2026年2月1日日曜日

香天集2月1日 渡邉美保、森谷一成、浅海紀代子、辻井こうめ他

香天集2月1日 岡田耕治 選

渡邉美保
犬酸漿の実の黒黒とお元日
冬林檎煮詰めるほどに湧く邪心
凩や火焔土器よりこゑの出て
確かめる手だてのなくて海鼠食ふ

森谷一成
孝行の凭れていたり初湯殿
入墨も鉄漿(かね)もありけり初鏡
頬桁の火照り群がる宵戎
枯かずら垂るる下枝(しづえ)に女の眼

浅海紀代子
新聞に師の俳句読む冬ぬくし
冬の雷黙を怒りとして歩む
再会に老いを確かむ枇杷の花
眉墨に齢を深め水仙花

辻井こうめ
キッチンで姪と交はせり年の酒
正月の凧糸渡る手から手へ
この先に抜け道あると寒波来る
雪だるまただ泣き声を聴いてゐる

砂山恵子
遺伝子は無限に憑依月冴ゆる
冬晴や馬跳びの子の長き腕
鷹の目は小惑星の隙間見ゆ 
よろしくと一筆書きて河豚を食む 

釜田きよ子
冬木の芽言葉熟するまで待ちぬ
実南天この世の赤は美しき
三人目の兄弟となり雪だるま
午後からは少しニヒルな雪達磨

北橋世喜子
石臼のかすかに音す走りそば
夕の膳柿の俳画を添えてあり
大輪の菊の小さくなりにけり
手のひらの柿の落葉の色無限

中島孝子
青首の大根まっすぐ伸びる袋
蜜柑剪る父が残した一つの木
メール来る故郷初の雪景色
荒星の降りくる道をペダル漕ぐ

半田澄夫
熱燗や注ぐ口上の上手い人
今日のおでん屋台の味のしていたる
木枯や過去の彩り無色とす
開戦日危機論争を聞く炬燵

橋本喜美子
黒雲に睨みつけられ冬の暮
花柊頷き合へる人のあり
銀杏の十粒ほどなる土産物
一夜にて薄化粧する吊し柿

川合道子
紅葉や日陰と日向混ざり合い
覚悟決め帰宅しており冬の空
丁寧に剥きし蜜柑の皮匂う
冬晴や雲翳あまた山肌に

上原晃子
ゴツゴツの菊芋を炒る夕餉かな
浮見堂逆さに灯り秋の暮
青を突きメタセコイヤの枯れ光る
銀杏黄葉フェイスペイントする子の笑顔

林おうはく
山里を一筆掃くや冬の朝
来し方に言い訳探す後の月
ポケットの小銭の始末赤い羽根
神無月初めの風が吹きすぎる

石田敦子
石蕗の花瀬音の流れ離れずに
石蕗の花介護認定そのままに
小春空ラリーの続く打球音
大根の長き一本思案せり

市太勝人
銀杏落葉きれいに感じ移動中
仕事中暖房のなか半袖で
あっちこち学級閉鎖咳ひとつ
宅配の歳暮が走るしんどいと

東 淑子
南天や春の彩り鍛えたる
蜜柑山一杯に咲く眺めかな
さつま芋ふかしておればきんとんに
艶やかな蕾から咲く山茶花よ

吉丸房江
すくすくと老いて迎ふる冬の坂
何処よりもこの場所が好き実南天
艶めける諸肌ぬいだ大根かな
柊は年を齢を重ね丸い葉に

〈選後随想〉 耕治
犬酸漿の実の黒黒とお元日 渡邉美保
 元日のことを「お元日」と書いているので、めでたさを感じる。めでたい時は、紅白とか金銀を取り合わせるが、ここは「黒々と」だ。しかも「犬酸漿(いぬほおずき)だから、道端であんまり見向きもされず、その実には毒があると言われているもの。美保さんの、「黒々と」という色、道端で顧みられない「犬酸漿」、そして毒を持つ実の取り合わせは、華やかな「お元日」の裏側にある、世の不穏な空気や、決して晴れやかさばかりではない現実を象徴しているように感じられる。

孝行の凭れていたり初湯殿    森谷一成
 「孝行のもたれていたり」という表現から、親を連れて温泉や銭湯に出掛け、正月の湯殿に一緒に凭れているという情景が浮かぶ。しかし、「孝行」を行為ではなく、その人と取った場合、孝行している人が初湯殿にもたれている姿が浮かぶ。親孝行をした人、人のために尽くした人が、初遊殿でしばらくの間、自分自身の時間を持っているという捉え方ができる。森谷さんが選んだ、この「孝行」というキーワードはとても幅広く、面白い。

冬の雷黙を怒りとして歩む 浅海紀代子
 何かを言いたい、あるいは抗いたいけれど、声に出すことができない。その抑圧された「黙(もだ)」が、自分の中で静かな「怒り」へと変質していく。ただ、この句は立ち止まっていない。激しい冬の雷が鳴り響く中、自分の中の怒りを見つめながら、一歩一歩踏みしめて歩いていく。そこには、困難な現実や自分自身の葛藤から逃げずに生きていくという、紀代子さんの強い意志が感じられる。周囲に対して、あるいは運命に対して声を上げられないもどかしさ。それを怒りというエネルギーに変換し、冬の厳しい雷鳴を背に受けながら進んでいく。孤独だけれど、決して折れない姿が、寒空の情景の中に浮かび上がってくる。
*冬かもめ身をほどきたる岩のあり 岡田耕治

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