2024年6月23日日曜日

香天集6月23日 中嶋飛鳥、玉記玉、渡邉美保、木村博昭ほか

香天集6月23日 岡田耕治 選

中嶋飛鳥
翡翠と逢う約束の青堤
かたくなな心を見せる夏大根
長虫の胴の膨れをかなしめる
薄暑光かずき麒麟の後ろ首

玉記玉
彼の世とは芭蕉玉解き終える距離
双眼が触覚となる蛇の衣
我儘の凹んでいたる籐寝椅子
戦争を諫めてはいる水羊羹

渡邉美保
編みかけのままにれんげの首飾り
さみどりのポタージュに匙夏に入る
花楝暮色深まる石の椅子
はつなつの水音跳ねるイヤリング

木村博昭
祝杯の先に献盃白牡丹
なんじゃもんじゃ神と仏を習合し
大いなる雲の影ゆく燕子花
父の日の父を知らない子どもたち

釜田きよ子
バーコードの中の迷路や梅雨ひと日
にんまりと生きておりけりかたつむり
乳母車先に来ており木下闇 
噴水の止みて視線の定まらず

砂山恵子
噴水の水がひかりになる高さ
入梅か草の香りが強くなる
泉の音近くに聞こゆ明日は雨
母に似る小指のかたち実梅干す

神谷曜子
紫陽花の昼難解な展覧会
古墳群息づく気配梅雨の雲
青時雨道鏡塚の小さき屋根
きっとうまくいく夏霧の対岸

古澤かおる
河鹿笛いま耳鳴りを忘れおり
洗面の鏡の汚れ梅雨に入る
鳥の声する辺りから梅雨明くる
萍の水位上昇しているか

大里久代
十薬をきつけている指の傷
蜘蛛の糸頭にかかる難儀かな
植木鉢退けるや蟻の巣の露わ
五月雨の髪あっち向きこっち向き

北岡昌子
山門の修復続く若葉かな
病院に迎えられたる花菖蒲
紫陽花や色とりどりの植木鉢
青色の増えゆく畑蝶が舞う

〈選後随想〉 耕治
長虫の胴の膨れをかなしめる  中嶋飛鳥
 長虫は蛇の別名。自分の幅よりも大きな獲物を呑み込んだところだろう。蛙を呑み込んだとすれば、とうぜん蛇の胴の中でそれは暴れ、蛇にとっても、蛙にとっても痛みを伴う悲しさがある。それは、食って食われる生き物としての連鎖の哀しさでもある。その姿を「かなしめる」飛鳥さんの思いの中には、一週間から十日ほどもかけてゆっくりこの獲物を消化していく命への愛おしさが在るにちがいない。鈴木六林男師に「石蕗の花ここにあつまりかなしめる」という俳句があり、この「かなしめる」がいいなと思ってきた。ここにまた一つ、忘れられない俳句が誕生した。
*岬町小島にて。

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