2016年7月3日日曜日

香天集7月3日 中嶋飛鳥、石井冴、玉記久美子ほか

香天集7月3日 岡田耕治 選

中嶋飛鳥
六月の雨を観音開きより
水無月の釘の頭を打ち外す
香水の力を借りる別れかな
緑青の兜人形の汚れよう

石井 冴
柿の花わざと手荒くしていたり
青柿の落ちたるところ顔がある
遊船やスタバの窓を通り過ぐ
折鶴は人から人にサングラス

玉記久美子
万緑や翼あるもの空を持ち
ざりがにのはさみがみえるおしずかに
裏返るたびエンゼルフィッシュ軽くなる
夏の月本に挿んでおくとする

木村 朴
碑に並ぶ同じ苗字や沖縄忌
肩凝りも腰痛もなくなめくぢり
吉報につづく訃報やさみだるる
黴の花淫らに咲いてゐたりけり

前塚嘉一
万緑の中の患い緑内障
短夜の雨音のあとバイク音
青梅に蜂蜜足せと電話来る
九条を運んでいたり夏つばめ

坂原 梢
コンサート青葉の中に始まりぬ
風の湧く湖面のありて燕子花
天道虫男の胸に突きあたり
午前九時までに開きて白睡蓮

澤本祐子
吹き来るもの見えている黄砂かな
薫風の曲がりきれない角のあり
クレーンのみどりを連れて桐の花
梅雨最中日の差しそうな山明り

橋本惠美子
草むしるスケートボードに膝を置き
著莪の花六文銭を掘り起こす
胸元の四十五度のサングラス
決心を確かめている黴の花

釜田きよ子
暗闇に象形文字を描く蛍
無印で生きた男のカンカン帽
黒船が来るぞ来たぞ立葵
恋文は落し文てふ手もありぬ

羽畑貫治
麻酔から覚める息あり夏の蝉
知らぬ間に父の歳越え桐一葉
手術後の人生にして髪洗う
二本杖五体押し上げ盆の月

森谷一成
蒼天のプールを抱いて岸壁へ
巨なる舳の波のスローモーション
香水を鎧う異国の五月闇
客船が往くカプセルの舟を佩び

安部礼子
夏の夜の夢を映して珠歪む
滴りのときに辞世を導きぬ
散松葉原発稼働する国の
水中花捨てられること忘れたる

浅野千代
梅雨晴のテラスにて糸鋸を引く
ハンケチを振るイギリスの踊りかな
不羈ならぬこと許す不羈祭笛
余所人に優しきところ花火舟

越智小泉
さくらんぼ仏間明るくしておりぬ
園児らの声新緑を深うせり
早苗田や長き散歩となりにけり
太陽に下向き咲ける茄子の花

村上青女
奥入瀬の渓流どこも緑映ゆ
手作りの添水の音や蛍草
目に入る大き花びら泰山木
追悼の重なる夏や島一つ
※写真は、天王寺キャンパスでみつけた夏薊

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