2019年12月30日月曜日

「着水」12句 岡田耕治

着水  岡田耕治

駅員の懐中時計しぐれ来る
枯はちす用心のため視ていたる
懐かしい人の名が出て花八手
聴診の電気ストーブ首を振り
赤鬼と青鬼が泣き年忘
冬木立親しきときを揺れいたり
何ものも負わずに渡り冬銀河
スピードの中のスピード冬雲雀
私とはこの白息のことならん
気にかかる記事を持ち寄り十二月
行く年の鏡半分ずつ映り
着水の速さを得たる木の葉かな
*京都嵐山にて。

2019年12月29日日曜日

香天集12月29日 谷川すみれ、石井冴、森谷一成ほか

香天集12月29日 岡田耕治 選

石井 冴
   十二月十二日
歩くために歩いていたり六林男の日
声白くなり水仙に許される
冬日向何でも知っているしっぽ

筋力を試していたり雪兎

谷川すみれ
烏の子首細くして涙して
桜の根いつまで地球を掴みいる
春の水こことは違うところへと
天空を占めたる力枝垂梅

森谷一成
秋冷の母はとんでもないベビー
一本のその半面のもみずるや
勝ち組の引っこぬかれて掛大根
煤逃げの靴紐結び直しけり

中嶋飛鳥
木の実降る左手に持つ灰落とし
縁取りは冬菊の白左様なら
龍の玉その刻の眼を疑わず
大団円手袋の手を握りしめ

三好広一郎
ドッチボール誰を狙えば小火になる
朝出せば夕方できるポインセチア
怒る人誰もいなくて蓮枯れる
退院の口に合わせて小豆粥

加地弘子
冬近しバケツの赤がすれて減り
数え日の階段下りて来る鼓動
十二月二人の歩幅揃い出す
帰り花散るときも濃き紅のまま

木村博昭
満員の犇めくマスクとスマートフォン
鯛焼を左手に持ちページ繰る
短日や聴く人の居てよく語り
大根の抜かれし穴のやすらかに

坂原梢
花嫁の衣装を合わせ小六月
大根煮る捩れた心ととのえて
年新た運転免許返納し
袋からはみでる葱の小走りに

中濱信子
冬座敷仏の前に椅子を置き
目とじればはげしくなりて冬至雨
十二月空を向くこと多かりき
風花に嫌われている両手かな

安部礼子
時雨の夜看守の靴の音残り
年の暮身をすり抜けていく何か
冬の湖バブル漂う遊覧船
湯豆腐のかけら一夜をそのままに

古澤かおる
煤逃や植物園の温室に
コート着て長く文具を選びけり
床柱撫でて磨いて年用意
石段を登りきったり冬満月

櫻淵陽子
鯛焼を空に掲げて泳がせる
使い捨て懐炉の音のささやかに
さりげなく大根二本提げてをり
冬の蝶光の声を聞くように

正木かおる
針の雨生きているかと冬が来る
ミニバンにきのう迄いた冬の蝿
聖夜からすこし離れた闇に居る
シクラメン提げてエプロン坂を往く

吉丸房江
その下に萌ゆるものあり冬木立
年用意赤い実だけを挿してみる
柚子しぼる指ペン先の香りけり
湯豆腐も心も踊りはじめたる
*岬町小島にて。

「ロングブーツ」10句 岡田耕治

ロングブーツ  岡田耕治

磨かれたドアノブにある冷たさよ
数え日のこの実一つを含みけり
世間から社会にわたる焚火かな
にぎやかに来て寒紅を引きはじむ
冬座敷ここを上座とすることに
六林男忌の眼に力入れて視る
先生の句を繰ってゆく枯野行
人参を砕く音させ朝っ腹
ロングブーツ門限までに帰りたる
院長と副院長の日向ぼこ

2019年12月21日土曜日

香天集12月22日 柴田亨、辻井こうめ、橋本惠美子ほか

香天集12月22日 岡田耕治 選

柴田 亨
赫赫と闇に溶け行く十二月
空白は夢の大きさ新手帳
ハヤブサを狙う三脚冬日向
猫といて欠礼はがき確認す


辻井こうめ
落葉踏む櫟林の愉しけれ
結球す時計回りの冬菜かな
風を聴く座禅道場散紅葉
あたたかい色の灯りや年用意


橋本惠美子
クマムシが先に住みたり後の月
昨日より明日を選び神渡
首のない鶏走る年の暮
点灯の瞬間を待つ懐炉かな


中濱信子
桃一つ二人で食すことにする
金木犀噂話のひろがりて
文化の日郵便受けに「俳句四季」
木守柿昏れ残りたるひとところ


岡田ヨシ子
ゆっくりとひょうたん南瓜色深む
一年を迎う結婚日向ぼこ
冬帽子白髪をかくすために編む
千両を根づかせている土のあり


今日・明日と若い教職員と合宿に入りますので、
一日早いですが、アップします。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
 

2019年12月16日月曜日

「新作」10句 岡田耕治

新作  岡田耕治

枇杷の花見える位置にて省察す
ひと息に色の衰え石蕗の花
白菜の柔らかくなる円居かな
月曜の朝一番の着膨れ
言うことを聞かぬ眼の耳袋
燗熱し監督が来る前に飲み
冬日向倍速にして本を聴く
映像の角度が決まり木守柚子
忘年の出汁巻玉子焼き上がり
新作に集まっている十二月

