2019年8月28日水曜日

「全力」10句 岡田耕治


全力  岡田耕治

軽くなる高校生の夏休
蜩や五時に雨戸を閉めており
秋風のことに大きな潦
稔り田や一本の草高くなり
赤蜻蛉大きく高くなりゆけり
それぞれの甘さ言い合い真桑瓜
露の玉全力をあげ何もせず
少しずつ秋の光の近づきぬ
秋の空敵を増やしていたりけり
今着いた人に香れる林檎かな
*色紙や葉書をインスタグラムにアップしはじめました。

2019年8月25日日曜日

香天集8月25日 夏礼子、石井冴、谷川すみれ、辻井こうめ他

香天集8月25日 岡田耕治 選

夏 礼子
深読みは苦手のままに冷し酒
向き合いし黙をくづしてかき氷
一本の鉛筆がある敗戦日
秋の虹もう追いかけるもののなし

石井 冴
プチトマト左の頬を出て来ない
黒麦酒ときに作法を変えてみる
表札のふたつを並べ水を打つ
天井に空が来ている昼寝覚

谷川すみれ
露が露寄りて転がる着地する
留守番や赤い小菊の夜が明けて
つぎつぎと黄葉を離す銀杏かな
九月去る自由な雲の形にて

辻井こうめ
白南風やキシキシキシと踏み洗ふ
百物語耳の手を少し開け
帰り来る彼の世の際を氷水
凭り掛かるものあらば凭る炎暑かな

橋本惠美子
にぎやかな延長保育豆ご飯
黒南風や要塞跡の隠れんぼ
籐寝椅子免許を返す背を乗せて
太陽をくるくる回す日傘かな

木村博昭
朗らかにいのち滅びてゆく極暑
美しき筆跡に会い夏料理
向日葵の裏側にある朝鮮史
八月の誰も流れていない川

古澤かおる
箱庭の水際に置き朱の鳥居
盆用意嬰児泣くにまかせたり
桑の実や里の土橋の向う側
私だけ瓢の種を授かりぬ

河野宗子
オルガンへ風の通いてアマリリス
夏の夜や燃ゆるフランベシェフの指
西瓜割大ちゃんの棒迷い出す
イヤリング片方夫の墓のそば

正木かおる
右中間抜けて二塁を蹴りゆけり
海風が渡るスウィング青蜜柑
カナブンや何を背負ひて飛び回る
わたくしは此処にいますと旱星

羽畑貫治
休暇明スカートの裾ひるがえる
一つずつ文句を並べ鰯干す
先ず妻に敬老の日の缶ビール
追われ来る入道雲の諸手かな

櫻淵陽子
定まらぬ心のありてハンモック
夏の宵異なる道を歩みけり
蝉時雨届かぬ声を聴くことに
炎昼や光の壁が傾いて

永田 文
「さようなら」また合えるよね八月に
近道は日の斑がおどろ木下闇
追いかけてはたいていたり天花粉
秋立つや素湯に梅干一つ入れ

中辻武男
永らえて土用を越えし夕餉かな
塩加減気にしていたり子の西瓜
夕暮の風鈴の音の届きけり
盆踊自重促す風雨にて
*上六句会場・ホテルアウィーナ大阪にて。

2019年8月24日土曜日

香天集選後随想 三好つや子、森谷一成の作品。

香天集選後随想  岡田耕治

春の校庭羽ばたきそうな紙片あり 三好つや子
「香天集」56号。校庭に落ちているのは、飛ばされたプリントでしょうか。それともプリントで作った紙飛行機でしょうか。近づいていくと、今まさにその紙片が飛び出そうとする、その瞬間に立ち会うことができました。学校の使命は、この瞬間を大切にすること。 

体さえあれば相四つ春疾風 森谷一成
「香天集」56号。目を開けていられないほど、強い春風が吹いてきました。こんな時もう一つの体が目の前にあれば、きっとがっぷりと相四つに組むだろう。若い頃のそんな記憶が蘇りました。「体さえあれば」という言葉の広がりが、いろんなものを吹き飛ばしていきます。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。 

