2018年3月4日日曜日

香天集3月4日 久堀博美、渡邉美保、森谷一成ほか

香天集3月4日 岡田耕治 選

久堀博美
風花やいつもの橋のたもとまで
思いつめ林檎芯まで齧りけり
バランスを崩していたリ落椿
草萌や二つの椅子を近くして

渡邉美保
割るためにバケツから出す薄氷
逆光の馬のたてがみ春の水
春の雲屋根屋づかづか屋根歩く
陽炎や女は太き尾を隠し

久堀博美
いつの間に痞えを忘れ春の星
まだ固き桃の蕾の数知れず
花冷す大の男を叱りしあと
蝶飛んでジグソーパズル完成す

森谷一成
国歌鳴る歪みながらに雪催い
枯山の廃車一体朽ちたくも
変わらずに生き残る寒鴉かな
さむかぜの波のさんかく鱗をなし

宮下揺子
雪催い残さず食べる朝餉かな
冬木の芽記号のように名を呼ばれ
産土や自分をなぞる雪の道
酒蔵を出て木枯の人となる

神谷曜子
ビニールの袋に入れて冬の星
いつもの木雪の木となり輝けり
老健の塗り絵の中を菫咲く
着膨れて風の古墳に登りけり

浅海紀代子
片付かぬ物横たわる寒さかな
木枯の入眠剤に紛れ込む
句座となる川辺のベンチ春隣
春立つや善女となりて神の前

坂原 梢
教え子は師より年上春火鉢
遠くまで翼を展げ鳥帰る
冴え返る二隻の呼吸漁師網
初旅の船出のロープ巻かれけり

中濱信子
息吐いて真冬の空をやわらかく
風花や地蔵の願い一つにし
一番は飯に割りたる寒卵
大根煮コトコトコトと励まされ

北川柊斗
饒舌なるマガジンラック春きざす
再会のまほらに春の来りけり
白梅やふるる風みな上仙す
たをやかに筆をはこびて曲水宴

羽畑貫治
艶やかに蛇穴を出て身を反らす
腰を張り膝を屈めて菊根分
卒業の祝辞命が一番と
身構えてすっくと跳べり春の雁

越智小泉
薄氷を見れば踏みたくなる童
群れ鴎視界はすべて春の海
猫の恋我が庭にあるけもの道
白鳥のゆるり向きかえ水温む

村上青女
数多なるたこ壺ぶつかる北の風
たこ壺の山越えてくる北の風
生きている草や大地は冬最中
玻璃越しの冬オリオンを探しけり



*和歌山県古座の一枚岩にて。

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