2020年12月6日日曜日

香天集12月6日 渡邉美保、三好つや子、浅海紀代子ほか

香天集12月6日 岡田耕治 選

渡邉美保
冬青空酸素ボンベが引き出され
言訳の前にマフラーはずしけり
裸木となりて走り根せり上がる
朝夕に海見る暮らし冬椿

三好つや子
顔のない一人となりて冬の駅
手袋につかのま眠る翼かな
極月の青い煙に巻かれたる
蛇眠る根の営みを枕とし

浅海紀代子(11月)
栗の飯家族の声のありにけり
大木の伐られし空や小鳥来る
赤き物まわりに増やし冬はじめ
冬来るとゆっくり戸口開けにけり

中濱信子
人声のなくなり秋の日の欠片
夕方になれば日当たる石蕗の花
掃いてゆく道に吹きたる落葉から
続柄こまかく話す日向ぼこ

浅海紀代子(10月)
人口の減りつづけたる遠花火
泣く声にあやす声あり白粉花
秋一日眠ることのみ残りけり
ぼんやりと私が見えて秋の暮
 
宮下揺子
ささやかな言葉の残る枯芭蕉
呑み込めぬ不快さは鰰の斑
閉鎖され八幡平道黄落す
神留守の図書館の本読み聞かす

神谷曜子
秋の蚊の攻めにあいたる一夜かな
揺れている理由を知らず泡立草
芒原置いてきぼりも悪くない
冬の烏瓜揺れ「お先にどうぞ」

羽畑貫治
等圧線大きく跨ぎ日脚伸ぶ
永らえて三寒四温ちぐはぐに
暖冬や五臓六腑の繋がりぬ
春隣子猫の瞳裏返る

安部礼子
枯睡蓮沈む岩へとなる途中
人間の代表として雪喰らう
悪役になるには早し北颪
小六月ジャングルジムに留まりぬ

吉丸房江
石蕗の花黄色の蝶を遊ばせて
万両のよくふくらみし日和かな
落椿二つ並んでいることに
土の力一つひとつに白菜巻く

楽沙千子(9月)
秋思ふと使い古しのペンダント
糸瓜水とるや落日始まりぬ
沖見えてこの道帰る花芙蓉
掛け声にかけ声返る秋祭
   
楽沙千子(10月)
親指を反らし殻剥く落花生
団栗をのせ掌のけがれなし
えのころ草急に夕日の透いてくる
きりぎりす藁の草履の心地して
 
楽沙千子(11月)
旧姓で呼ばれてよりの返り花
豆を剥く祖母の形となる秋思
畦急ぐ膝を湿らせ赤のまま
澄む水の音をひびかせバンガロー
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

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