2018年7月30日月曜日

「石鹸の匂い」16句 岡田耕治

石鹸の匂い  岡田耕治

  法隆寺三句
大旱の月光仏に辿り着く
北面のことに涼しき涅槃像
打水を行くかんばせを深くして
合宿の一人ひとりの西瓜立つ
石鹸の匂いの中の裸かな
つくづくと命を使う熱帯夜
何もしない時間を決めて花芭蕉
生き方を変える学びの蚊遣香
商品を並び替えたる涼しさよ
汗ひいて一千字へとたどり着く
引き受けており泣虫の日焼の子
枇杷の種飛ばす答えのない問いに
ズタズタにしてジーンズの素足かな
夕立を見ている時を授かりぬ
夕立や風を整え上がりゆく
好きなだけ眠りし汗の体かな


*授業分析のためのホワイトボード。

2018年7月29日日曜日

香天集7月29日 辻井こうめ、谷川すみれ、中濱信子ほか

香天集7月29日 岡田耕治選

辻井こうめ
打水の水のかほりの記念館
天滝の天を突き裂く真白にて
集まりてビブリオバトル雲の峰
青き海に浮かべしトマト齧りけり

谷川すみれ
数数の石榴の空をミサイル飛ぶ
十月の家の境界消えやすし
橡の実と骸を箱に入れ帰る
中にいる烏の合図見逃すな

中濱信子
くっきりと我が影濃ゆき梅雨晴間
よく動く綾取りの指梅雨の明
擬宝珠や天気予報のよく当たり

ゆったりと植田は水を落ちつかす

前塚嘉一
複眼に見破られたり捕虫網
七月の火星を観よと誘われる
甘酒を咎めなく飲む真昼かな
七夕や一日だけの合唱団

安部礼子
日差しめく地図記号いま溽暑なる
無機質な道 朗らかな夏帽子
妄想の果てなき夏の終りけり
樹々どれもアシンメトリー風死せり

村上青女
夏の空全部吸われてみたくなり
目の前も右も左もあゝ青田
思い出ずちちははのこと籐枕
「つかれた」と壁の落書かたつむり

越智小泉
色を増す青田の揺らぎ飽きず見る
海開足裏の砂波が削ぐ
サングラス刑事二人が足早に
鉾見上ぐ国籍問わず浴衣着て



*昨日の上六句会場、ホテルアウィーナ大阪にて。

2018年7月25日水曜日

「昼寝覚」30句 岡田耕治

昼寝覚  岡田耕治

   「ちちんぷいぷい」に一句
友達のピンクのジャケツビール飲む
かき氷最も顔を近くして
途中から交換をしてかき氷
籠枕死ぬときまでは生きており
日盛るや小学校の鉄の門
合歓の花声の言葉を交わしけり
シャンプーもリンスも一緒洗い髪
冷房や真っ直ぐ上がる授業の手
さみだるるポケットにある通帳と
生きているものの大きく梅雨畳
真っ直ぐに立つこと難く滝の前
怒りから離れていたり百日紅
香水や時間どおりに訪ね来る
梅雨あがる写真の中の十五歳
一本の鉢の蓮に迎えらる
蝉しぐれ肩甲骨を近づけて
夏の川さかのぼり行く声と声
大花火最後を見ずに離れ来る
目の前を失っている旱星
いい顔になって近づく夏休
深深と触れてゆきたり夏の川
空蝉や息の静かな人と居て
私の身体を造り汗しとど
突然をまたたいている夏の蝶
近すぎて見えなくなりぬ虹の足
きっと蚊は握り拳の中にある
遠くから我を見ており昼寝覚
夏夕べ本の匂いを持ち帰る
ゆっくりと追い抜かれたる暑さかな
地上へと出て夕焼の中に居る
酒よりも読書を選び熱帯夜


*池田市の教職員と俳句づくりワークショップを行いました。池田市といえば、宇多喜代子さんがお住まいです。宇多さんの「コカコーラ持つて幽霊見物に」を紹介して、俳句を作っていただきました。写真は、高点句です。

