香天集5月29日 岡田耕治 選
石井 冴
春泥のジャングルジムから顔を出す
夏に入る日髙先生の木の机
誘いしか誘われいしか罌粟坊主
夏日影顔を幼くしていたる
中嶋飛鳥
麦秋の聖書の音声ガイダンス
顔伏せたまま緑雨に濡れたまま
山法師向う岸より父の声
切岸の奈落へ急ぎ黒揚羽
橋爪隆子
囀りの中の一羽を大きくす
新涼のリュックをならし電子音
夏帽子考え方を変えてみる
発車ベル鳴りつづけたる薄暑かな
橋本惠美子
春寒や地蔵菩薩の手が荒れて
春寒のブルーシートが包みたる
人間の気配を消して菜種梅雨
黄砂降る地蔵の眼閉じしまま
前塚嘉一
天上の母にカーネーションを描く
父と娘の暮らしの中の君子蘭
朝顔を植えて脳内安定す
電線の適度な間合い夏つばめ
釜田きよ子
濁ること全く知らず花十薬
花水木今日はオムレツ気分にて
恐竜と信じておりぬ蜥蜴の尾
陽炎を抜けて一皮剥けてくる
高橋もこ
どの道を行っても蛇が出て来そう
薄目して蟇が大きくあくびする
鋭角に追えば尺取立ち上がり
黒揚羽来てわがドアをノックする
浅海紀代子
ビルの間に機影を送り春の果
手垢付くドアを開きて夏迎う
頼られることもなくなり立葵
駐在の赤い自転車柿若葉
宮下揺子
豆の花義理人情の渦の中
ペンギンの行列につく子供の日
子供の日佐久間ドロップ缶ならし
憲法記念日摺足で母の来る
中濱信子
父と子の校歌は同じ春の山
文読んで優しくなりぬ花の雨
鯉幟嬰の手何を掴みいる
コンパスが錆びて出てくる昭和の日
坂原 梢
自転車の白髪よぎる五月かな
せせらぎの若葉を囲みフルコース
花は葉に人工関節すっと立ち
春休み尾根たどりゆく深呼吸
大杉 衛
裏返り八十八夜の次の夜へ
更衣見えるものみな水色に
ガラス拭くだんだん夏の見えてくる
晴れわたり矢車草の野となりぬ
木村 朴
鯉幟里に子供のゐずなりぬ
稚鮎跳ぬ大青空に招かれて
羨道を塞いでゐたる蜘蛛の糸
足拍子地より涌き出て夏まつり
藤川美佐子
日めくりや五月の風の吹きぬけて
紙風船吹いて子の息母の息
約束の一転したるカーネーション
待ちきれず悪戯好きの金亀虫
小崎ひろ子
色の濃き紫つゆ草今朝はあり
若者のドラマの暗さ風薫る
紫陽花は不在蕾のない時間
雨音を懐かしくして読書灯
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