香天集5月2日 岡田耕治 選
森谷一成
ぬきあしのシテの如くに水ぬるむ
直(ひた)土のよるべを花の色まさん
とぎめたて金物一式かぎろいぬ
かいやぐら向かい古舘工務店
渡邉美保
山藤の空気吸ひ込みさみしい日
国中が聞き耳立つる桜の夜
ほろほろと樹皮剥がれくる遅日かな
尻太き花蜂われを離れざる
釜田きよ子
啓蟄の虫歯一本抜かれけり
桜しべみんな正気に戻りけり
青空をより青くする桜かな
陽炎の芯で揺れいて視力表
辻井こうめ
改築のグループホーム燕来る
百年の楠の息蒔く春落葉
ひばり野や昔の笛を鳴らしたる
新聞の人事異動や飛花落花
前塚かいち
春の雨寝食だけの猫と居る
菜の花や転校生が島を離れ
チューリップ疫病神を笑っている
花冷の職員室にまだ明かり
浅海紀代子
朧夜の道は音なく眠りけり
身の内を透ってゆけり春の雨
突っ走る眼の左右麦青む
大男胸を濡らしてラムネ飲む
神谷曜子
虚ろなる時を継ぎ足し桜咲く
アルコール消毒に飽き紫木蓮
体内の安全地帯雁帰る
春昼のさびしき背中反らしけり
河野宗子
指切りをしたところなりさくら咲く
ゆっくりと海馬をゆるめ水温む
弟の納骨のすむ初音かな
西行と同じ忌日にして逝けり
牧内登志雄
たんぽぽの絮より生まる火星人
春筍の穗先取り分く厨かな
立つたまま眠つてゐるか修司の忌
海峽の汽笛を遠くしてははこ
松田和子
塩釜の中は「なになに」桜鯛
ホームから嘴の見え燕の巣
山桜気持ちが届く切手かな
雨粒をひとひらにのせ夕桜
桜淵陽子
約束の色は褪せない花吹雪
夜桜や五臓六腑の叫び声
野遊のマスクした子に尋ねけり
黙食中頬張っている桜餅
吉丸房江
ホーホケキョ吾に何やら物を言う
父母在らば今訪ねたき桜かな
竹の子の真直ぐにして曽孫生れ
想い出を広げていたりれんげそう
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
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