2018年7月24日火曜日

香天集7月22日 加地弘子、三好広一郎、橋爪隆子ほか

香天集7月22日 岡田耕治 選

加地弘子
尺取虫端に来て風待ちいたる
捩花や祖母の花緒の形して
木耳までゆっくり登りつきにけり
河鹿笛そっくりに鳴く夫にも

三好広一郎
ブラインドの影持ち上げる金魚かな
熱戦のスタジアム棚田水沸く
この腰のどこからわたし皐月生れ
香水や魔の直球と変化球

橋爪隆子
動き出すまで青鷺に付き合へり
梅雨晴間「万引き家族」観てよりの
ゆったりと夏服を着る風を着る
雨あがる一万株の四葩かな

中嶋 飛鳥

翌る日の茅の輪をくぐり一礼す
ソセスシサ古扇風機回りだし
挨拶や朝皃を出す家の蛇
外郎へレースの膝を近くする

藤川美佐子
鳳仙花昭和を生きた友とあり
曲げ伸ばす手足のありて夏休
小さき手を大きくかざし雲の峰
時鳥空を明るくしていたる

木村博昭
隅隅まで新聞を読む半夏生
夏木立音のみ聞ゆ小海線
みはるかす青野を黒き牛の群
グランドに長き影落ちはぐれ蟻

永田 文
窓抜ける風や青田の香りして
白シャツや海のひかりの貝釦
夕焼がころがっている瓶の中
蚊遣香ぽろぽろ闇をこぼしけり

中辻武男
初蝉や豪雨の痕を叫び出し
双葉より芽ざめて茂る柿の実よ
ラベンダーの夏の光彩蝦夷地より
踏切の傍にあり朝な草



*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2018年7月15日日曜日

香天集7月15日 砂山恵子、岡田ヨシ子

香天集7月15日 岡田耕治選

砂山恵子
トマト買ふ自分で自分を責める日に
青鬼灯首のリンパを確かめる
またひとり名前消えたる油照
歩くほど空遠くなる夏野かな

岡田ヨシ子
換気扇豌豆飯の香り立ち
梅雨晴間心にゆとり身にゆとり
リヤカーで運ぶ田植の料理かな
雲と傘のマークが続きテレビジョン



*大阪府泉南市にて。

2018年7月8日日曜日

香天集7月8日 三好つや子、神谷曜子、中村静子ほか

香天集7月8日 岡田耕治 選

三好つや子
ピーマンの筋肉質の空気かな
まじないも薬のひとつ浮人形
紫陽花やずぶりと深い寺の昼
短夜の大型家電泣いている

神谷曜子
月見草咲いてフクシマ動き出す
花葵すなおになりて歩きけり
梅の実が落ちて生家は誰も居ず
関東の果ての麦秋居すわりぬ

中村静子
羽抜鳥声を嗄らしてしまいけり
玉虫の感触残り掌
黒南風や俎板の傷増やしいる
行く先やめまといすぐに察知して

釜田きよ子
かたつむり時速計算しておりぬ
捕虫網大きな雲を捉えけり
蜘蛛の囲の七色にして獲物待つ
少年の身体能力青芒

橋本惠美子
ビーカーに標本の浮き五月闇
蛇皮を脱ぐ上等の美容液
けんけんの丸蟻たちの結界に 
推考の始まる顎や夏の星

宮下揺子
沙羅の花九五歳の母待たす
木苺を食む消しゴムのような人
梅雨晴に遅れてきたる疲れかな
噛み合わぬ話しの中を夏の雨

坂原梢
太陽を受けし桜桃手のひらに
梅雨長し横木の疵を深くする
水澄雨に吹かれて交じりけり
初夏のさざなみ最中杭二本

羽畑貫治
白南風や今日のペダルを軽くする
すいれんの両耳立てて水に咲く
花茣蓙や外国人が指そろえ
うかうかと免許を返し夏の果


