香天集12月31日 岡田耕治 選
浅海紀代子
秋風に聞き流すことありにけり
脱走の猫がもたらす草虱
溜息に揺らぐ香煙秋ともし
老いらくを残し木枯去りにけり
森谷一成
迷彩の腹這う方へ草もみじ
軟骨を繕いにくる冬の蝶
あらたかな戦火想望六林男の忌
先の無きZなりしが年用意
谷川すみれ
足元に日差し来ており竜の玉
松の枝の捩じれてもどる淑気かな
外の音聴き分けており十二月
なお続く六林男の世紀霜柱
木村博昭
汚れたるホワイトボード暮早し
割烹着姿凛凛しき大根焚
牛小屋にお産の気配クリスマス
AIの書く恋文や雪女
辻井こうめ
追焚きの遠き日々なりちちははよ
血縁の疎らとなりぬ花柊
木槌打つ爆ずる小豆の日向かな
枯蟷螂舗装道路の凹凸に
佐藤俊
柿落葉人それぞれの時間切れ
冬蝶の翅の記憶を消しにいく
メール打つ隣席の魔女の老眼鏡
腑分けして大歳の日を曝けだす
岡田ヨシ子
冷たき手合わせる願い地蔵さま
冬の月あの世の主は我が家にも
故郷を離れていたり煮大根
太陽に感謝している冬の山
吉丸房江
古漬に生姜を刻み仲良し会
抜けたげな曾孫の乳歯福笑い
食べるとは命いただく雑煮かな
餅を焼きのりに包んで生醤油を
川村定子
破れ椅子移ろってゆく冬の雲
蹲踞に客への椿添えにけり
銀杏降る道に手を取る夫婦仲
湧き水の溢れ落葉の向きを変え
西前照子
鱧料る最後に指を噛む力
冬に入る最晩年のストレッチ
やり残すこと多くなり十二月
雪の中負けずに燥ぐ小猫かな
*大阪市内の研修会にて。
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