2025年10月26日日曜日

香天集10月26日 中嶋飛鳥、神谷曜子、古澤かおる他

香天集10月26日 岡田耕治 選

中嶋飛鳥
夜の秋あんパンを割り寄越しけり 
回復のひとつひとつの秋の声
赤い羽根すぐ善人の顔になり
雁皮紙へ秋気をこぼす筆の先

神谷曜子
虫の声今日に塗り込む痛み止め
一歩ずつ離れる人よ草紅葉
同化せず色なき風と遊びけり
曼珠沙華心のゆくえ探しおり

古澤かおる
港より見る本物の鰯雲
籾殻の中に休める甘藷かな
新秋の仏花長持ちしていたり
少年の返事短し秋涼し

長谷川洋子
渋皮煮瓶に詰めおく丹波栗
豊作の庭の山栗弾け散る
花芒父が好みし「御代栄」
おぼつかぬ足取り一歩落葉踏む

釜田きよ子
曼殊沙華昼には見えぬ夜の貌
秋の昼思うところに届かぬ手
公園に子供の声やトンボ来る
村人のつもりでおりし案山子かな

安部いろん
旅立ちを見抜かれてあり稲光
秋暑し空は遠近法の雲
関心を引かせるための彼岸花
桐一葉見送りされている途中

北岡昌子
稲荷社に顔だしている甲虫
向日葵が一本残り植木鉢
秋涼しオペラの声を響かせて
高校の同級生と秋入日

西前照子
善哉で仏を迎え家族にも
リハビリの心をほぐす笑い声
赤蜻蛉パターの邪魔をしていたる
さつまいも心弾ませ蔓を切る

〈選後随想〉 耕治
赤い羽根すぐ善人の顔になり 飛鳥
 赤い羽根をつけると、その人が社会の一員として他者への配慮を示す「記号」を身につけたことになる。「すぐ善人の顔になり」という描写には、その顔が内面から湧き出たものではなく、善人を演じているかのようなニュアンスを感じさせる。赤い羽根というスイッチが入った途端に、日常の顔から「社会的に正しい顔」に切り替わる人間の習性を皮肉っているようだ。共同募金という善行を詠みながらも、その行為の裏にある人間の承認欲求や、社会的な規範に合わせた振る舞いというものを捉えており、現代社会に生きるわれわれの意識の深層を捉えようとする、飛鳥さんならではの一句だ。
*見届けん全ての柿を木守とし 岡田耕治

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