2019年8月23日金曜日

香天集選後随想 渡邉美保、加地弘子の作品

探られて春の出口の深くなる 渡邉美保
「香天集」56号。春の出口とはどのような出口でしょうか。深くなるとありますので、心象的な出口ではないかと思います。春は年度の立ち上がり、様々な出来事が連続します。そこを抜け出していく手がかりを見つけようとすればするほど、出口は深く感じられるのです。

春の月ともに湯舟に浮きいたる 加地弘子
「香天集」56号。露天風呂のような大きな湯に、春の月を浮かべて寛いでいます。「ともに」は、そこに浮かんだ春の月でしょうか、それとも同行した友達でしょうか。どちらにしても、与えられたこのひとときをゆっくり楽しもうとする心の働きがうかがえます。
*大阪狭山市にて。

2019年8月22日木曜日

「手ぶら」15句 岡田耕治


手ぶら  岡田耕治

繃帯を時時濡らし夏の果
こんなにも熱かったのかリュックサック
秋に入るピアノの椅子の硬さから
立秋やズボンの中にシャツを入れ
美しく嘘ついている秋の海
太刀魚の目をうるませていたりけり
空足を踏んで近づく秋の坂
西瓜切る大きく息を吸い込んで
二人前残さず食べて敗戦日
蟷螂よ立ち上がれなくなることに
内臓をひびかせてゆく秋の蝉
赤色の未だ幼く盆の菊
秋の野を遊ぶ手帳のカバー替え
放射性物質検査さくら茸
発送を終えたる手ぶら桐一葉


2019年8月21日水曜日

香天集選後随想 浅海紀代子、石井冴の作品

花の坂昔の空へ登りゆく 浅海紀代子
「香天集」。春、「さまざまのこと思ひ出す桜かな」という芭蕉の句を超えるような句を作りたいと思います。桜に包まれた坂道を登っていくとき、作者はかつて誰かと登った、この先にある時間と空間を思い出そうとしています。「昔の空」という措辞が効いています。

燕子花ぼくらは個個に日を数え 石井 冴
「香天集」56号。鈴木六林男に「天上も淋しからんに燕子花」があり、師系においては燕子花を詠むことで師を想起させます。「ぼくらは」とは、六林男に師事した一人一人のこと。「個個に日を数え」て、固有の方法で習ったことを実践しようとしているのです。
*滋賀県庁にて。

2019年8月20日火曜日

香天集選後随想 谷川すみれ、玉記玉の作品から

選後随想  岡田耕治

人間を大きく曲がりかたつむり 谷川すみれ
「香天集」56号。かたつむりが大きくゆっくり進んでいきます。どうもこの人間を避けて大きく旋回していくようです。かたつむりにとっては、人間はどうしようもない障害物です。我々が生きづらいのは、かたつむりから見たこの大きさのせいかもしれません。

右の手で考えることソーダ水 玉記玉
「香天集」56号。手を動かすことによって脳が活性化され、記憶が定着すると言われています。右の手でマップなどを書きながら、俳句を考えているのでしょうか。その前には泡を出し続けるソーダ水が置かれています。考えごとをするために設けられたゆたかな時間。

2019年8月19日月曜日

香天集選後随想 岩橋由理子、三好広一郎の作

ラムネ飲むトンチンカンに何もかも 岩橋由理子 「香天集」56号。とんちんかんは物事のつじつまが合わないこと、とんまな言動をすることと辞書に。どうも物事がスムーズに進まない、そんなことが続くことがあります。ラムネを飲んでちょっと一息ついたその瞬間、そんな自分自身を俯瞰できたのです。 春の水目が慣れてきて剥いてみる  三好広一郎 「香天集」56号。ぬるみ始めた水に顔をつけています。あーこれは気持ちいいと声を上げていて、自分の目玉をむいてみたくなったとのです。どきっとする表現ですが、物憂い春の水の気分をよく捉えています。いっそこの自分の中身もむいて見ましょうか?


