狼の不壊の目玉に雪が降る 高野ムツオ
「俳句界」6月号、特別作品「飯館村」50句。「山津見神社に狼の天井絵あり」とサブタイトルがついている。4月22日に関西現代俳句協会の総会があり、その記念講演で高野さんが、この山津見神社の狼の絵について次のように話された。全村避難が続く福島県飯舘村にある山津見神社には、200枚以上のオオカミの絵が天井を飾っていた。原発事故後も、避難先から住民が参拝に来られるよう、宮司や家族が拝殿を開けていたが、2013年に火災で全焼してしまった。
人々の努力で、昨年の6月に神社を再建し、11月に全ての天井絵が復元されて戻った、と。高野さんは、正岡子規や佐藤鬼房の狼を詠んだ俳句を引きながら、狼を恐れながら共存していた時代から、狼は敵だと撃ち殺す時代への変化が、実は原発事故につながっているのではないか。復元された狼は、草原に寝そべったり、じゃれ合ったりと、表情豊かである。この豊かさがこの国のものの見方、我々が書いている俳句を育んできたのだ、と。
「不壊(ふえ)」とは、こわれないこと。全焼した天井絵は、その半年前に絶滅したニホンオオカミの研究のために和歌山大学の教授が写真家を連れて撮影していたこと。別の場所に奉納されていた同じ作家の狼の絵が、見つかったことも復元に一役かったこと。そのようにして、こわれなかった狼たちの目玉は、再び福島に降る雪を、ひいてはこの国を、静かに視つめている。
*高野ムツオさんが講演中に映したスライド、復元された狼たちの天井絵。
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