2017年3月26日日曜日

香天集3月26日 谷川すみれ、石井冴、加地弘子ほか

香天集3月26日 岡田耕治 選

谷川すみれ
にんげんはにんげんが好き雲の峰
匂い合うようあめんぼの子どもたち
そろそろ帰ろうと噴水に指
繍線菊のこの世を過ぎる濃くなりて

石井 冴
どこにでも鴉は居たり春休み
楽楽とロープで吊るす春の家
苗木百本人に短き春日かな
オランウータン一対一なら春思

加地弘子
ちゃんちゃんこ今日は私が着ておりぬ
春雪の相合傘の老いてゆく
よくあたるボールのありて沈丁花
山桜昔話はいやですか

橋爪隆子
下萌の駆け出して来るベビー靴
春の辞書電池換えよと命じたけり
意地通す程に降りくる春の雪
アザレアやビンゴゲームで落としたる

中濱信子
十まりの二輪を選び冬薔薇
啓蟄や解けぬパズルの四字熟語
春の雨しっとり重きカステイラ
折鶴に吹き込む息のあたたかし

藤川美佐子
雑木の芽ピエロの形していたる
どの窓も春の光のパトロール
春の宵隣の席にもう一人
傷口にやさしさしみるすみれ草

木村博昭
異国語を聞きつつ育ち牡丹の芽
亀鳴くや喉の詰りを引き受けて
のどけしや闇より覗く三の丸
ジーンズが十二単の野を駈ける

北川柊斗
恋猫や洛中ことに華やぎて
切立の石垣見上げ西東忌
啓蟄のしじまをピーと鳴くケトル
春の闇ぬつと獣の匂ひして

安部礼子
初蝶来デジャビュとなりし陽のかけら
初蝶来心に翅の欲しきとき
高き風渡り卒業子を送る
花びらを集めておんな姥となる

立花カズ子
満開の梅に逸れたる散歩かな
雛納めあと十回は逢いたいね
白木蓮一本残し売家に
早朝や満開の花一人占め

古澤かおる
プリムラの鉢に変わりて眼鏡店
春宵の嵩む冷凍ごはんかな
首塚の後ろから吹く春の風
耕して山の交信始まりぬ

中辻武男
喉にある風邪のかけらの気にかかる
老いてなお美し朝の寒桜
雛納め母が少女に諭すなり
坊ちゃんの出で湯に浮かび春の旅

永田 文
電卓に数字が点り鳥交る
空映す仔馬の眸走りけり
鳥の声ちりばめてあり桃の花
桃の花丈低くして空の青

村上青女
雀卓に老いたる笑い春を呼ぶ
ひな寿司に歓声上がる老人会
春浅し小さき人に会いに行く
先駆けの新緑にして沖縄島
*上六句会会場のホテルに活けられた桜。

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