香天集8月21日 岡田耕治 選
安田中彦
伐る前の竹のあをきに触るるなり
鮭のぼるひかり川瀬の光とも
キリン舎の主は不在星流る
滅びゆくものの親しさ星流
谷川すみれ
着水の真雁ひと口水を飲む
降りしきる紅葉の中の階段よ
石たたき石の時間を啄みぬ
ひと粒を拾いてもどす今年米
橋爪隆子
蜜豆の暗きに匙を差し込めり
滝に来て一人一人となりにけり
盗塁のスタートを切る雲の峰
新涼の鏡の鼻を拭きにけり
戸田さとえ
余花の雨昔を話す人逝けり
花の雨親子の牛の売られ行く
疎開の子いずこにもいて原爆忌
大旱がぶがぶのんで井戸の水
中辻武男
群青の茅渟の海かや雲の峰
正午かと想う黙祷終戦日
物語る星が煌めく夜半の夏
妣に似た笑顔のありて盆踊り
【選後随想】
伐る前の竹のあをきに触るるなり 安田中彦
九月から十月頃が竹を伐る好機とされていますが、その頃の竹がもっとも青々としているように感じます。竹を伐ってしまいますと、命は一旦そこで止まりますので、その前に竹の命と繋がっておこう、そんな命と命の交流のひとときが想像されます。やがてこの私の命も止まるときがくるのかと、そんなことを思いやることになったのかも知れません。
ひと粒を拾いてもどす今年米 谷川すみれ
新米を袋から出して、容器に入れます。まずその香りをたのしんで、一粒つまみ上げて、形や艶を確かめます。今、米づくりが最も手間のかかる作業になりましたが、そうであればこそ、一粒一粒を大切に味わいたい、そんな作者の姿勢が感じられる一句です。
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