香天集12月24日 岡田耕治 選
中嶋飛鳥
綿虫の湧く日夕刊休みの日
一葉忌編み目を拾う後戻り
愛日の舌にてぬぐう針の傷
山茶花の散るを聞きおり待っており
夏 礼子
波音の来し方に寄る石蕗の花
牡丹鍋不意に悪女となる素振り
ポケットの一つは寝床楝の実
木枯一号魚市の列縮まりぬ
湯屋ゆうや
手袋がきのふの橋に架けてある
封筒は氷の匂い鷦鷯
蒟蒻として人の胃を温める
煮凝が暗き戸棚の奥にある
柏原 玄
短日の刻奪い合うおさなどち
追憶の良きことしきり実南天
オリオンや小さくなってゆく自由
冬林檎剥くできるだけ細く長く
上田真美
できるだけ小春の日向通りけり
帰途につく寒月光に抱かれて
本心を聞くことになる年忘
カーディガンあえて明るい色選ぶ
加地弘子
色鳥来飴職人の指の先
凍雲の不思議な形日が射すよ
こんな味噌欲しかったんよ風呂吹の
小夜時雨隣り同士を繋ぐ板
釜田きよ子
かの地には地雷がありぬ霜柱
お茶漬けの匂い時雨の来ていたる
盛り塩の尖り衰え冬の雷
山茶花を誉めて行きけり郵便夫
春田真理子
銀杏降る日母の枕で眠りおり
踏石に紅葉を拾ふ裸足かな
少年の発つ日近づく草の絮
自転車の空回りする野分かな
安部いろん
天狼へテレポート「死者の書」の恋
朝時雨ブラックボックスのメール
叛逆に吊られた男は木の葉髪
寒の鉄棒共鳴の極限値
嶋田 静
自分らしくあること難し冬薔薇
紅葉散るお地蔵さまの肩に手に
山眠る机上に谷川岳の石
霜受けし菜のやわらかく茹で上がる
楽沙千子
掛け換わる造り酒屋の薬玉
暇乞いして肌をさす冬の月
サーカスの気力をもらう冬帽子
雲間より冬日の当たり万歩計
森本知美
ミサイルの空に無色の冬の月
かぶら漬け添え大き目の握り飯
持ち呉れし友の香りがする柚子湯
如来像笑う向こうの大紅葉
松並美根子
疲れ取る湯加減にして寒椿
皇帝ダリア庭の主役となりにけり
冬に入る思い出ノート書きつづり
夕暮れの家の灯りに山眠る
前藤宏子
多国語の雑踏にあり年の市
争いは真っ平ですと冬帽子
犬逝きて翁ひとりの日向ぼこ
白壁と別の白さの花八手
木南明子
山奥のそば屋たわわに実南天
山盛りの花梨のそば屋繁盛す
庭隅に石蕗の花咲く耳そうじ
急銀河わたしの生きる場所あるの
丸岡裕子
龍田姫白い財布の似合う人
足細き鳥小走りに銀杏散る
葉牡丹や一枚となるカレンダー
皿に開けマーブルチョコは秋の色
金重こねみ
熊穴に入るに入れない空腹(ひだる)かな
殊の外甘きみかんよ見切品
時雨るるや読みかけの本また閉じる
卓上に欠かせぬみかん山盛りに
目美規子
古民家の軒に一棹つるし柿
パッチワークのごとし全山冬紅葉
本閉じて休める眼冬ぬくし
ミルク飴なめずに噛めり小春日和
安田康子
ゆるぎなき色となりたる実南天
寒椿指のこわばり何のその
侘助やこの世で会えぬ人ありぬ
サウスポーは父親譲り冬うらら
大里久代
大根の煮物酢の物母の知恵
木枯や古き我が家を吹き通す
シャッターに収めるコウノトリの冬
寒椿赤やピンクを散らしけり
*岬町小島にて。
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