香天集12月20日 岡田耕治 選
石井 冴
わが椅子を誰かが運ぶ冬野かな
六林男の日背骨を立てて家を出る
葉を落とし大根を楽にしてやりぬ
家中の神に大根のよく煮えて
三好広一郎
軟膏の蓋が転がる年の暮
蓑虫の巾着あります奥へ奥へ
布団干すあぁ死にそうな遊びかな
目の中に白菜の瘦せていく音
夏 礼子
聞き役に徹すつつじの帰り花
青空の濃くなってゆく木守柿
鍋の湯が沸きすぎている憂国忌
花枇杷や回覧板は不急なる
中嶋飛鳥
弔いの墨に一滴冬の水
コーヒーの湯気よ数字を弄び
水洟のひとすじ切羽詰まりたる
入院の見つめ始める庭の枯
辻井こうめ
開戦日背山の笹の花咲けり
六林男忌や浚ひきれない潦
山眠る未読のままに戻す本
嘴太のみかんが二つ空駈くる
木村博昭
くさぐさの家庭菜園冬日向
湯の町を湯の川流る雪催
討入の日なり囲みを逃げてゆく
ポインセチア包みのままにするギフト
嶋田 静
ビートルズのイマジン渡る冬の星
波郷忌を真白に椿咲きにけり
山茶花や幼き写真胸にして
手折られし野辺の白菊香り濃し
櫻井元晴
蟹鍋のみんな無口になっており
粕汁の匂いが残り長電話
冬の雷愛犬だけのかくれんぼ
おひとつと蜜入りリンゴ差し出さる
永田 文
日をとどめ冬の紅葉のきわまりぬ
走る子と歩く子とあり初時雨
はたはたと風が落葉を追いかける
木の実食む唄うごとくに喉ふくれ
*岬町小島にて。
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