2026年2月22日日曜日

香天集2月22日 春田真理子、夏礼子、谷川すみれ、柏原玄、宮崎義雄ほか

香天集2月22日 岡田耕治 選

春田真理子
庭掃きし冬の匂いを纏い来る
外套の中に二匹を抱擁す
つま立ちてりんを響かす冬銀河
口じゅうに薬ひろがる小正月

夏 礼子
煮凝やゆっくり老いることになり
深淵に臨んでいたリ山眠る
手袋の右手ぽぽんと頭にやさし
寒晴や記憶ぞくぞく抜けいたる

谷川すみれ
桜草まだ見ぬ日々の向う側
人日の言葉は声を失いぬ
身の遠くなれば耀う豆の花
紋白蝶水も光もなき家の

柏原 玄
薄氷を踏みたくなりぬ靴の右
下萌のカなりけり反抗期
スプリングコートの孤独西出口
忘却をたのしんでいるシクラメン

宮崎義雄
干からびしごんずい海へ泳ぎ出す
柚子風呂の孫が見つめる乳房かな
猫と孫乗り来る膝よ冬ぬくし
祖父を真似頬膨らます初笑い

湯屋ゆうや
湖西線の春駅名を言う遊び
手羽先の骨のほぐれる春夕焼
室咲きと柱震わせコントラバス
ほの暗くキッシュ商う店や春

目美規子
春匂うランチタイムのジャズライブ
コーヒーを飲むベランダののどかさよ
魚の目の足にやさしく春シューズ
アルバイト終ると告げる卒業子

古澤かおる
コスチュームの裏は真っ赤にスケーター
子供等をでんぐり返し春立てり
目借時八十路の耳にピアス孔
ぬるま湯で洗うセーター獣臭

前藤宏子
公園に眠る機関車花すみれ
春一番亡き嫁に似て孫おしゃれ
余生とは家を出ること春の雨
銀の匙鳴らしてみたり春の雪

安部いろん
かくれんぼルール知らぬ子聞けない子
指切りの小指に残り春の霜
消えるまで見ていたあの日春の雲
耳だけに留まる喃語春疾風

俎 石山
実南天彼岸此岸を溶かしけり
寒鰤の濁世にありし片目かな
冬日向猫が転がり仔が転び
海中の裏を見てきた鮃の目

神谷曜子
雪雲や道路工夫の早じまい
長すぎる母の一日仏の座
予定なき日は蝋梅で埋めようか
ロウバイの花の数ほど平和来い

森本知美
マスクして眠れる息の柔らかく
関節をポキと鳴らせり寒の朝
梅を見るウォークポールの熊野晴
梅真白検査数値をほめられて

金重こねみ
気配りを頼りにしたり梅の里
瞬間に寒さ和らぐ支給あり
佐保姫も同行をするオリンピック
木の蔭に咲く白梅の尚白し

安田康子
春隣ふやけて治る絆創膏
良き事もありし人生桜餅
日輪のくねくね踊る四温かな
水温む父似と言われ半世紀

楽沙千子
吹く風にまかせていたる枯野かな
無造作に黒帯を締め寒稽古
日溜りの土手の冬草かけ上がる
初写真親の背を越すVサイン

木南明子
初鴉一音高く唄いけリ
冬の霧海岸通り濃くなりぬ
ジョギングす春の光を受ける肩
雪景色金剛生駒連山の

松並美根子
水仙の径いっぱいにひろがりぬ
冬日射すこだわりのなき砂と土
人さえも冬眠をする都会の灯
戸惑いのある鶯の初音かな

〈選後随想〉 耕治
干からびしごんずい海へ泳ぎ出す 宮崎義雄
 友人からラインで、岬町の小島漁港でメバルを三匹釣ったという写真が送られてきた。静かな春の海に浮子を浮かべ、缶ビールを飲みながらゆっくり過ごす友人の姿が浮かび、居ても立ってもいられなくなった。翌日、小島へ出かけた。午前中の用事を済ませたため、釣り糸を垂らしたのは午後の三時頃だった。
 最初にかかったのは、十五センチほどのごんずいだった。以前、別の場所で、ごんずいの胸びれの棘に刺され、激痛に襲われたことがある。その時は、棘を抜いたものの痛みが治まらず、友人に水筒の湯で消毒してもらい、ようやくひと息ついた記憶がある。それ以来、魚を掴むためのフィッシュグリップを携帯しており、それを使ってごんずいを掴み、口から釣り針を外して捨てた。
 昨日とは潮の流れが違ったのか、午後五時を過ぎてもメバルはおろか、何も釣れなかった。帰りの道の駅でメバルはなくてもガシラぐらいは土産にできるだろうと思いながら、片付けを始めた。そのまま車に向かおうとしたが、ふと気になって波止に目をやると、ごんずいが下段で乾き切っていた。死んでも毒は残るというので、靴先で海に蹴り出すと、ごんずいは背中をくねくねさせて泳ぎ出したではないか。
 もっと早くに海へ帰しておけば復活したかもしれないが、あの泳ぎでは存えるのは難しいだろう。メバルのことばかりを考えていた自分に気付かせてくれる、そんな頼りない泳ぎだった。せめて、家族のところへは辿り着いてもらいたい。
*顔に受け紙風船の小宇宙 岡田耕治

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