香天集9月22日 岡田耕治 選
三好広一郎
ふだん何してる男か鹿を呼ぶ
馬鈴薯のさみしい奴がコロッケに
大根蒔く五欲洗った水を散く
身の内に鬼のおりけり桃ひとつ
石井 冴
人間を水の流れる夜の秋
動かぬは一昨昨年のやもりかな
車椅子だんだん軽く草の花
騒騒は盗人萩を識ってより
谷川すみれ
雪螢三次元に隙間あり
裸木の手の届かない雨の粒
握り合う右手左手雪の声
人という不治の病を冬の滝
玉記 玉
竹箒ください流星の止まる
蜻蛉にあらずSEIKOの秒針
鹿の斑の白さ少女の不実ほど
秋澄むや円形テーブルに方位
柴田 亨
幾筋も旋律のあり空高し
不揃いの石仏の秋並び立つ
病む猫に触れて静かに語り出す
樹の上にありカマキリが刃砥ぐ
加地弘子
蟋蟀の掴まっている重さかな
早くから見つけし通草熟れはじむ
法師蝉誰かが動き鳴きやみぬ
薄原ここから先は飛んでゆく
橋本惠美子
引き潮の泡より生まる赤手蟹
決心を遺す洞窟蝉時雨
胃の中に居座っておる夏の風邪
蜩に聞こえぬふりをしていたる
砂山恵子
わたくしもその他大勢文化祭
ブルーシート案山子一人を拉致したる
すれ違ふ知らぬ足音鳥脅し
アルバムから剥がす笑顔よ初時雨
辻井こうめ
すべらかに鎌たたみをりいぼむしり
ソンナニモソシリハムナシ秋扇
新涼やうすむらさきのミント咲く
真円に少し足りないけふの月
中嶋紀代子
見える道まだ見えぬ道秋遍路
風の盆第六絶滅期のうちの
とんぼうのような人だと言われけり
民さんに例えられたる野菊かな
北村和美
稲光無声映画の冷えた椅子
点点と残る水滴いわし雲
休暇明筋肉の名を諳じて
電灯に声のなかりし稲光
羽畑貫治
検査日の水ばかり飲み菊日和
尻穴にカメラ突っ込む寒露かな
手を繋ぎあの日に戻る紅葉狩
身に入むや妻の眼差し杳として
永田 文
父祖の田や雲までつづく蕎麦の花
葉擦れ日のゆっくり揺れて涼新た
節榑の十指をかざす敬老日
草の花野にある如く瓶に挿す
中辻武男
秋今宵風が運べる遠太鼓
名月を眺めて祈る想いかな
来客に面影写す敬老日
まほろばとなりて光れる稲穂かな
堺市仁徳天皇百舌鳥耳原中陵にて。
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