2019年12月15日日曜日

香天集12月15日 安田中彦、渡邊美保、澤本祐子ほか

香天集12月15日 岡田耕治 選

安田中彦
抽斗に狼のゐる至福かな
夢と知る夢のなかなる小白鳥
クリスマスあき箱に猫入りたがる
ただよふは冬の菫の独語かな

渡邉美保
冬青空カシンカシンと杭を打つ
茶の花の金の蘂まで飛んでゆく
冷ややかや顔認証で開くゲート
晩秋の救急箱に足すガーゼ

澤本祐子
つややかに色みちゆきて実むらさき
ていねいに林檎をむいて聞き上手
思うこと思い出すこと新松子
話すことつぎからつぎへ石蕗の花

神谷曜子
冬蝶になれるか免許返納す
冬の月考え事をするウサギ
界隈に反則多く寒鴉
思い切り弯曲をして寒のヨガ

中辻武男
牙彫柿本物よりも柿らしく
里の味蜜柑仕分けの影浮かぶ
早や師走宅配人の声高く
甲斐ありて寒蘭老いを潤せり
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2019年12月8日日曜日

香天集12月8日 三好つや子、砂山恵子、橋爪隆子ほか

香天集12月8日 岡田耕治 選

三好つや子
言霊の塒としての烏瓜
動物園に昼のない顔冬に入る
はにかみを深める遺影冬りんご
着ぶくれて私自身を俯瞰する

砂山恵子
黒潮を目指す寒夜の魚たち
海溝に鱗広がる霜夜かな
言霊を谷に潜めて山眠る
鈍色の雨の降る夜春着縫ふ

橋爪隆子
半ぺんの疲れ切ったるおでんかな
着ては脱ぎ脱いでは着けて十一月
夕暮を抜け出している石蕗の花
柿の竿空つついたりひねったり

宮下揺子
冬帽子北から戻り北へ行く
祭神は木彫りの「おかめ」一の酉
涙腺の緩い夫なり玉子酒
クリスマス美術館にて再会す

羽畑貫治
今年こそ禁酒を誓う大旦
にっこりと太師の笑顔葛晒す
寒月光明日へと出す力瘤
春近し一直線に齢重ね
*高槻市にて。

2019年12月7日土曜日

「睡眠中」12句 岡田耕治


睡眠中  岡田耕治

学校を飛び出している銀杏落葉
枯芭蕉これからをなお面白く
音立てて育ってゆけり冬の水
返り花心拍数を減らしけり
寒風の鼻から分けて縄暖簾
いくらでも時間を使う炬燵かな
木枯をゆっくりと茶葉沈みけり
生きることだけを考え冬の滝
抱き合っているだけでよき時雨かな
冬の蝶睡眠中に現れて
冬晴の光は命つつまれる
薬箱囲炉裏から手の届かない


2019年12月1日日曜日

香天集12月1日 玉記玉、森谷一成、夏礼子、西本君代ほか

香天集12月1日 岡田耕治 選

玉記 玉
随筆(エッセー)か小説(ノベル)か足袋を洗うのは
試すには梟の顔ずれている
蛇は穴に象形文字に関節
マスクしてみるキリンの首の暗さ

森谷一成
世間(よのなか)を短く飛んで石たたき
大和三山そのまんなかの秋深む
蓑虫われに極刑を冀い
冷まじやどれも百円プラス税

夏 礼子
ふるさとを近づけている月明り
足音の親しくなりぬ十三夜
闇新た金木犀の雨あがり
ひとり居の水つかう音秋深む

西本君代
袴着の男子をあやす写真館
毬栗の毬要る人は五十円
黄落や珈琲たてる男の手
冬近し胎動を聞く掌

橋本惠美子
十月をねぎらっておりフルコース
ハーレーを降り立つ女菊日和
立ち話す影をうつして冬菫
アダージョとラルゴの狭間冬の水

中嶋紀代子
ギブアンドギブをつづけて冬銀河
短日や帰宅時刻のメール来る
ペポかぼちゃ夜中にタンゴ踊るらし
認知症の夫持つ友の富有柿

釜田きよ子
ホチキスの乾いた音や秋暑し
温暖化知るや知らずや秋の蝶
蟷螂の膝しなやかに使いけり
文化の日レシピ通りにせぬ料理

北川柊斗
冬陽ざしテラスに並ぶハーヴティー
冬日受く老犬ねむる小さき屋根
蛇口より切れぬ雫や冬の鵙
ふつふつと我慢限界たうがらし

坂原 梢
竜の玉子のポケットをこぼれ出づ
平凡が良いことになる夜長かな
柚子刻むほどに香りの増しゆけり
木枯の今も瓦礫は町の中

北村和美
夕刊の痩せてゆくなり日短か
ピンホールカメラ瞬く冬の星
初時雨パズルのかたちして落ちる
返り花ふみの余白の白薫る

正木かおる
田園は少しさみしく鳥肥ゆる
黄落や墨の作務衣の忙しく
二度となき今日一日の梨を剥く
冬ざれの港を離れプリンセス

安部礼子
カメラのレンズ小春日を持ち帰る
黒電話置き寒紅を見てしまう
腸の細胞として雪仏
炎の色は寒の夜を無限にす

吉丸房江
抱き上ぐる子が甘柿に届くまで
友招き山茶花の咲く今が好き
茶の花の心底黄色あたたかく
首かしげクリスマスローズ聴き上手
*伊丹市柿衞文庫にて。