香天集8月6日 岡田耕治 選
森谷一成
黄ばむ日の梔子匂うマンションへ
短夜の踊り場に在り嗅覚と
梔子の闇のわざくれ寝に帰る
イヤホンに嵌まる中年半夏生
藤川美佐子
咲き満ちて静かになりし夕桜
考えの一転二転ほととぎす
放心をひとゆすりしてはたた神
万緑や力を込めて振り下ろす
三好つや子
校訓をひっくり返し梅雨に入る
はらぺこの帆布の鞄雲の峰
向日葵という八月の目の叫び
夏潮の凪の顔して人過ぎる
釜田きよ子
夏旺ん草間彌生のドット模様
曲線を損なわぬよう桃を剥く
思慮深き色して咲けり茄子の花
ひまわりの首が次第に重荷なる
浅海紀代子(7月)
妬心湧くグラジオラスの赤の前
染みひとつ許さぬ百合の咲きにけり
夏の果袖を通さぬ服吊られ
夏終る耳に棲みつく音残し
辻井こうめ(7月)
機関車のアプト連結して青嶺
カサブランカ午後四時を過ぎ香り立つ
天空を意のままに切り黒揚羽
送葬のオルガンにあり水中花
浅海紀代子(6月)
夾竹桃ひりひり喉の渇きけり
わたくしの歩幅に戻り立葵
梅雨晴間ぼんやりとする椅子のあり
梅雨深し一冊の本手に重く
安部礼子
地球儀を貫いている夏氷
人獣を一塊にして風の死す
クーラーの騙る予定調和かな
夏の川我も宇曽利湖より生まる
羽畑貫治
林間学校肝試し始まりぬ
金鶏菊一色にして過疎の里
補助具付け杖を頼りに新豆腐
住み慣れし限界集落地蔵盆
*岬町小島にて。
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