2018年7月2日月曜日

6月代表作品「ペンだこ」50句 岡田耕治

ペンだこ  岡田耕治

新茶くむいい質問ができる人
溶けながら沈んでゆけりソーダ水
絵本から出て素麺を食べ始む
番組の録画予約と梅雨に入る
コロッケが最も重し五月闇
寝顔から笑顔になってゆくトマト
弁当を開くや香るさくらんぼ
朝曇よく話せるように机組み
蟻に近く暮らしはじめし二人かな
冷し饂飩妻とはちがう音を立て
標的に近づいており梅雨の傘
講義する者には見えてはたた神
青梅を凍らせておく休みの日
燕子花思いを問いにしておりぬ
教科書を立てたままなる昼寝かな
ペンだこの小さくなりし夕端居
一銭も使わない日の扇風機
大酒の裸一貫寝てしまい
父の日をすべり出したるボールペン
画面から離れて蝉の生まれけり
新しいビール泡立つ体かな
燕子花先に安否を尋ねけり
動かない電車の中の扇子かな
100分を遅れて梅雨の車輌着く
遺しおくものなどないと水を打つ
新緑の午前はメール見ぬことに
歩いてはすぐに書き出す菖蒲かな
疲れたる日は焼酎を温める
梅雨の川男を重くしていたり
天皇の透き通りたる梅雨の傘
一本の胡瓜の距離を飲み始む
夏灯鉄道忘れ物センターの
初浴衣急にお腹が空いてくる
子どもらの高さに居たり草の息
噴水や口笛のよく通りたる
一文に要約をして冷素麺
六月のしだいに加速してきたる
畳むため君に向けたる梅雨の傘
  淺利敬一郎さんへ
退任の労をいたわり花氷
被災地に戻る人あり夏料理
レッスンは短く汗の止めどなく
爆音に震えていたり額の花
雨蛙あっという間に囲まれて
冷房やいつもラジオの流れたる
混む前の食堂に居て黄金虫
ていねいに枇杷食べてより発声す
梅雨晴間青を着て出ることにする
出勤を立ち止まりたる額の花
久しぶりに切りたる髪を洗いけり
贈るためジャムにしている苺の香



*関西大学梅田キャンパスにて。

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