香天集12月2日 岡田耕治選
玉記 玉
白鳥は対角線をさびしがる
言葉にはならない影を寒卵
約束のポインセチアから先生
デッサンの音の続きを初しぐれ
森谷一成
てぬぐいや美輪明宏に母が憑く
ヴィオロンの一斉にさくら紅葉かな
はんこ屋の六角しんと秋の暮
万葉集巻第十六に酒屋の奴婢の労働歌あり
万葉に奴たわむる温め酒
浅海紀代子(11月)
月の秋嘘をつくことやめにする
為すことを後ろに置きて花野かな
隣人の旅立ちに遭う月天心
我が齢他人の齢冬に入る
澤本祐子
秋思止む感情線を握りしめ
引くたびに抽斗鳴って冬に入る
一生のあらましを聞く返り花
決断の直後の迷い冬林檎
砂山恵子
兄として二つに割りぬふかし藷
茶の花や産休に入る女性医師
巻き尺の戻りの早し暮早し
裸木や毎朝違ふ雲流れ
浅海紀代子(10月)
猫が入る話の続き秋日和
こおろぎや湯船に沈む傷の脚
わたくしが風になりけり芒原
雨音の身を透りゆく秋の暮
釜田きよ子
蓑虫の宇宙体験つづきおり
秋の蠅懐かしそうにやってくる
通草の実とろりと眠気誘いけり
芒原一人芝居の始まりぬ
中濱信子
長き夜の手の皺つまみ伸ばしけり
吾亦紅友は万葉集を解く
山茶花や登校の声よく透り
冬休ずば抜けてある孫の靴
越智小泉
パスポート持たなくなりて鳥渡る
迂闊にも転びて木の実喜ばす
竹林にこもる風音冬に入る
木枯一号我が身こんなに軽いとは
永田 文
返り花淡き色にて葉陰より
左手と木の実と同じポケットに
漁村いま呑みこむように冬落暉
野良猫にコースのありて花八手
*奈良駅にて。
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