天空の城へたなびく春霞
永田 文
柳絮飛ぶあわきひかりに沿うように
月の前祖母のつくりし蓬餅
栄螺焼く笛吹くように香をゆらし
芽吹く木々その渓谷にひかる波
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
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