石井 冴
輪になって蜜柑を開く作法かな
里神楽生なましきに触れてより
マフラーの一昨日を忘れけり
この神を離れずにいる寒鴉
薄氷の底の鏡が現われる
谷川すみれ
入学児眉間に力走りけり
満面の笑いのような山つつじ
子供らの帰り来る声雛飾
春夕焼烏一羽を放ちけり
会いにゆく悟朗という名の春の星
中村静子
流れ星漁火一つ増やしけり
秋の昼絵具のチューブ固くなる
いくたびも鯉浮き上る添水かな
遊具にて大きく回り秋の空
加地弘子
我に来て大胆になる秋の蠅
声に出し確信となる寒鴉
この庭に慣れてほどなき菫かな
定年の夫と向き合う蜜柑にて
中辻武男
寒ざらし固く茶筅の竹を組む
端数のみ噛むことにして年の豆
陽炎や微かに老を和ませて
紅梅の香り漂う古城かな
竹村 都
葱きざむ父似の指の荒れており
血管を探れる指の冷たさよ
雪の朝定刻にバス通りゆく
書初は「夢」と御歳百二歳
・この神を離れずにいる寒鴉 石井 冴
枯木や電柱に動かずにいる寒鴉。その姿を石井さんは、
「この神を離れずにいる」と表現しました。神社や教会に
居た鴉かもしれませんが、鴉そのものに「神」を感じてい
るにちがいありません。寒鴉という、どちらかと言えば負
の存在の内に神を見ようとする、この眼差しは鈴木六林男
師に通じているようです。(耕治)
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