香天集3月8日 岡田耕治 選
三好つや子
スクワットの影に伸びしろ二月尽
部室からカレーの匂い春の雪
山笑う百のみどりの表情筋
車椅子連なる廊下涅槃西風
佐藤静香
梅林を青き眼の深海魚
隣席の湿布の匂ひ大試験
玉眼に仏の怒り春愁
生殖の赤きシグナル水温む
佐藤諒子
バンザイのさまに枯木の生きており
ふるさとの黄砂をまぶすむすび山
連翹の光りに交わし韓国語
雨しきり椿一輪ころがりぬ
牧内登志雄
花守は農大卒の三代目
鬣を春日にゆらす御崎馬
長々と馬の尿ふる牧開き
消火器の肩の円みやよなぐもり
垣内孝雄
三月の光あふるる雑木山
若女将小鉢にそふる花菜漬
ありたけの日差にあふれ山木蓮
浴室の鏡を洗ふ朧かな
川村定子
辻地蔵風雪さらすよだれ掛け
小春日の白き波頭が岩を呑む
一塊の花また落ちる寒椿
鳰水輪の芯に潜りけり
秋吉正子
早朝の冬満月を独り占め
寒明けるステップ台を高くして
自転車のバックミラーに春きざす
春祭公民館のクラブ減り
西前照子
友三人お好み焼きの年始め
切り口の角張ってあり鏡餅
屋根の雪見えて散歩の足すぼむ
大根を洗いてすぐに千切りに
大里久代
立っている足が硬直出初式
袋ごと文旦を買う遍路かな
弾け飛ぶところは知らず椿の実
蝋梅や風に流れる香が誘い
〈選後随想〉 耕治
部室からカレーの匂い春の雪 三好つや子
部室棟は校舎から独立しており、運動場側には運動部、その裏手には文化部の部室が並んでいる。春の気配の中に雪が舞い始めたので、早めに練習を終えた陸上部につづいて、ソフトボール部のメンバーも道具を部室に引き上げてきた。
そのとき、鼻腔をくすぐるカレーの匂いが漂ってきた。裏手、文化部の部室棟だ。どうやら演劇部の部室から匂っているらしい。ストッパーで半開きになったドアから覗くと、携帯用のガスコンロにかけた鍋で、キャプテンがカレーをゆっくり混ぜているところだった。「どうしたの?」と聞くと、明日の卒業生を送る会で演じる劇がまだ中途半端なので、腹ごしらえをしてからまた練習を続けるつもりだと言う。「外は雪が降ってきたよ」と声を掛けると、「お世話になった3年生に、なんとか完成度の高い劇を見てほしいから」と彼女は答えた。「それなら、私たちソフトボール部の2年生がカレーづくりを手伝うから、練習に戻って」と提案し、調理を担当することになった。
「だけど、カレーは作っても、ごはんはどうするの?」と聞くと、キャプテンは「うん、ご飯を食べると眠くなるし、遅くなっても家で晩ご飯を用意してくれてるから。カレーは気合いを入れるためにルーだけ食べるわ」と笑顔で答えた。
*三本の軸立ち上がる海市かな 岡田耕治
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