2016年2月7日日曜日

香天集1月・2月 石井冴、坂原梢ほか

香天集1月(2)・2月(1) 岡田耕治 選

石井冴
泥水がたっぷり一月の仕事部屋
焚火跡二本の足で立っており
冬日影夢を見るには眩しくて
耳穴に少女を隠す雪うさぎ
眠り落ちれば梟の森となる

坂原 梢
乗初の潜水艦が沈む音
去年今年味覚の変わる心持ち
冬の海光の見えぬ友と来て
針をさす脊髄のあり虎落笛
散るための色を湛えて姫椿

加地弘子
北窓を明るい色に塞ぎけり
もう一人近づいて来る寒椿
羽衣を纏いし妣の冬の月
目を閉じて力をためる冬の鳥

久堀博美
おそらくは要らざるものを年用意
春を待つ気付きたること書き留めて
白障子揺すぶるほどに笑いけり
小晦日落語漫才見て終わる

橋本惠美子
最後まで柚子残りたる出湯かな
待つという時を満たして鶴の凍つ
ストーブの声出している背中かな
立ち尽くす西郷さんの鼻に雪

宮下揺子
就活と終活の居て実南天
老人の軽き足取り冬帽子
十二月消えてしまいしEメール
ライターで紐切ってより時雨れけり

両角とみ子
幼きを手元に集め毛糸編む
異を唱うただ一点に寒卵
空耳の続いていたる夜寒かな
恋人のように飛び付き初笑

浅海紀代子
猫捜すちらしが貼られ年の暮
トランプも歌留多も遠き畳かな
初句会笑い残して終わりけり

羽畑貫治
マイナンバーしかと貼り付け年明ける
ピン球にもたついており今朝の冬
一人寝となりし北窓塞ぎけり

立花カズ子
星空を遠廻りして初詣
しばらくは邪念を離れ冬の月
雪見風呂こころの一つほどけゆく

小崎ひろ子
雪降るや空には誰も居やしない

泣く我と笑ふ我あり蕗の薹

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