玉記 玉
糞の白とりの瑠璃いろ春立ちぬ
全員がずっと横向いて菫
陽炎の橋を渡りてより地べた
これは鎖骨これは肩紐水温む
加地弘子
風花に一回転の隣の子
息白し軽く一周して来たと
出せば降り入れれば止みぬ春の雨
老木の半人前の芽ぶきかな
久堀博美
花種選るひとりは筆を走らせて
何探しいるのか忘れ春の月
いちご盛る十人分のヨーグルト
いちどきに鳥の羽音やきゃべつ畑
橋本惠美子 (三月)
糸遊や回覧板の小走りに
雛壇の下から覗く機関銃
雛飾る十年余り閉じ込めた
牡丹雪資格はどれも紙になり
宮下揺子
ローマ字のエンドロールに春立ちぬ
「沈黙」の50年後の冬の涛
冬木の芽見えぬ天上蹴りあげて
極寒のなかのラスコーリニコフの背
釜田きよ子
雪女苦労は顔に出さずして
猫柳水を甘しと思いけり
たましいを遊ばせており浮寝鳥
湯気のものすべて馳走の二月かな
三好つや子
春立つや舳のような靴の反り
きさらぎの木の芽ドレミの匂いする
淹れたての炭焼コーヒー笹鳴けり
遠く来て駅の出窓の立雛
浅野千代
ピンで留められ初蝶の美しき
遠足の日を待つ足に指十本
夕永し少し遠くにフラミンゴ
一人子の寂しき宇宙かぎろえる
坂原 梢
如月やフロントガラスのおもてうら
踏切りの前の野地蔵黄水仙
ひろびろと誰も踏まない犬ふぐり
薄氷を割り未知数の現れる
浅海紀代子 (二月)
鬼よりも人恐ろしき追儺かな
鉛筆の芯を尖らし春隣
訪う家の梅の香をくぐりけり
碁盤のみ坐らせており春の闇
森谷一成
半球の南も二月語り部よ
目論んで晒す二月のまぶしさに
紅梅や飛行機はくちづけを遂げ
寿の字面のように梅のそら
中濱信子
女正月予定の狂う電話あり
毛糸編み混ぜる現在過去未来
霜柱踏んではじまる一日かな
柊挿す祖父と二人の昔あり
浅海紀代子 (一月)
シャンソンを口遊みおり着ぶくれて
冬木の芽親の歳月続きおり
猫の来て薬売り来て冬日向
綾取りに母の指入る春隣
越智小泉
学童を目がけて霰降ってくる
春潮の洗う礁や見て飽きず
風呼んで山焼の焔の猛り出す
下萌えて会釈の増える散歩かな
村上青女 (二月)
菜の花も蓮華も遠くなりにけり
祖母と母近き忌日の梅の花
雀卓を囲む老女ら春の雪
石蓴海苔緑の帯の湾に出づ
戸田さとえ (三月)
身ほとりに薬のふえて涅槃西風
薄氷や鯉の動きの見えてくる
風紋の型それぞれに雪の朝
すて猫のだんだんふえて春隣
小崎ひろ子
ふるさとの百合の地下茎斬りすすむ
生きがいは生業になりにくく春
い寝ぎわにふるえるスマホ更の月
山茶花にモールス信号鳴らす風
*泉佐野市内のカフェにて。
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