香天集10月25日 岡田耕治 選
安田中彦
原子炉の長き緘黙小鳥くる
どこからも見ゆる檸檬に戦慄す
うたた寝の中にこつりと烏瓜
蝦夷地とは奪ひとるとは鳥兜
玉記玉
筆圧の強い蛇から穴に入る
一冊を煎じ詰めれば月明かり
レモン絞る嘘が本当に変わるまで
口笛を吹いて黄泉の紅葉まで
谷川すみれ
柚子湯にてひとり分の身と心
茶の花の忘れ去るには遠すぎる
望郷や雪やわらかき橋の上
山の気を集めて坐る鏡餅
木村博昭
穴惑この縄張りを侵すなよ
名月や愛蔵本の踊り出し
父に似て後ろ姿の案山子かな
月天心死は突然にやってくる
砂山恵子
草紅葉この世に無駄なことはなく
豊の秋牛乳瓶に飾る草
待つよりも待たせる君や菊日和
山肌に鳥の集まる良夜かな
加地弘子
みっつ程若く言おうか羊雲
枝のみがゴツゴツ歪み秋薔薇
もう走ることないと決め秋高し
椅子ふたつ金木犀の風静か
正木かおる
秋の芝髪を切り合う縁かな
鰯雲ひなたに戻す犬の小屋
カクテルや金木犀をひそませて
米櫃に生まれて閉じる命かな
安部礼子
あこがれと畏れまだらに後の月
楽曲のような話よロザリオ祭
羞らいも屈托もなし菊人形
魂のほぐるる礼文火の恋し
岡田ヨシ子
手を合わす今宵の月を見上げては
返信のメールを待ちて文化の日
九十を生きる友あり秋深し
洗濯をした川を行くつめたさよ
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