香天集9月27日 岡田耕治 選
安田中彦
青水無月畳の上の蒙古斑
八月のこんなところに捨て人形
生誕の前に見たるは葉月潮
時間へと傾いてゐる蔦の家
玉記玉
自転車を漕ぐ鼻先に月触れて
敬老の日よ日時計に顔が無い
引く蔓の木通は遠くなるばかり
水澄むや耳に小石のあるらしく
森谷一成
一夜にて厠の蜘蛛の肥えてあり
こめかみを西日にさらし身罷らん
咲き切って置いてけぼりの曼珠沙華
蒸しパンの飛びゆく夜空あと野分
谷川すみれ
寒紅梅甘いものから広がりぬ
毛布毛布この懐かしき密度かな
極月の拾い揚げたる骨の声
みんなすっかり裸木空へ行く
中嶋飛鳥
月見草歩き続けて歩みより
休耕の賑わっている曼珠沙華
草の実の小さな声を聴く力
数珠玉や並びは一人ずつとなる
中嶋紀代子
秋の蝶翅を開きて呼吸せり
毬栗の黄色の重さ加わりぬ
ひとつぶの花を集めて女郎花
葉柄の雨粒並ぶオクラかな
古澤かおる
十六夜の猫は首輪を失いし
スーパーのカートの乱れ秋の風
月明り独りの夕餉すぐ終わり
秋の風国道側の窓開く
北村和美
九月来るポニーテールの毛先揺れ
休暇明け出会いがしらの顔と顔
思いきり息を吐き出し秋の空
山中や二匹のトンボだけとなり
松田和子
間引菜を散らし仕上がる釜飯よ
照りつける光に軽く赤蜻蛉
見張る赤友の便りの鷹の爪
キャンバスに絵の具を散らす夏嵐
安部礼子
雁渡しスマートフォンを送信す
触覚の眉持つ女雨月なる
シュミラクラ今三点の碇星
新聞の小さき切り抜き秋彼岸
吉丸房江
朝顔のただひと朝の色をして
強風の去りし朝なり酔芙蓉
生え揃う歯に弾け飛ぶマスカット
秋澄むや空の青さを心まで
櫻井元晴
店先に湯気立ててあり柏餅
夏の夕裸電球店飾り
クラスター近くに起こり赤蜻蛉
開かれぬ秋祭へと祭笛
*大阪府立北千里高校にて。
0 件のコメント:
コメントを投稿