石井 冴
十二月十二日
歩くために歩いていたり六林男の日
声白くなり水仙に許される
冬日向何でも知っているしっぽ
筋力を試していたり雪兎
烏の子首細くして涙して
桜の根いつまで地球を掴みいる
春の水こことは違うところへと
天空を占めたる力枝垂梅
森谷一成
秋冷の母はとんでもないベビー
一本のその半面のもみずるや
勝ち組の引っこぬかれて掛大根
煤逃げの靴紐結び直しけり
中嶋飛鳥
木の実降る左手に持つ灰落とし
縁取りは冬菊の白左様なら
龍の玉その刻の眼を疑わず
大団円手袋の手を握りしめ
三好広一郎
ドッチボール誰を狙えば小火になる
朝出せば夕方できるポインセチア
怒る人誰もいなくて蓮枯れる
退院の口に合わせて小豆粥
加地弘子
冬近しバケツの赤がすれて減り
数え日の階段下りて来る鼓動
十二月二人の歩幅揃い出す
帰り花散るときも濃き紅のまま
木村博昭
満員の犇めくマスクとスマートフォン
鯛焼を左手に持ちページ繰る
短日や聴く人の居てよく語り
大根の抜かれし穴のやすらかに
坂原梢
花嫁の衣装を合わせ小六月
大根煮る捩れた心ととのえて
年新た運転免許返納し
袋からはみでる葱の小走りに
中濱信子
冬座敷仏の前に椅子を置き
目とじればはげしくなりて冬至雨
十二月空を向くこと多かりき
風花に嫌われている両手かな
安部礼子
時雨の夜看守の靴の音残り
年の暮身をすり抜けていく何か
冬の湖バブル漂う遊覧船
湯豆腐のかけら一夜をそのままに
古澤かおる
煤逃や植物園の温室に
コート着て長く文具を選びけり
床柱撫でて磨いて年用意
石段を登りきったり冬満月
櫻淵陽子
鯛焼を空に掲げて泳がせる
使い捨て懐炉の音のささやかに
さりげなく大根二本提げてをり
冬の蝶光の声を聞くように
正木かおる
針の雨生きているかと冬が来る
ミニバンにきのう迄いた冬の蝿
聖夜からすこし離れた闇に居る
シクラメン提げてエプロン坂を往く
吉丸房江
その下に萌ゆるものあり冬木立
年用意赤い実だけを挿してみる
柚子しぼる指ペン先の香りけり
湯豆腐も心も踊りはじめたる
*岬町小島にて。
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