2019年8月18日日曜日

香天集8月18日 柴田亨、三好広一郎、中嶋飛鳥ほか

香天集8月18日 岡田耕治選

柴田亨
ねずみにはねずみの世界原爆忌
古靴を静かに揃え八月来
無為に生き無為に世を去る風も良し
フォルテッシモ走れ自分を置き去りに

三好広一郎
八月の雲を重ねて広島焼
雲の峰地球は坂の連続す
蟻登る笑うキリンの眼の高さ
わたくしの抜殻があるプールかな

中嶋飛鳥
金亀子古い映画を見ておりぬ
大西日足からなぞる仏像画
水飛沫あげて蹴散らす雲の峰
夕立来る消しゴムにては消せぬ時

神谷曜子
熱帯魚夜の深みに身を返す
もの忘れ防がんとしてサングラス
廃校の白さるすべりは饒舌
絡まって明日を探す牽牛花

岡田ヨシ子
パジャマ姿熱中症から快復す
思い出のあちこちを飛び赤蜻蛉
赤蜻蛉時には肩をたたきけり
学びたるカレーリゾット香気立つ
*大阪教育大学の講座で高校生と俳句づくりをしました。

2019年8月17日土曜日

香天集20句(56号) 岡田耕治 選

香天集20句  岡田耕治 選

ラムネ飲むトンチンカンに何もかも 岩橋由理子
春の水目が慣れてきて剥いてみる  三好広一郎
人間を大きく曲がりかたつむり   谷川すみれ
右の手で考えることソーダ水    玉記 玉
花の坂昔の空へ登りゆく      浅海紀代子
燕子花ぼくらは個個に日を数え   石井 冴
探られて春の出口の深くなる    渡邉美保
春の月ともに湯舟に浮きいたる   加地弘子
春の校庭羽ばたきそうな紙片あり  三好つや子
体さえあれば相四つ春疾風     森谷一成
風を待つ春の野げしの白き絮    中嶋紀代子
言葉持つ人の悲しみそれを抱く   柴田 亨
我回るほどに回れと風車      砂山恵子
ふらここや叱られしこと揺らしたる 西本君代
ぶらんこや雲は大きな穴をあけ   橋爪隆子
説法の頃合を見て蝶去りぬ     橋本惠美子
触れたきはメレンゲの角(つの)花の果 中嶋飛鳥
一日を無言で通す栗の花      宮下揺子
ひとひらのあと花びらのとめどなき 澤本祐子
小綬鶏やデスクマットの古葉書   辻井こうめ

「香天」56号 香天集から
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2019年8月13日火曜日

「薄」12句 岡田耕治

薄  岡田耕治

蝉しぐれ静かに時間減らしけり
新聞紙音立てて踏む裸かな
本の香にたちまち汗の乾きけり
学校に陰を増やして油蝉
青蜥蜴我より先に止まりたる
黒板の鎮まってあり朝曇
沈黙す扇子の香り受けながら
炎天を遠くから来し言葉かな
立秋のワイングラスを磨きけり
空を見る前に視ておく白朝顔
草の花プリンカップに活けられて
途中から届かぬ声の薄かな
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2019年8月11日日曜日

香天集8月11日 三好つや子、加地弘子、砂山恵子ほか

香天集8月11日 岡田耕治 選

三好つや子
プチトマトあぶない本を読み耽る
白木のおもちゃ白夜の鳥の匂かな
不定愁訴くらげの森を漂うよ
一秒の奥へ奥へと競泳す

加地弘子
蝙蝠を抜け出してくるサラリーマン
我の手をつつく茗荷の子でありぬ
夏木立バスがふわりと現れる
油虫われに気づいてからの時

砂山恵子
白南風やスケッチ帳の上に砂
夜の秋気づかぬほどに雨薄く
立秋や軽く土蹴る靴の音
天袋の奥に箱あり盆用意

橋爪隆子
水馬流れに乗りて流れざる
涼しさよ漢に席をゆずられて
ルームキーをテーブルに置き生ビール
宿題をよこぎってゆく夏帽子

北村和美
くすくすと丸い空気の蚊帳の中
引き出しに勢揃いして蝉の殻
登山靴早朝の紐しめなおす
お下がりの赤い浴衣に赤い紅

朝岡洋子
貼り出した防災マップ夏兆す
若冲の赤を見ており鶏頭花
日焼の子壁打ちの球テンポよく
水馬や水面の皺に輪を重ね

中嶋紀代子
国生みの朝曇りなり万歩計
喜多郎のおろちの曲よ日雷
夕菅や月の妖精降りてくる
鉛筆をとがらせており夜の秋
*万年筆で俳句を書くことにチャレンジしました。

