2016年2月14日日曜日

香天集2月+選後随想 中嶋飛鳥、畑中イツ子ほか

中嶋飛鳥
泥付けたまま太葱を寝かせおく
葱の香やケトルが硬き声を上げ
如月のポキポキと折れ文字の肩
六丁目のポストへ迂回西行忌
あたたかや古書肆の台の黒光り

畑中イツ子
藪椿鳥うらがえり蜜がある
寒落暉車中の口を静止して
冬晴や押入れ急に活気づく
太鼓一打新年の灯の瞬けり

【選後随想】
奪うもの未だあるらし初山河  森谷一成
 人はこの地球から様々なものを奪ってきました。新しい年を迎え、自然に相対したとき、「奪うもの未だあるらし」と感じた作者の感性に共感します。こんなにも奪い、傷つけてきたのに、自然は黙ったまま新しい年を迎え、この私たちを迎えているのです。

焚火跡二本の足で立っており  石井 冴
 表現されている内容よりも、そう捉えている視線そのものが、優れた句を生み出すことがあります。二本の足で立つというのは当たり前ですが、焚火跡の低さの前に足だけが置かれているアングルには、不安さえ感じます。このアングルから、様々なことが想起されるのです。

あたたかや古書肆の台の黒光り 中嶋飛鳥
 古書肆には、台がつきものです。高い書棚から本を取り出すために置かれた踏み台もそうですが、奥に店主が坐っているその台もなくてはならないものです。それらが黒光りして、店の外の明るさを写し取っているようです。こんな古書肆にふらっと入って、背表紙を眺めたくなりました。

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