2016年5月1日日曜日

香天集5月1日 石井冴、安田中彦ほか

香天集5月1日 岡田耕治 選

石井 冴
クレーン車に人が小さく山壊す
プレートはつつじの花に埋もれたる
青蔦の走る校舎を毀ちけり
後ろにも日があり青鷺の直立

安田中彦
大阪や春服の犬ありきをり
牽引の骨が鳴ります春ららら
春落葉ときに家禽の捌かるる
哀しみの人へ新樹を一揃ひ

中嶋飛鳥
靴鳴らす信太の杜の春落葉
日本桜草は答えを知っており
筋肉を痛みの動く花曇り
三十回噛むことを課し春を送る

橋爪隆子
ボールペンに機嫌のありて春の昼
集合の声のかかりし土筆かな
春光と練羊羹を運び行く
行き先はこれから決める花衣

釜田きよ子
ドローンとも仲良くしたいしゃぼん玉
どうしても赤く塗りたしチューリップ
陽炎の入っておいでと声のする
掛け軸の虎の慟哭春の地震

大杉 衛
霾ぐもり返信を待ち老いゆけり
ひとはみな坐り直して端午の日
折り返し地点は渇き麦の秋
麦の秋点線に沿い切り抜いて

橋本惠美子
風光る電動自転車充電中
これからの暮らしを想い雛納め
枝垂梅折れる手前を盛りとす
補聴器のかわりを務め春隣

中濱信子
白壁の閑かさにあり日脚伸ぶ
木蓮の白早天を呼び寄せて
春埃して不動明王緩びたり
ふるさとの櫻の見える失意かな

前塚嘉一
ひとりごはんふたりごはんの浅蜊汁
父と子の二人暮らしや君子蘭
春嵐パキリと折れる傘の骨
春嵐神は沈黙しておりぬ

浅海紀代子
菜の花や記憶の径の繋がりて
衣擦れの路地を行き交う春祭
燕の巣見上げて朝の始まりぬ
たんぽぽの境界線の煙りけり

木村 朴
一樹づつ花の名を誦み通り抜け
陽炎の向かう警察機動隊
蜥蜴出て突掛草履驚きぬ
一角はソロプチミスト牡丹園

藤川美佐子
行く春の真っすぐとある道標
母の忌の声を届けて山桜
考妣とともに愛でおり夕牡丹
牡丹明り淡きは妣の名残とも

森谷一成
ほそみちを縫うて追いけり春の月
秒針の力尽く日の春愁
濡れぬ地のかけらに群れて四月尽
口下手の漢集まり花菖蒲

坂原 梢
ものの芽の上手に作る萌葱色
手帳には約束つまる聖五月
逃げ水や胃によりかかる膵臓癌
途中から無邪気になりし春嵐

浅野千代
吹かれ来て形をなくす花の塵
百千鳥東言葉の女子ら去る
花の寺までの二千歩想いけり
花冷の公園にいるリスに歌う

羽畑貫治
腹一杯麦飯食べて俟っており
ピン球に開花の便り届きけり
いかのぼり気管支炎を落ち着かす
癌探る磁気を通りし青時雨

越智小泉
追い追われつつ初蝶とゆく散歩
遠目には滝かと想う雪柳
対岸のさくら七年独り見る
風車走ることしか児は知らず

古澤かおる
春の月三匹並ぶ招き猫
手を振る父お辞儀する母おぼろ月
ホーホケキョゼロ歳からの英会話
夕桜名前で妻を呼んでいる

立花カズ子
うららかや親子の亀の賑わいて
亀鳴くや妹の唇まじまじと
癒えし身の桜あかりの中に立つ
青天や花の中なる鳥の声

岡田ヨシ子
頭上飛ぶ魚を見つめ春の海
ゆっくりと歩む曾孫を舞う桜
淡路島描きたくなる春日影
鶯や畝を作りし鍬休め

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