2019年8月9日金曜日

「まなざし」15句 岡田耕治

まなざし  岡田耕治

点数が現れてくるソーダ水
元の木へ戻るまで飛び油蝉
泳ぎ出す遠くの方がよく見えて
たっぷりとトマトの香るスープかな
夏休全校児童六人の
父母のいつまでも居て木下闇
揺らしけりこの白南風を逃がすため
夏氷馴染ませてゆく腹の虫
定点を影渡りゆく西日かな
別れようこの焼酎を飲み切って
ぱたぱたと坊主頭を洗いけり
ネックレス光る汗かと見つめたる
麦の穂を掲げ講義のはじまりぬ
スペインのワインを選ぶ夕焼かな
まなざしや水蜜桃の残りたる
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2019年8月4日日曜日

香天集8月4日 玉記玉、渡邉美保、森谷一成、宮下揺子ほか

香天集8月4日 岡田耕治 選

玉記玉
白蓮が濡らした三脚のニコン
投げたのに重たい蜻蛉の目玉
短夜の鏡を侵すジャズバンド
逝く夏や十指ひとつひとつに根っこ

渡邉美保
遠泳のやうなさみしさ尺蠖よ
西日背には折紙の星増やす
あめんぼの影はなやかに集まれり
夏休怪談好きで宵つ張り

森谷一成
軍刀の反らぬ一振り明易き
視線わが背中を行(めぐ)る沖縄忌
ここまでの渦とさだめし蝸牛
すっぴんを遊ばせており黴の家

宮下揺子
防災用ヘルメット買う百日紅
夕立来る踏み絵のような飛び石に
履き心地悪い下駄なり夏の月
パスポートどこにも行かず夏了る

釜田きよ子
蛍火や人うすうすと消えゆけり
黴匂う少年の日のグローブよ
喜怒哀楽鳴き分け蝉の恐るべし
朝採れの胡瓜まっすぐ褒めらるる

安部礼子
血液がなくなることを滝しぶき
金魚ひとつただ生くことを見せつける
ガラス風鈴水飴舐めているように
夏草の露  少年の藁草履
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2019年8月3日土曜日

「百日紅」10句 岡田耕治

百日紅  岡田耕治

向日葵の誰も住まなくなる時間
肥えている写真の中のサングラス
蝉時雨自己肯定を続けたる
一日に一つ捨てゆく百日紅
燕の子乾いた土の匂いして
新しい手帳が届き梅雨あがる
白南風に遺らない骨遺る骨
低調な話になってビール飲む
目的のくるくる変わり熱帯夜
じゃがりこを銜え始まる夏休
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2019年8月1日木曜日

香天紹介



◇「香天」ご案内

 「香天」は、2009年1月に岡田耕治が創刊し、代表を務める俳句誌です。
 私たちは、学ぶことは生きることであると捉え、互いの俳句を学び合うための「見晴らしのいい場所」をめざしています。

◇「香天」のきまり

① 機関誌
 「香天」を年4回発行します。
 インターネット上に「香天」を開設し、俳句鑑賞代表作品「香天集」を毎週公開します。

② 香天集
 「香天集」へは、毎月1回5句以内を投句フォーム・メール・FAX・郵送の何れかによって投句できます。
 選句結果は、機関誌及びインターネット上の「香天」で確認することができます。

③ 購読料
 インターネット上での閲覧や投句は無料です。
 機関誌の送付を希望される方は、1部750円とし、年額3,000円の定期購読をお願いします。

④ 同 人
 「香天集」で活躍した作家、または同人から推薦のあった方を同人とします。
 同人は、「同人集」に自選7句を発表することができます。

⑤ 見本誌
 見本誌を希望する方、購読者で機関誌を2部以上希望する方には、1部500円で送付します。(切手可)

⑥ お振込
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