2023年12月17日日曜日

香天集12月17日 渡邉美保、柴田亨、三好広一郎、砂山恵子ほか

香天集12月17日 岡田耕治 選

渡邉美保
カトラリー静かに磨くレノンの忌
煮魚の肝に照りあり初時雨
風邪きざす子の長電話受けてより
血流のととのつてくる大根焚

柴田亨
冬鵙の一声として訃報来る
励ましは一音にありモーツアルト
森の声虫たちの声落葉積む
銀の鈴零れて弾む枯野行

三好広一郎
柿の葉に包めるほどの柿の夢
草の種自由奔放に火宅
寒椿親の犠牲に落ちていく
性格の不一致第九は歌わない

砂山恵子
さびしいと言うて日記を買いに行く
冴ゆる夜や音外れたるオルゴール
駅弁の微かな温さ十二月
冬至粥母は卒寿で息災で

神谷曜子
袴着や脱ぎ散らかしていなくなる
夢の中括り上げたる古日記
続かない日記また買う誕生日
枯れ残るメタセコイアが風をよぶ

上田真美
秋彼岸ひとり勤める日となれり
切なさの詰まる我が身を抱く月夜
名月の酒にのまれている本音
栗ご飯まずは香りを満たしけり

古澤かおる
雑巾を全て絞って十二月
煮凝やコース料理は十二品
日の当たるこの枝いつも帰り花
雪吊や博物館の休みの日

河野宗子
山眠る耳の奥より友の声
めぐりズム着けて眠りし炬燵かな
ソプラノで歌えば部屋の冷え渡る
霜の朝リップヒールをふるわせて

田中仁美
冬花火キッチンカーの晩ごはん
冬帽子探す引越段ボール
熊よけの鈴を鳴らせりサイクリング
夫が着る母の形見のちゃんちゃんこ

秋吉正子
石蕗の花去年の日記読み返し
年詰まる三カ国語のアナウンス
ごみに出す赤いサンタの包装紙
新しい楽譜をもらい春隣

野間禮子
寒さ飛ぶデイサービスのバスを待ち
待ち合わすマフラーのなか若返り
年の豆匂う母なり下駄響く
一株をもらう水蓮赤燃ゆる
*岬町小島にて。

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