*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年7月2日月曜日

6月代表作品「ペンだこ」50句 岡田耕治

ペンだこ  岡田耕治

新茶くむいい質問ができる人
溶けながら沈んでゆけりソーダ水
絵本から出て素麺を食べ始む
番組の録画予約と梅雨に入る
コロッケが最も重し五月闇
寝顔から笑顔になってゆくトマト
弁当を開くや香るさくらんぼ
朝曇よく話せるように机組み
蟻に近く暮らしはじめし二人かな
冷し饂飩妻とはちがう音を立て
標的に近づいており梅雨の傘
講義する者には見えてはたた神
青梅を凍らせておく休みの日
燕子花思いを問いにしておりぬ
教科書を立てたままなる昼寝かな
ペンだこの小さくなりし夕端居
一銭も使わない日の扇風機
大酒の裸一貫寝てしまい
父の日をすべり出したるボールペン
画面から離れて蝉の生まれけり
新しいビール泡立つ体かな
燕子花先に安否を尋ねけり
動かない電車の中の扇子かな
100分を遅れて梅雨の車輌着く
遺しおくものなどないと水を打つ
新緑の午前はメール見ぬことに
歩いてはすぐに書き出す菖蒲かな
疲れたる日は焼酎を温める
梅雨の川男を重くしていたり
天皇の透き通りたる梅雨の傘
一本の胡瓜の距離を飲み始む
夏灯鉄道忘れ物センターの
初浴衣急にお腹が空いてくる
子どもらの高さに居たり草の息
噴水や口笛のよく通りたる
一文に要約をして冷素麺
六月のしだいに加速してきたる
畳むため君に向けたる梅雨の傘
  淺利敬一郎さんへ
退任の労をいたわり花氷
被災地に戻る人あり夏料理
レッスンは短く汗の止めどなく
爆音に震えていたり額の花
雨蛙あっという間に囲まれて
冷房やいつもラジオの流れたる
混む前の食堂に居て黄金虫
ていねいに枇杷食べてより発声す
梅雨晴間青を着て出ることにする
出勤を立ち止まりたる額の花
久しぶりに切りたる髪を洗いけり
贈るためジャムにしている苺の香



*関西大学梅田キャンパスにて。

2018年7月1日日曜日

香天集7月1日 石井冴、渡邉美保、北川柊斗ほか

香天集7月1日 岡田耕治 選

石井 冴
万緑や老婆が坐るくぼみあり
すれちがう刹那のずれてサングラス
地震あとの地面の茅の輪くぐりけり
シオトンボ瓦礫に長く伏せている

渡邉美保
短夜の掛軸を出る鯉二匹
梅雨深ししやがんで探すパスワード
円陣を組む九人と蟻二匹
甘酒やふるさとに鳴る波頭

北川柊斗
青芝をボールゆきかふ陰日向
大橋の擬宝珠の錆びも半夏かな
晨光や草のかげより黒揚羽
魂の浮き沈みする梅雨の闇

前塚嘉一
プールへの列眺めおり元教師
三日目をまだ夏草といる帰郷
紫陽花やドライフラワーなる命
六月や悲しき歌は明るうに

古澤かおる
沙羅咲いて新見南吉記念館
三回忌の孫ら十人梅雨畳
六月や法事の客の杖濡れて
青年に高く掲げし白日傘

木村博昭
千年の川の流れや小判草
筋少し歪みてそよぐ植田かな
翡翠に内緒話を盗まれる
青簾個人情報保護シール

安部礼子
泣砂の浜を晴らして雲の峰
廃屋の理由は知らず南風
思い出の樹幹の夏を抱いてみる
水たまり恐ろしきほど夏詰まる

越智小泉
親竹に添いて伸びゆく今年竹
夏蝶の速さの行方追いきれず
鴉啼くは何の前触れ青嵐
風の出て青田静かに波打てり



*関西大学梅田キャンパスにて。