香天集11月9日 岡田耕治 選
三好つや子
平凡を全うしたる穂紫蘇かな
歯を抜かれ何だかひょんの実の気分
花煙草遊びの音のしない町
小春日の空気ふくらむ卵菓子
佐藤諒子
獅子四頭それぞれに舞う秋祭
坂道のちょっと日溜り金木犀
行く秋の交差している鳥の声
ひりひりと落葉うず巻く風の音
秋吉正子
両腕にワクチン注射冬に入る
くちてゆく空家今年の柿たわわ
発表会終わるも同じ秋の空
タウン誌に名を見つけたと青レモン
牧内登志雄
青女踏み百度参りの満願す
伸びをして五尺五寸の日向ぼこ
ガザまでの遠き道なり神の旅
煮凝の角の崩れる屋台酒
西前照子
十五夜の姿を見せぬ薄の穂
ハロウィンの雨に降られし南瓜かな
子芋むく月に一品お供えと
秋深しワールドシリーズ終わりなば
川村定子
扇風機横向きしまま止まりけり
立冬や空清浄の往診日
痩せた手で冷房を切り暖房へ
車座の炎に落ちる雪一片
大里久代
吾亦紅こうありたいと思う花
分けくれし大根の葉を和え物に
椿の実弾け飛んでは種さらす
道に沿う黄花コスモス風起こる
北岡昌子
秋日和山門描く五年生
立待月木木の間を見えかくれ
後の月池の水面を揺れ動く
亀岡のコスモス畑急ぎおり
〈選後随想〉 耕治
平凡を全うしたる穂紫蘇かな つや子
穂紫蘇は、その香りが料理の脇役として使われ、目立つ存在ではない。しかし、夏に青々と葉を茂らせ、秋には花を咲かせ実を結ぶという、植物として当たり前のことを果たす姿は、まさに「平凡を全うした」ことの象徴だ。平凡という言葉は、つまらない、取り立てて言うこともない、といったネガティブなニュアンスで使われることもあるが、この句では、それを「全うしたる」と表現することで、静かで満たされた心の有様を肯定的に表現している。華々しい活躍や波乱万丈の人生ではなく、ごく当たり前の人生を、静かに、しかししっかりと生き抜いたことへの、敬意が感じられる。穂紫蘇は、つや子さんそのもののように感じられるが、その地道な努力が評価され、この度、第4回鈴木六林男賞の大賞を受賞した。おめでとうございます。
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